純粋な苦戦
僕が想定していたよりオルグファスが強かったので、決着は次回に持ち越します。
あと、仕事で腰を痛めました笑
あなたの応援が僕の回復薬となります、多分。
「ちぃぃっ!! 戦い辛ぇっ!!」
振り回すように繰り出される、オルグファスの前足による攻撃。
次々に襲いかかる滅茶苦茶な攻撃に、俺は攻めあぐねていた。
「ダメージがガードを抜けて来るっ……!」
テュリオスはオルグファスの攻撃を盾で食い止めてくれているが、盾の防御力よりもオルグファスの攻撃力の方が高いのか、ジリジリとテュリオスのHPは削られていた。
支配ボス、牙獣オルグファス。
四足歩行のこのボスモンスターは、熊のように後方二足で移動し、前足で攻撃をする事も出来る。
鬼のような顔を持ち、その口元には「牙獣」の名を象徴するような、剥き出しの鋭い牙が上下に四本、交差するように生えている。
これに噛み付かれたらかなりの大ダメージを貰いそうだ。
そしてオルグファスにはもう一つ、特徴的な部分がある。
それは背中に控えた、大振りの鉈のような剣だ。
剣の刃は錆び付いていて切れ味はとても悪そうだが、その剣自体が持つ質量によって相手を殴る事が出来る。
そんな暴力に特化したような剣は、果たしてただのお飾りなのか。
それとも、コイツを使って攻撃を仕掛けて来るのだろうか。
「コイツ……! これでグリーンかよっ!」
強い。HPがグリーンゾーンでの話なら、アトラリア砂道で出会ってきたどのボスモンスターよりも強く、隙が薄い。
ここからイエローやレッドゾーンがあると考えれば、ぶっちぎりで最強のボスだ。
コットが居る分、強気で攻められるから多少はマシに戦えているが、回復職の居ないパーティでは抵抗出来ない程に、オルグファスのアタック力は高い。
更にオルグファスを厄介なボスにしている要素があり、それによって今の所一番忙しいのはテュリオスとなっている。
その要素というのが、敵視値を無視しているかのような、対象をコロコロと変えて攻撃を仕掛けて来るという事だ。
コットにまでオルグファスの攻撃の手が届く為、テュリオスがコットを守る役に回る。
でもテュリオスの防御力では、オルグファスの攻撃を完全に防ぐ事が出来ない。
少しずつHPを削られていくテュリオスをコットが回復し、次はコットが消耗していく。
更にはコットが回復を使う度に敵視値は確実に蓄積されている筈だから、コットへの攻撃が優先気味になる。
……全くもって敵視値を無視しているという訳では無さそうだ。
「くそっ……! こっちがパターンにハメられてんじゃねぇか……」
俺達はあまりオルグファスへとダメージを与えられていなかった。
そんなオルグファスのHPゲージは、今のところまだ九割も色を残している。
「ソウキっ! さっき取ったスキルを使うのはどうだっ!?」
オルグファスの周囲に取り付くように位置取り、攻撃を加えているエルドが叫ぶ。
エルドの職業、魔剣士は、弱点属性による高火力が強みの職業なのだが、そのエルドをもってしてもHPが削れない程、オルグファスのHPまたは防御力、あるいは両方は高いのだろう。
エルドが今言っていたスキルというのは、宿屋で取得した【強化錬成術・Ⅰ】の事だ。
これによる、与ダメージ増加状態での高火力の一点突破。これに頼る他ない。
「そうだな……。行くしかねぇ……!」
どの程度火力が上がるかが未知数だが、それでも使わないで負けちまうよりは全然良い。
俺はショートカットにある、[10]という数字の付いた短刃剣のアイコンをタップした。
いつもよりも透度と輝きを増した短刃剣が、俺の右手へと錬成される。
「頼むぜぇ……」
エルドの敵視値がコットを上回ったのか、オルグファスはエルドへと攻撃を加えようとしていた。
「やべぇ! エルドはガードする手段がねぇっ!」
……待てよ?
(この位置関係なら……行けるか?)
「コット! エルドのHPが減ったら回復をかけろ!」
「わかりました!」
「テュリオス! お前は膝を付いて、背中を丸めるようにして身を屈めろ!」
「……? 了解だ!」
俺に言われた通りに、テュリオスは膝を付いて身を屈めた。背中の角度もばっちりだ。
「後はシステム様の気分次第ってトコか……」
ともあれ俺は、すぐに動ける位置に行かないとな。
「くっ……! ダメージが重いっ……」
「エルドさんっ!」
エルドは防具を一つ装備していた筈だ。
なのにも関わらず、オルグファスの一撃を受けただけでエルドのHPは三割も吹き飛ばされた。
コットがエルドへと回復をかけ、再び敵視はコットへと回る。
「よっしゃこっち向いたなぁっ!」
助走もつけ、全力でテュリオスの背中を蹴り、肩を踏んで俺は跳ぶ。
今にもコットへとテュリオスごと殴りかかろうとしているオルグファスの顔面と、テュリオスの背中を借りて跳んだ俺の顔が同じ高さになった。
「顔面にぶち込む……! 届けぇっ!!」
右手に握った短刃剣を目一杯に突き出し、オルグファスの顔へと伸ばす。
「ギイィィィィィッ!!」
オルグファスから上がる絶叫。
俺の攻撃がヒットしたオルグファスは怯み、後退する。オルグファスのHPはクイッと減っていた。
「ここまでやって一割くらいか……。相当固いな」
右手の錬成短刃剣は、今の一撃で見事にパッキリと折れていた。
多分、弱点部位の顔面。それと同時に、【強化錬成術・Ⅰ】によって強化された錬成短刃剣。
これ程の条件を重ねても、一割しかHPを削れなかった事を考えれば、オルグファスの耐久力の高さを改めて痛感させられる。
「俺を踏み台にしたな……。許さん」
俺に近寄ってきたテュリオスが、そんな事を口にした。
「うっせぇ。あぁするしかボスの顔面に攻撃が届かねぇだろ」
「二人とも、ボスに集中しろ!」
エルドの注意が飛んで来ちまった。
「言われてんぞ? テュリオス」
テュリオスを茶化しながら、俺は槍を錬成する。
「お前もな」
俺とテュリオスはエルドと合流し、ボスの次の挙動に備えていた。
オルグファスの方も、何故かは知らんが俺達の様子を見るように静止している。
「おいテュリオス。お前の怒りをアイツにぶつけてやれ」
「別に怒ってなどないが……」
「とにかく攻めるぞ。俺達三人の火力でアイツを潰す」
「まだ前半なのにそんなゴリ押しみたいな……」
「うるせぇぞエルド。守ってダメなら攻めるしか戦法はねぇ。腹ぁくくれよぉっ!」
俺は一足先に、オルグファスの元へと突っ込んで行った。
恐らくは今の一撃で、奴の敵視は俺へと向いている筈だからな。
オルグファスの残HPはまだ八割を切った位。これだけ見れば戦闘は始まったばかりだ。
……俺達は結構消耗してるけど。
「さぁ、セカンドラウンドだ。オルグファス」
大型獣モンスターとの、槍のリーチを活かしての殴り合い。
どこまで通用するかはわかんねぇけど、こんな強ぇボスなんだ。
ドロップするアイテムにも期待大だぜ。
勝って、それをブン獲ってやろうじゃあないか!