責任とプライド
「どうした銀水晶っ! その程度か!?」
エヴリデイから次々と繰り出される、剣と拳を交えた変則的な攻撃。
それによって、じわじわと俺のHPは削られていく。
「っせぇっ! んなろぉ!」
エヴリデイが素手で殴っているなら話は簡単だ。
拳にチュートリアルリッパーをブチ当てて、削っていけるからな。だが……。
「くっ……。お前、拳にも武器が引っ付いてんのか?」
チュートリアルリッパーでエヴリデイの拳を切ってみても、まるで手応えがない。
ダメージを与えられている感覚が全くないのだ。
「そうさ。俺は剣と拳闘を同時に装備できる職業なんだよ」
なるほど、どーりで拳による打点も高い訳だ。
ちっとばかしもったいねぇけど、ここは直剣二刀流でごり押すしかねぇな。
廃坑道の攻略が終わった後、無属性の直剣でも二刀流で戦えるように、ショートカットに登録しておいた。
ったく、【デュアル・エッジ】様々だぜ。
「なるほど。お前も先駆者という訳か、銀水晶」
そう言えば、そんな名前でも呼ばれていたな。
「なーんで初対面であるはずのお前が、俺を襲うんだ?」
「それを教えて何になる?」
そう言いながらエヴリデイは再度斬りかかって来る。
「ちっ! 気になるじゃねぇか? そこら辺、はよぉっ!!」
両手の直剣で強引にエヴリデイの剣を弾き、踏み込んで転身。
そのまま勢いに任せつつ身を屈め、二本の直剣で脚部を同時に斬りつけた。
よし、やーっと一撃入れてやったぞ。
「なかなか痛ぇだろ?」
後退して態勢を整えるエヴリデイに、俺は直剣を向けながら得意気にこう言ってやった。
まぁ、打点の高さは結晶士だって負けちゃあいねぇだろう。
「……ふんっ。流石は柏木、か」
「……何?」
コイツは今、確かに言った。「柏木」と。
……何故、俺の名前を知っている?
「なーんで俺の名前を知ってるんだ?」
「俺に勝ったら教えてやるさっ……!」
言い切らぬ内に、エヴリデイは俺の方へと突撃して来る。
チクショウ対人戦は本当に不毛だから、あんまりだらだらとはやりたかないんだけどな。
だがそんなやり取りをしている間に、俺のHPは【機械神使の鼓動】と【女神の息吹】の装備限定スキルによって、少しずつではあるが回復していた。
十秒時間を与えれば、その時には十パーセント程は俺のHPは回復している。
パーティを組んでいない他のプレイヤーの情報というのは、お互いに表示される事はない。
これを逆手に取って、いかに時間を稼ぎつつエヴリデイへとダメージを入れていけるか。
これが勝負のポイントだ。
「どうした? さっきまでの威勢が無くなって来てるぜ?」
鍔迫り合いに持ち込み、エヴリデイを煽っていく。
短刃剣では上手く刃の位置を合わせられなかったが、直剣では容易い。
刀身の腹で、がっちりとエヴリデイの左拳を食い止めている。
「お前ぇ……!」
「へっ! ついでに良い事してやるよ。うりゃっ!」
「なっ――」
俺はエヴリデイの″股間部″をめがけて、蹴りを入れる″フリ″をする。
「痛みを感じない仮想現実の中でだって、ソコを攻撃されりゃあ意識しちまうよなぁ!?」
咄嗟に反応してしまったエヴリデイの、ガードの甘くなった上半身に、無慈悲な突き攻撃を加えていった。
個人的には、股間部を狙った蹴りの方が無慈悲だと思うけどな。
「お前……! そうやってまた汚い戦い方を……!」
やはりだ。コイツのこの口振り。エヴリデイを動かしているプレイヤーは柏木惣という人間を知っている。
「ソウキ、待たせたな!」
突如、脇道から聞き覚えのある声が聞こえた。
エルドだ。この野郎のんびり歩いて来やがったな。
「遅かったじゃねぇかエルド」
「まぁ、狩りをしつつこっちに来てたからな。……ソイツは?」
エルドは人差し指をエヴリデイの方へと向けた。
「知らん。いやプレイヤー名は知ってるけどな。
……おい、お前は誰だ。何故俺の事を知っている? これで二度目だ」
「……須藤……、巧。忘れたとは言わせねぇ」
「須藤……っ!?」
――須藤巧。俺やディランよりも一つ歳上で、『in world』時代の俺達のチームメイトだった。
チーム内で突出した要素はこれといって無かったものの、それが逆に須藤巧その人の、選手としての総合力を高めていた。
タッグを組む選手の相性を問わず、苦手も無い。そして、チームをまとめる力もあった。
ディランがチームクラブの選手から外れ、同時にディランがそこに居たチームリーダーの枠も不在となった時、須藤は自らその後任を買って出た。
……須藤が俺を恨むのも無理は無い、か。
「ディランの穴を埋める為、俺は必死になったさ。
お前が居れば、『リオスト』はまだまだやれると思った。
お前さえ居れば、『in world』が落ち目を迎える事も無かった……!
お前が……。お前のせいでッ!」
そう、だな。本当に、『リオスト』の連中には悪い事をしたと思っている。
「……悪かった」
そうとしか言えなかった。
「チームクラブを離れたお前が、二度と俺の目の前に姿を現さないなら、まだ許せた。
それが、お前はまたこうしてノコノコとゲーム世界にやって来て、暴れ回っている……。
こんな……。こんな事が許せるかッ!!」
エヴリデイ、いや。須藤は感情に任せたような怒りの言を飛ばして来る。
「別にいいだろ、ゲームをやるくらい。俺は俺で、ディランを探すって目的があってこの世界に来ている。
それに『カラミティグランド』はただのゲームだ。金が絡んでいる訳じゃない。
あの頃とは違うんだよ。何もかもが、な」
「……俺はお前を絶対に許さない。明日の21時、ここに来い。
そこでもう一度勝負だ。俺が勝ったら、俺の言うことを何でも聞いてもらう。
俺が負けたら、二度とお前の邪魔はしない」
プライド、ってやつかね。
んま、あの時置いてきた責任の欠片くらいは、きっちりと拾って果たしてやろうじゃあないか。
それで須藤の……。須藤巧の気が済むのであれば、な。




