表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/162

刀導禅の思考

刀導禅(とうどうぜん)メインの三人称視点回です。


 

 ――そして、全ギルドに激震が走った。

 それと同時に、大きな興奮をもたらした。


 ――9分58秒。それが、ギルド『硯音(すずりね)』の打ち出した、アトラリア砂道における最速のクリアレコードだった。


 当然『硯音(すずりね)』に所属している、エルドと共にレコードに挑んだ者達もそうだが、大きく心を揺れ動かされたのは、やはり刀導禅を始めとする、四大ギルドのギルドマスターの面々。


『冗談きついぜ……。』


『やはり銀水晶。恐ろしい……。』


『へぇ、やるじゃん!』


 刀導禅は、他の三ギルドのギルドマスターから届いたメッセージを開きながら、笑みを堪えるので必死だった。


「こうも簡単に……。それも、10分を切る程とは……。やってくれる」


 ただ、そんな刀導禅も内心では複雑な思いだった。

 これ程のタイムを叩き出せるようなプレイヤーが、もうあと少し経てば『硯音(すずりね)』を脱退してしまう。


 どうにかして、銀水晶だけでも『硯音(すずりね)』へと引き込めないか。それだけを刀導禅は考えていた。


「ソウキ、か。まず間違いなく、エルドを除いたあの三人の中では、彼奴(ソウキ)が起点となっている筈……」


 刀導禅がこう考えるのも、無理はない。

 今も『硯音(すずりね)』に所属するプレイヤーの口から度々耳にする、アトラフィ戦での銀水晶の戦い。


 最早、『カラミティグランド』における主要プレイヤーの焦点は、全てソウキ一人に向いていると言っても過言では無かった。


『見事だ。銀水晶。』


 刀導禅は、ソウキへとメッセージを送った。


『こんなモンで良いのか?』


 ソウキからの返信には、こんな事が書かれていた。


 虚を突かれたように刀導禅は目を見開く。ソウキから届いたこのメッセージの文面。

 刀導禅はソウキ達の叩き出したこのクリアタイムが、限界値では無いと言っているように感じられたのだ。


『まさか、ここからタイムを縮められると?』


『エルドとも話してるが、そいつは運次第だ。[転移の渦]を一発でピン抜き出来れば、あと2分は縮められる気がする。』


『そうか。私としては、この結果には大いに満足している。更に上を目指すと言うならありがたい事であるし、止めはせん。ほどほどにな。』


 満足している、というのは嘘では無かった。

 更新出来れば御の字と思っていた所を、誰も塗り替えられないようなタイムで更新しただけでなく、まだ上を目指せると言っているのだ。


『あいよー。』


 ソウキの最後のメッセージを眺めながら、刀導禅は自分でも不思議な感覚を抱いていた。

 この先、ソウキなるプレイヤーが何かをしでかしてくれるような、予兆にも似た何か。


 そんなどこかふわついた感覚だけが、そこにはあった。


 そして、その予兆を現実へと変えるように、チャットログに流れたテキストアナウンス。

 それを刀導禅が見逃す事は無かった。


『支配ボス:牙獣オルグファスのフィールド進攻を確認しました。』


 ついに解放された、フィールド支配ボス。

 この支配ボスを撃破する事が出来れば、次のフィールドが解禁される。


 獲物が獲物なだけに、ここは是が非でもレコードを掴み取り、『硯音(すずりね)』の勢いを更に波に乗せていきたい所だ。


「来たか。アトラリア砂道の支配ボスが……!」


 今この時に、支配ボスを解放する為のキーであるエリアボスを倒してくれたパーティを讃えたいと、刀導禅は歓喜に満ちていた。


 何故ならば、ソウキはまだ『硯音(すずりね)』のギルドメンバーとして在籍しているからだ。


 支配ボスのファーストキル。それを達成する可能性を持ったプレイヤーが今、自分の手札となっている事。


 この機会を逃せば、ファーストキルの主導権は、エルドとソウキが二分する事となる。


 そして、ここでソウキを逃がしてしまおうものならば、ソウキに付いていた二人のプレイヤー。これも同時に逃す事となる。


 あの二人のプレイヤーがどの程度の戦力となっているかは未知数だが、ソウキが引き連れている人間だと考えるならば、充分に『硯音(すずりね)』にとって脅威となり得る要素だ。


 そうなれば、いくら『硯音(すずりね)』きっての強プレイヤーであるエルドを抱えていようとも、パーティの総合力という面では『硯音(すずりね)』は分が悪いかもしれない。


 刀導禅は、急ぎながらも慎重に、メッセージに文字を刻んでいった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=447283488&s ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ