合同パーティとプルトガリオ渓谷
プルトガリオ渓谷。
新たに解放されたフィールドは、そんな名前だった。
「アトラリア砂道とは、エラくフィールドの方向性が違うな」
「そう似通っていても、面白くないでしょ。私はそのアトラリア砂道を知らないけど」
渇いた砂と、太陽に照らされていたアトラリア砂道とは対照的に、プルトガリオ渓谷は草木が生い茂り、時折蛍のように光る、ほのかな青い輝きの群れが微かに照らす山道が見える程度の、夜の渓谷フィールドだ。
「ちょっと暗過ぎじゃね?」
「確かに、見通しが悪いな」
そう、プルトガリオ渓谷は暗いのだ。真っ暗といっても言い過ぎちゃあいねぇな。
安全エリアにもある青い光へと近付く。群れの正体は虫だった。
バフ毒虫の時と同じ、[取る]のアイコンが出たからそれをタップしてみた。
そいつは「輝虫[ブライトネスブルー]」という名前でアイテムパックに仕舞われた。
『草木の多い地域に生息する、光を放つ虫。
その地域が持つ環境によって、放つ光の色が変わる。』
だそうだ。つまりこいつはブライトネスブルーという色に光る輝虫、という事だな。
(……? 素材アイテムだと? 後でアクセサリショップに行ってみるか)
とりあえず、この輝虫の放つ光があるおかげで、そいつらの周囲だけ僅かに見えるかなって感じだ。
「それに、凄い静か」
椿の言う通りだ。アトラリア砂道も静かと言えば静かなのだが、それとは違う。
モンスターの気配というか、モンスターが居る気がしない。青い光の周囲に動くものが無いのだ。
「どーすっかな……」
と考えていると――。
「くそ! あんなの卑怯過ぎるぜ!」
「勝てるかっての!」
と吐き捨てながら、四人組のプレイヤーが安全地帯へと飛ばされてきた。口振りからすると、パーティが全滅したっぽいな。
全滅までいくって事は、結構ここの敵は手強い……?
「なぁ、この先はどんな感じだった?」
とりあえず、どんなモンスターが居るかとか、どうやって全滅したとかは聞いておきたい。
俺は四人組パーティへと声を掛けた。
「あぁ。まずは見ての通りに真っ暗だよ……って! え!? あんた銀水晶か!?」
「えっ! あの銀水晶!? ホンモノ!?」
俺と視線を交わしていたパーティのリーダーらしき男が、説明をし始めたと思ったら、途端に俺を指差しながら、驚いた声を上げ出した。
銀水晶の言葉に反応し、後ろに控えていたちっこいプレイヤーが、リーダーの男の脇からひょこっと出てきた。
「うん。まぁそう呼ばれてはいる」
「……いや、驚いたよ。……よしわかった。
細かく説明していくから、良かったら一緒にこの渓谷を探索しないか?」
「うん、宜しく頼むよ」
「こ――」
「こちらこそ!」
リーダーらしき男の声を遮るように、ちっこいプレイヤーが俺の目の前に出てきた。
俺はそのちっこいのと握手を交わし、俺達全員は、互いに軽く自己紹介し合った。
どうやらこの四人組パーティは、『Zephy;Lost』の精鋭四人組らしい。
あいにく今日はいつもの二人が居ない為、俺達と同じく、軽い探索を目的に今回はプルトガリオ渓谷に来ていたようだ。
パーティのリーダーで剣士職のムザサ。
……と、同じく剣士職のルーア。
二人とも同じ剣と盾を装備している。
流石に四大ギルドに所属する精鋭プレイヤーなだけあって、一定値以上の装備は身に付けていそうだな。
それでも、今の時点ではテュリオスの方が高級な装備をしているだろうけど。
同じく剣士職のオウミ。
パーティのメインアタッカーなのか、オウミの腰元には左右で剣の鞘が提げられている。
ここに来て初めて見る、二刀流剣士のちっこい奴だ。
そして槍職のエレナ。
四人の中で唯一の女性プレイヤーで、スミレが持っていたものと同じ、青レアのスティールパイクを握っていた。
話をしていくと、エレナ以外の三人も青レア武器は持っているようなのだが、武器の強化が出来るようになり、手持ちの緑レアを今の時点での限界値まで強化してみると、こっちの方が性能が良かったらしい。
だからエレナ以外の三人は、ひとまずは緑レアで武器を固めているそうだ。
思考やムーヴは、まるっきり攻略プレイヤーのそれだな。感心するぜ。
逆にエレナは緑レアの武器を持っていない為、持っている武器の中での最高性能は、青レアのスティールパイクだとの事。
「オウミはどうして盾は使わないんだ?」
二パーティ合同でプルトガリオ渓谷の安全エリアを抜けた俺達。
先へと歩みを進ませながら、俺はオウミへと話題を振った。
こういった、独自の戦闘スタイルを持つプレイヤーを見ると、ついつい色々と話を聞きたくなっちまうな。
「戦闘に集中すればするほど、盾がある事を忘れちゃうんだよね。で、盾を意識すると今度は逆に意識し過ぎちゃって、攻撃が出来なくなる。
だったらいっそ、防御は捨てて攻撃に全部を回しちゃおうって事。だから盾役が二人居るんだよ」
「なるほど。極端ではあるが、考えたな」
「でしょー? もっと褒めて」
「そのお陰で、盾持ちの俺達の苦労は半端ねぇけどな」
ルーアが愚痴をこぼしている。
ムザサもそれに同意するように、うんうんと頷いていた。
確かに、この編成だとムザサとルーアの二人が、常にオウミと動きを合わせていないといけないからな。
「えーいいでしょお!? この戦い方にしてからレコードも出せたんだしぃ!」
オウミのそんな少年らしい声が、プルトガリオ渓谷に響き渡る。
「お前達はレコード持ちのパーティなのか?」
「うん! エリアボスと、ダンジョンのだけどね!」
あ、『Zephy;Lost』のダンジョンの攻略メンバーって、コイツらだったのか。
「ダンジョン攻略って、昨日の話だよな」
「うん! よく知ってるね!」
「まぁな。ダンジョンのボスはどうだった?」
俺の質問に四人はダンジョン、「機構遺跡」の攻略についてを楽しそうに語ってくれた。
俺達が『ピクティス』に加入して攻略した廃坑道とは違い、機械系モンスターが大量に湧くダンジョンだったらしい。
ザコモンスターへとまともにダメージ与えられたのは、物理の全属性で攻撃が出来る槍職のエレナと、盾持ちの三人。
攻略時は六人パーティだったから、盾持ちは今は居ないもう一人を合わせた、計三人だったらしい。
ダンジョンボスが機械系モンスターでなくて、本当に良かったとオウミは言っていた。
そのお陰で、オウミの火力とスピードを最大限に活かした高速戦闘でボスを圧倒出来たと。
ドロップアイテムもなかなかの物だったみたいだし、良い攻略だったようだ。
「――この辺りだ。あの木に注目してくれ」
ムザサが口を開いた。他の三人も警戒していたのか、ムザサの指示と同時に全員武器を抜いていた。
ムザサが指を差した先には、二つの木が立っていた。
「敵か?」
「……何も居ないみたいだけど」
「一応、武器を構えておいてくれ。ムザサから目を離すなよ。敵が現れる」
ルーアは俺と椿へと交互に視線を向ける。
そしてムザサは、二つの木の真ん中へと向かって行った。
「木の上に何かが居るのか?」
「ねぇ。あの木……、今動かなかった?」
「んな訳ねぇだろ。なぁテュリオス」
「……動いてる……!」
「はぁ!?」
「行くぞ皆っ!」
驚いてルーアの合図に反応が遅れてしまったが、俺達は一斉にムザサの元へと駈けて行く。
プルトガリオ渓谷での、初戦闘。ちょっと不安だな。




