ギルドマスター、刀導禅
「お待たせしました!」
コットが不恰好な走り方で、俺達に合流してきた。
やっぱ幾ら身体能力がアシストされていても、走り方のキソみたいなモンが備わってないと、自分の元々の能力を越えた動きは出来ねぇっぽいな。
「ようコット。そんなに急いで来なくても良かったのによ」
「そうなんですけど……。エヘヘ。……こちらの青い剣士さんが、テュリオスさんですか?」
「そうだ。ソウキから君の事は少しだけ聞いているよ。宜しく頼む、コット君」
君て何だよ。君って。
「よ、宜しくお願いしますっ!」
コットはテュリオスに向かって、ひとつ礼を下げた。やっぱ緊張してるっぽいな。
「さて、残るは一人、だな」
「まだ、誰かを待ってるんですか?」
パーティメンバーへと加入したコットが、少し上ずった声で言う。
「『硯音』のギルマスだよ」
「ギルドマスターさんですか?という事は……」
「あぁ。今回は『硯音』としてレコードに挑む」
……それから待つこと数分。
「待たせたな。『硯音』のマスター、刀導禅だ」
いかにも侍といった出で立ちをした『硯音』のギルドマスター、刀導禅が俺達の目の前に姿を見せた。
(そうか、こんな風にもアバター設定出来るんだな)
刀導禅の両眼は閉じられ、現実世界ならば、このままでは歩く事は出来ないだろう。
が、恐らくこの状態でも俺達の事や、バリトンの風景はきっちりと見えている筈だ。
アニメとかによくある「常に眼を閉じているキャラ」を体現出来るってワケだ。これは面白い。
左腰に差してある武器もやはり、刀だった。
雰囲気役ってヤツか? 嫌いじゃないぜそういうの。
エルドを除いた俺達三人は、それぞれ簡単に刀導禅へと自己紹介をし、刀導禅からのギルド招待を受けて『硯音』のメンバーとなった。
「さて。早速で悪いが、何でもレコードに強力してくれるそうだな?」
「あぁ。但し条件が二つある。それを呑んでくれるなら、俺達はエルドと協力してアトラリア砂道のクリアタイムの限界に挑む」
「『硯音』のギルドマスターとして呑めるものであれば、全てを呑もう」
よし来た!ここまで話を漕ぎ着けられれば、後は余裕だろう。
「そう難しいモンじゃない。
そちらさんの抱えている錬成石。これを俺に寄越せるだけ寄越して欲しい。
二つ、俺はギルドの正式メンバーになるつもりはない。
だから事が済んだらギルドを抜ける。これはこの二人も同じだ。それを許して欲しい。
どうだ? 呑めそうか?」
「なるほど。『ピクティス』の件も同じ条件か? あのギルドは所属するプレイヤーの数こそ多いものの、まだ攻略ギルドと呼べる程の力は無い筈だ」
刀導禅は腕を組み、俺に訊く。
「そうだ。同じ条件でダンジョンクリアを手伝った」
「二つ程、質問をさせてくれ。
まず一つ目は、何故そんなやり方でレコードに挑んでいる?」
「それを俺が教える必要も、お前達が知る必要も無い」
「……何か目的があるなら、私達の可能な限りで君に協力する。
それを条件に、『硯音』に正式加入する気は無いか?」
「無い。俺はもう、ゲームごときで何かに縛られるのはゴメンだ。
俺を縛り、制御出来る人間はこの世で一人しか居ない。それを俺は俺自身、良く知っている」
「……まるで、柏木惣のような事を云うな。お前さんは」
俺の事知ってんのかよ。
そうだよ本人だよ。俺は柏木惣だよ。言わねぇけど。
「んなの言った事あったっけ……」
「何だって?」
「いや、ただのひとり言だ。質問は終わりか?」
あっぶね。ボロ出すとこだったぜ。いや出してたけど。
「ならば後もう一つだけ。今後も他のギルドに協力する気か?」
「そうだな。利があると俺が判断すれば、その都度協力はするだろう。質問は終わりか?」
「……あぁ、無い。『硯音』に正式加入して貰えないのは残念だ。
だがフレンド申請は送らせてもらう。気が向いたらいつでも言ってくれ」
向く事はねぇと思うけどな。永遠に。
「わかった」
たった今来たフレンド依頼を受諾し、俺は『硯音』のギルドマスター、刀導禅とフレンドになった。
そして、約束の錬成石を分配によって頂いた。
これで無の低級錬成石の総数は926。よっしゃ。
「さて、じゃあ俺達は行くよ」
「あぁ。頼んだ」
俺はエルドに聞いておきたい事があった為、一度パーティで宿に入る事にした。




