なら、嫌です
後半部に少しだけ三人称入りますが、会話がほとんどなので読みやすいと思います!
そこで新たなワードもチラッと出てきますが、しばらくは忘れていても問題は無いレベルなので、後半部は流し見程度で大丈夫です。笑
宜しくお願い致します!
「やはり、『ピクティス』を抜けてしまうのですか?」
廃坑道からアトラリア砂道へと出てきた俺達は、その足で『ピクティス』のギルドエリアのマスターの部屋へとやって来ていた。
「あぁ、悪いな。それと、俺とコットの職業についての情報は、ギルド内でも出来る限りで漏れのないようにしてもらえると助かる」
「それは……。難しいと思います」
「難しい、というと?」
アレイダは目を細め、苦い顔を俺へと向けている。
「ソウキさんは、ご自身が何と呼ばれているかご存知ですか?」
何と呼ばれているか、だって?
「いや。知らないな」
「少なくとも、四大ギルドに所属するプレイヤーは全員、あなたの事を最低でも噂程度には知っていると思った方がいいでしょう。
ソウキさん。あなたは「銀水晶」という通り名で四大に知れ渡っています。もちろん『ピクティス』内部にも」
銀水晶、ねぇ。
エラく格好のいい二つ名を持ったもんだ。
実際の所、俺は俺でそんな風に認知されて何か困るって程の事はない。問題はコットの方だ。
「そうか。じゃあ、またな」
それだけ告げると、俺はアレイダに背を向けてギルドエリアを後にした。コットも俺に続いて来ていた。
「コット、お前は『ピクティス』に残れ」
バリトンの町の中。俺はギルドを抜けようとメニューを開きながらそう口にした。
「え?」
「……悪かった。アトラフィ戦での俺は軽率だった。過ぎたとも言えるな」
もっとやりようはあった。
エルドのひょんな言葉から、あんな風に過去の記憶が呼び起こされちまって、勝手に頭に血が上って。
……ダッセェな、俺は。
「どういうこと、ですか?」
「あんな風にコットに回復を乱発させてたら、どんなアホだってコットが回復を使えるってのはわかる。
回復を使えるって知られてる今、ギルドに所属しないままでいるのは、今後面倒が起きる可能性は大いに高い。
せめて見知った顔の居る『ピクティス』や、エルドの居る『硯音』には所属していた方がいい」
「でも、そこにソウキさんは居ない。ですよね?」
「そうなるな」
「なら、嫌です」
珍しいな。コットがこんな風に反発してくるなんて。
「嫌ですって……」
「ソウキさん言いましたよね。一緒に遊んでやるって」
「言いはしたけど……」
「わたしは、ソウキさんと一緒にパーティを組んで、『カラミティグランド』の世界を遊び倒したいです。
リザードサイスの時も、アトラフィの時も、エリミネート・スパイダーと戦った時も。
ソウキさんなら、ソウキさんが居れば、どんなに強い敵だって倒せてしまうんじゃないかって思ってしまう程に、ソウキさんは強いです」
「そんな事は……」
「わたし、そんなソウキさんを見ているのが好きです。
残念ながら、わたしは回復くらいでしかお役に立てませんが、それでも頑張ってついて行きたいです。
……だから、わたしを置いて行かないで下さい」
驚いた。そんな風に考えてたなんてな。
コットの目には、どこか強い意志のようなものも感じられる。
「それが、コットが『カラミティグランド』へと来る理由。か?」
「……はい」
「四大の奴らにしつこく勧誘されても大丈夫か? 俺は今の所、ギルドに入る気はないぞ?」
「大丈夫ですっ」
コットはにっこりと笑った。
……簡単に言うなよなー。んま、コットが大丈夫って言うんならそれでいいけどさ。
「んじゃ、ピクティスを抜けるぜ」
「はいっ。わたしも失礼しました……。と」
俺達二人は同時にギルド『ピクティス』を脱退し、そのまま俺はレコードを覗いて見てみた。
とりあえず今回、『ピクティス』はダンジョンの廃坑道のファーストクリアと、そこのボスであるエリミネート・スパイダーのファーストキルを取った。
クリアタイムはいずれ塗り替えられてしまう可能性があるが、ファーストクリアとファーストキル。
二つのレコードだけは永久に『ピクティス』のモノとなった訳だ。
「見ろよコット。俺達がダンジョンに潜ってる間に、エルドの奴二つもレコードを出してるぜ?」
「ほえぇ……。エルドさん凄いですね!」
レコードにはエリアボスの「ブラッドゴーレム」のファーストキルと、アトラリア砂道のクリアタイム更新で『硯音』の名前が載っていた。
レコードを出したパーティメンバーの名前やなんかを見ることの出来る[レコード詳細]をタップしてやると、きっちりとエルドの名前がそこにはあった。
クリアタイムは32分57秒。
俺とテュリオスで出したタイムより15分程も縮まっていた。
流石は攻略ギルドって感じだ。
「『アルマゲスト』……。四大ギルドの一つだな。ここも動き出してきたか」
『硯音』以外にも、エルドの口から伝え知っていたギルド『アルマゲスト』の名前も、エリアボスのファーストキルでレコードに載っていた。
いよいよ本格的に、ギルド間のレコード争いが始まったっつー訳だ。
端から見てる分には面白くなってきたな。
「コット。悪いけど今日は落ちるよ。明日も居ると思うから、ログインしたらメッセージくれよ」
「はいっ、わかりました! わたしも落ちます。
それではソウキさん、また明日です。お疲れ様でした」
「おう。お疲れお疲れ」
ぺこりとお辞儀をひとつ、打つように自然に下げると、コットはメニューを操作してログアウトしていった。
「さて、俺もログアウトするか」
――コットと同じような動作でメニューを操作し、ソウキのアバターキャラクターは虚空へと消えていった。
「行ってしまいましたね」
陰からソウキとコットを見ていたエイジは、アレイダへと声を掛けた。
「そう、ですね」
同じくして二人を見ていたアレイダも、どこか残念そうにエイジへと言葉を返した。
「あの二人を『ピクティス』に引き込めていたら、現状では僕らが攻略の面で大きく優位に立てた事でしょう」
「ただ、私達にはまだあの子が居ます。あの子に頑張ってもらって、しばらくしたらもう一度ソウキさんを勧誘してみます」
「……上手く行くでしょうか?」
「その為に、バランス良く配分して貰ったんですから」
「『神様』と、その使いの者達、ですか」
「そうです。少しダシにされている感はあるけど、私達は私達で楽しまなきゃ」
「まぁ、そうですね。ソウキさんがこれからどうなっていくのか。
それを僕らは僕らで、色んな角度から楽しめる立場になった訳ですからね」
「戻りましょう」
「はい」
その言葉を最後に、アレイダとエイジはギルドエリアへと戻っていった。