次の標的は
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「コット! 中央の雑魚をとにかく殴れ!」
「はいっ!」
コットへと指示を出した俺も、拳闘を錬成して、ヴォイドエッジアーミーから召喚された雑魚モンスターを殴り散らしていた。
アトラリア砂道のクリアタイムに挑戦する事五度目。
フィールドに入ってすぐ、エルドとコットが[転移の渦]を見つけた。
残念ながら、俺から近い距離に居たコット側の[転移の渦]はガセだったが、エルドの方にあった[転移の渦]は当たりの物だった。
挑戦している中では、今回が最短でボスエリアへと侵入できたのだ。
今回はかなり良いタイムが出せそうだぜ。
ヴォイドエッジアーミーのHPは、既にレッドゾーンに入っていた。
レッドゾーンでのヴォイドエッジアーミーは、浮遊しながら雑魚モンスターを召喚し、それを全て片付けたら瞬間移動で一番敵視値の高いプレイヤーへとビーム攻撃を加えるという戦法を取る。
この敵視値の上がり方がヴォイドエッジアーミーは特殊で、召喚された雑魚モンスターを処理する際、雑魚モンスターへと与えたダメージの総量が一番低い者がヴォイドエッジアーミーからの敵視を引き受ける事になる。多分。
というのも、実際に正確な攻略情報が開示されている訳じゃない。
プレイヤーの単純な戦闘経験が、そのまま情報になるだけ。要は手探りなんだ。
「っし。テュリオス!タイミングを逃すなよっ!ダメージを受けてでもブチ当てろ!」
手早く雑魚モンスターを全て倒した俺は、テュリオスへと合図した。
「無論、そのつもり……だっ!」
ヴォイドエッジアーミーのビーム攻撃を受けながらも、盾によるバッシュ攻撃をヴォイドエッジアーミーの胴体部へと直撃させたテュリオス。
ヴォイドエッジアーミーは一瞬だけ怯み、隙が生まれる。
そしてその隙を逃す事無く割り込み、追い討ちをかけていくエルド。
エルドの武器、ガラハディンの持つ攻撃属性は斬撃属性ではあるものの、エルド自身が持つスキルによって、ガラハディンの刀身には雷撃属性が付与されている。
もう五度目のボス戦だ。作戦もかなり練られたものになっている。
今回、雑魚モンスターをメインで潰すのは俺とコットの二人だ。
エルドには十数体湧く雑魚モンスターを三体だけ処理してもらい、テュリオスのすぐ近くへと向かわせている。
今回、雑魚モンスターの処理をさせずに、ボスであるヴォイドエッジアーミーの敵視を引き受けて貰っているのはテュリオスだ。
テュリオスの盾、シールドオブヴォイド自体の攻撃属性は打撃属性。
加えて、エッジオブヴォイドを同時に装備しているテュリオスの攻撃には、セット装備のボーナスとして雷撃属性が付与される。
打撃属性と雷撃属性という、機械系モンスターの弱点属性を二つ持ったテュリオスがボスを削る役になるのは、自然な事だった。
「あとワンセットだな。頑張れよコットっ!」
「はいっ!集中しますっ!」
「ちっ……。ゴーレムが少し多いな……。コット!オートボットだけを狙え!」
「わかりました!」
「俺はゴーレムだけを狙うっ!」
エルドはそう言うと、付近のゴーレムへと攻撃を加え始めた。
言わなくてもどう動けばいいのかを理解している辺り、流石はエルドって感じだぜ。
俺やコット、テュリオスはそこまでクリアタイムにこだわっている訳じゃない。
だが、エルドは違う。コイツは今『硯音』としてレコードに挑み、その一員としてベストを尽くさんとこうしてボス戦に臨んでいる。
俺達とは気合いの入り様が違うってモンだぜ。
「よし、雑魚は片付いた!ラストだぜ二人共、集中しろよ!」
「当然だ!」
「おうっ!」
瞬時にテュリオスの目の前に姿を見せたヴォイドエッジアーミー。
だが二人は見事に攻撃をヒットさせ、ヴォイドエッジアーミーのHPはゼロとなった。
「よっしゃ!流石にタイムは更新出来たろ!」
『クリアレコード更新のお知らせです。
・クリアタイム:アトラリア砂道のクリアタイム9分58秒【硯音】
以上のレコードを達成しました。おめでとうございます。』
と、レコード更新の通知画面には記されていた。
「うおぉぉっ!早ぇっ!」
と、叫ぶように喜んでいると。
「じゅ、16分もタイムを縮めましたね……」
「やったな……」
「ベストメンバーのタイムよりも断然早い……」
と、各々が驚きの声を上げていた。
『見事だ。銀水晶。』
おっと。刀導禅からのメッセージだ。
正直な所、これが最速かと言われるとちょっと惜しい気持ちになるな。
『こんなモンで良いのか?』
と、返しておいた。
『まさか、ここからタイムを縮められると?』
まぁ、行けなくはないが……。
「なぁエルド。このタイム、どう思う?」
「恐らくだけど、テュリオスと同じ装備で揃えたパーティの限界のタイムが、これより早いかどうか位だと思う。
だけど、それでも運要素の方が強い。しばらくは更新される事は無い筈だ」
「なるほどな」
『エルドとも話しているが、そいつは運次第だ。[転移の渦]を一発でピン抜き出来れば、あと2分は縮められる気がする』
エルドへと相槌を打ちながら、刀導禅へのメッセージをサクッと返す。
『そうか。私としては、この結果には大いに満足している。更に上を目指すと言うならありがたい事であるし、止めはせん。ほどほどにな。』
『あいよ。』
「……んお? 新しくレコードに載ってるボスが居るぞ?」
刀導禅とのメッセージを終え、改めてタイムを確認しようとレコード画面を開くと、そこには『ムヒョルト』のギルドがエリアボスを撃破したと表示されていた。
「『硯音』以外では、目立った動きはあまり見せないな」
「テュリオスの言う通りだ。だけど、戦ってみた感じではユニーク職の居ないパーティでは、装備を少し頑張らないと火力が足りないんだ。
序盤部はユニークありきな耐久設定なのかも」
テュリオスの呟きに、解説するように言葉を返したのはエルドだった。
まぁ、ボスのファーストキルがユニーク職業の転職の条件になってたりするんだ。
それくらいの設定でちょうどいいのかもな。レコードを狙ってる連中からしたら、ちと面白くないかも知れないが。
『支配ボス:牙獣オルグファスのフィールド進攻を確認しました。』
「ん?」
「支配、ボス……? 新しいボスです、よね?」
コットが俺と同じタイミングでテキストログに気付いたようだ。
「みてぇだな。行くか? このまま」
「良いのか?」
と、エルドが尋ねて来た。んだよ、今日はイヤに下手じゃねぇか。
「せっかくだから行こうじゃねぇか。二人も来るだろ?」
「あぁ。お前達が行くなら、俺も行くしかないだろう」
「わ、わたしも行きますっ!」
『銀水晶。ついでと言う訳では無いが、支配ボスのファーストキル、是非とも狙ってみてくれないだろうか。』
そんなようなメッセージが、刀導禅から来るとは思ってたけどな。
『オーケーだ。だがアトラリア砂道のクリアタイムに挑戦するのはここまでだ。それでもいいか?』
『構わんよ。是非とも頼む』
『了解だ。』
「よし。じゃあとりあえず、アトラリア砂道をフラついてみるか」
再び送られて来て始まった、刀導禅とのメッセージのやり取り。
これを切り上げた俺は、支配ボスとやらを探す為、全員へと声を掛けた。




