脱チュートリアルリッパー
そのアイテムの所持数は僅か三つ。回復アイテムだとしてもなんだか心細い数だね。
アイテムはショートカットに登録することが出来る。
登録出来るアイテムは十二種の九十九個まで、一つでもショートカットにアイテムを登録すると、左腕にオレンジ色のパネルウィンドウが現れ、二段に分かれて空いたスロットへと左上からアイテムが登録される仕組みのようだ。
……残念ながら俺のアイテムパックの中に回復アイテムは存在しない。手に入れてないんだから当然と言えば当然か。
そした俺がたった今、ショートカットへと登録したアイテムは回復アイテムでも何でもない。
回復は本当にコット頼みになっちまうな。
「さて、待ちに待った″結晶士″の力の程、この身で体感させて貰おうかねぇ!」
ショートカットへと登録した″無の低級錬成石″を錬成する。
コットと共に数度戦闘をしている内、錬成石というアイテムを三つ程取得していたのだ。
この錬成石を錬成することによって、結晶士である俺だけが使える武器を生成出来るという事らしい。
TIPS先生によれば修理不可の壊れる武器、それも戦闘を終えると消えてしまうという悲しい仕様だけどね。
ただ、錬成の仕方は至って簡単。流石はゲームだ。特殊な訓練も長年の修行も全く必要ない。
錬成石をショートカットへと流す時に錬成する武器種を選択しておくだけでいい。
今回は短刃剣のみだ。他の武器種は使ったことないしな。勝率優先だ。
後はそのショートカットから呼び出した錬成石を握るだけで手品のように武器を錬成できる。
わざとらしい白い輝きがちょっとばかし強そうな雰囲気を放つ中、柄が構成され、確かな握りの感触が手の中に返ってくる。
そして柄の先からはこれまた錬成石で構成された、短刃剣サイズの刃が形作られてゆく。
水晶のような白く透明感のある刃が、エラく殺人的な鋭さを見せている。
「綺麗ですね……」
錬成の一部始終を見ていたであろうコットは、右手に握られた新たな武器の刃先を一点に見つめていた。
「そうだな。宝石がそのまま武器になったみてぇだ。さぁ行くぞコット!」
右手に握られた……武器の名前が無いな。名前がわかるまで錬成武器とでも呼ぼう。
錬成武器を左手に逆手で握り替え、戦闘準備はばっちり。
「やっぱり行くんですね……わかりました」
諦めたようにコットは杖を取り出した。ちっと強引すぎたかな、勝てても勝てなくても後でコットには謝っとこう。
「っしゃ。行くぜトカゲ野郎」
ゲームの中だけど、今までやって来たゲームとは違う。
自分の身体を使って、自分の視界で捉えて相対するボスモンスターを前に緊張と興奮を織り交ぜたような、不思議な高揚感を感じながら、俺は爬虫類モンスターへと向けて突撃する。
距離はかなり近くなった。爬虫類モンスターの知覚範囲へと入ったのか、俺の方を向き、爬虫類モンスターはいつでも攻撃を繰り出せるよう身構えた。
……VRの世界の中は瞬きをする必要もない。
意識さえ回してれば反射で身体がビクつくこともない。
痛みを感じることもない。だから――
「恐れる必要がない」
強靭な腕の先に伸びる鋭利な爪が俺に襲い掛かる。怖いっちゃあ怖いけど、所詮はゲーム。
そんな精神の変動すらも面白いと感じながら、俺は爬虫類モンスターの若干斜め気味の右手が繰り出す横薙ぎ攻撃を、身体を地面に沈ませるようにして回避する。
腕を縦に振るか横に振るかなんてよぉく見てりゃあわかるしな。
現実とは違って、それを知覚して避けるのだってこっちの世界では造作もない。
何てったって、思ったままに身体が動くんだからな。
……懐かしいよ、本当に。『in world』が俺にプレイしてくれと言わんばかりに、姿かたちとゲーム性を変えて俺の目の前に現れたように錯覚してしまう。
「おぉぉりゃぁぁっ!!」
回避の時に身体を沈ませた反動で大きく飛び上がり、爬虫類モンスターの顎に掌打を加えた。
武器をわざわざ左手に持ち替えて、右手を空けたのはこの一撃の為。
考えうる最大の攻撃を加える為に行動不能をさせる目論見だ。
「グモォォアッ!」
爬虫類モンスターは怯んですぐ後、後ろに飛んで俺から距離を取った。残念ながら一撃では行動不能まで持っていくことは出来なかった。
雑魚モンスターとの戦闘で存在するということはわかっていたけど、この爬虫類型ボスモンスターにも″怯み″が設定されているとわかっただけでも、俺にとっては今の一撃は大きな意味を持つ。
そして一撃を加えたことによるもう一つの収穫。それは先程までは無かった、爬虫類モンスターの頭上に表記された一つのテキスト。
「いいぜ。何度でも汚い手を使ってお前を倒してやる。舐めてかかると瞬殺してやるぞ、″リザードサイス″」
爬虫類モンスターの名を呼び、俺はもう一度奴の顎へと掌打を加える為、身を構える。