幻視《み》ている者、視えているモノ。
あるぇ……。おかしいですね。
もう少しオルグファス戦は続きそうです。
まだだ。
少しずつ、少しずつ。奴から生まれる隙を脳に刻み付けるイメージで動くんだ。
どこに位置取り、どう攻撃すれば、最短でダメージを与え、次の動作に移れるか。
集中しろ。集中しろ。集中し――。
(あれ……。この感覚、まただ……)
思考も視界も、自分も、オルグファスの動きすらも、全ての感覚がスローに感じられる。
その中で俺は、再び遥か過去の記憶が映像として引っ張り出され、それを視ていた。
「――んだよだいだい。ゲームに勝てない位で泣くなよなー」
懐かしいな。この時の俺は、まだ『in world』に触れた事も無かった、小学校高学年の頃。
だいだいは俺とディランよりも早くに、『in world』をプレイしていた。
「だって、アイツがちょーはつしてくるんだもん……」
「たかがゲームだろ……。ちょっと貸してみ」
こんなガキんちょの頃から「たかがゲーム」なんて台詞を抜かしてたんだな、俺。
そしてこの時、俺は初めてヘッドセットを被り、トゥーハンドコントローラ、通称トゥーコンを握り、『in world』をプレイした。
初めて戦った相手は、俺達の一学年上の奴。
だいだいと同じ、イイトコのお坊ちゃんだった。
「なんだお前。あのザコのおともだちかぁ?」
「うん、カタキとりにきた」
「へっ!よく言うぜ!」
「でもさ、俺このゲームやんの初めてなんだよね。ルール教えてくんない?」
「お前……バカか?」
「そうかも」
「とりあえずソレかぶれ。俺がマッチしてやるよ」
「うわ……。すっ、げぇ……」
見慣れた公園が、別の空間へと塗り替えられていく衝撃。
その景色の中に一人立つ、お坊ちゃん。
ガタイが良く、その体格を活かした強引なセーバー捌きが印象的だったな。
ただ、その動きは当時の俺からしても、棒切れを振り回す、自分よりも年の小さな子どもにしか見えなかったな。
俺は靴や服を砂でドロドロに汚しながらも、繰り出される攻撃をかわしながら、ビームセーバーを一心に振るった。
(どっちもひっでぇ戦い方。まぁ、子ども同士のバトルなんてそんなもんか)
五分と戦ってはいなかっただろう。
俺の手にしていたビームセーバーがお坊ちゃんの足元へとヒットし、残っていたHPゲージの全てを吹っ飛ばした。
俺の、初めてプレイする『in world』での、初勝利した時の記憶。
――その一部始終を見終った頃、思考速度も視界の動きも、いつの間にか元通りに戻っていた。
そして。
「――覚えた。グリーンでのお前の攻撃に当たる事は、もう絶対にねぇ」
不思議な感覚だ。
あれほど隙が無いと思っていたオルグファスの攻撃も、記憶の中のお坊ちゃんのもののように、酷く幼稚に感じてしまう。
予備動作からどんな攻撃が来るのか、どの位置に居れば全ての攻撃を避けつつ、逆にこっちがダメージを入れられるか。
その全てを、俺は把握した。
「エルド! テュリオス!
ボスのHPがグリーンの内は手を出すなっ!」
「何だって!?」
オルグファスの右側面から攻撃を加えていたエルドが、驚いたような声を上げた。
そりゃあそうなるだろうな。
オルグファスの耐久力諸々を考えた上での、三人総掛かりでのアタックをたった今決めたのに、その直後には手を出すなって言われてるんだからな。
「早く退け!」
「わ、わかった!」
エルドもテュリオスも、俺の言葉に従うようにオルグファスへの攻撃の手を止めた。
「ここと……、ここだっ……!」
腕を大きく振るう、横払いの攻撃を掻い潜り、足元へと強引に接近した俺はチュートリアルリッパーを抜き、太腿を刻む。
直後、すぐに後退しながらチュートリアルリッパーを鞘へと納め、左手に持っていた槍を右手に持ち替え、攻撃後の隙だらけなオルグファスの腕部を突く。
「ギイィィンッ!!」
「逃がすか……! んらあぁぁっ!!」
距離を取ろうとするオルグファスへ向けて、錬成槍を思いっきり投げ付けてやる。
オルグファスの腹部に刺さり、俺の手から離れ、耐久力を失った槍は砕け散って消えた。
(ん……?)
今、俺の手から離れた槍は、しばらくオルグファスの身体にぶっ刺さったままだったな。
てっきり俺は、錬成武器は俺の手から離れたらぶっ壊れるモンだと思っていたが……。
「なるほど……! また一つ、俺は賢くなったぜ!」
新たに短刃剣を錬成し、オルグファスの攻撃後の隙を突いて適当に身体に短刃剣を突き立て、離脱する。
後はオルグファスの身体に突き刺さった短刃剣が、自身の耐久力を失うまで、勝手にオルグファスのHPを削ってくれるという仕組みだ。
「もっと攻める……!」
次々に短刃剣を錬成しては、それをオルグファスの身体へと突き立て、毒を盛るようにジワジワとオルグファスのHPを減らしていく。
少しでも余裕があれば、即座にチュートリアルリッパーを抜いて斬りつける。
ほんの僅かなダメージだろうが、無駄じゃない。
どんな手を使ってでも、コイツを倒す。いや、倒したい。
「終われねぇ。終わらせられねぇ。そうだよな、ディラン」
一体、どこに行っちまったんだよディラン。
まだまだ遊び足りねぇよ。
まだまだ暴れ足んねぇよ。
……居るなら、早く姿を見せろよ!
「ギィエッ!」
声を上げながら、休む事なくリーチのある格闘攻撃を仕掛けて来るオルグファス。
(関係ねぇ……。全部避ける……!)
「テメェごときに……負けてらんねぇんだよぉっ!」
またしても俺によって身体に短刃剣を突き刺されたオルグファスのHPは、そろそろ七割から六割へと差し掛かる、中間位置にあった。
 




