わたしはコット(コット視点回)―2
コット視点での話はこれで区切りです。
次話から視点はソウキに戻ってきますので、宜しくお願い致します!
毒状態になったソウキさんへと向けて、わたしはスキル【解毒術】を掛ける。
ダンジョン、廃坑道に住まうボスモンスターのエリミネート・スパイダー。
毒への対策をしていなければ、エリミネート・スパイダーの残りHP一割からの大幅な防御力上昇と毒状態によって、じわじわとパーティの戦力を削っていくボスなんでしょう。
HP回復や、状態異常解除のスキルを重点的に取っておいて良かったです。
「まだだ。こんなもんが限界なんて思うんじゃねぇぞ……。」
ソウキさんの両手に握られているのは、いつかのリザードサイスと戦っている時に見せてくれた赤い剣。
その時見せてくれた物は確か短刃剣でしたが、今振るっているのはエイジさんが装備している剣に似ています。
短刃剣よりもずっと長く、赤い煌めきを放っているのが印象的な二本の剣。
それをソウキさんが振るう度、紅の残光が剣の軌跡を辿り、斬りつけられたエリミネート・スパイダーの脚に炎が走る。
ソウキさんの両手の剣が、火属性のものである事を物語っています。
そんなソウキさんと対峙しているエリミネート・スパイダーは、火属性の剣による連続攻撃を受けて、体中をほのかに炎上させていました。
アレイダさんとスミレさんは、エリミネート・スパイダーの後方から少しずつ攻撃を加え、僅かずつですがダメージを与えています。
エイジさんの方はというと、ソウキさんの援護に回り、エリミネート・スパイダーの攻撃からソウキさんを盾で守る役に徹していました。
「すごい……」
ソウキさんとエイジさんが動きを合わせているのではなく、ソウキさんがエリミネート・スパイダーとエイジさんの動きをコントロールしている。
そんな風にわたしの目には映っていました。
連続攻撃を加え、敵視値を一気に上げたソウキさんは強引にエリミネート・スパイダーの敵視を手繰り寄せる。
エリミネート・スパイダーの噛み付き攻撃か、前脚による連続攻撃をする瞬間、ソウキさんはエイジさんの背後へと回り込んでエイジさんに攻撃を受けさせ、敵視をエイジさんに渡す。
またもソウキさんは安全な位置からエリミネート・スパイダーの懐へと割り込み、連続攻撃でダメージを稼いでいく。
という、一連の戦闘の流れのようなものが出来上がっていました。
わたしはこの戦闘を見ているだけで、やる事はたったの二つ。
パーティの誰かが毒状態になったら、それを解除すること。
エイジさんかソウキさんのどちらかのHPが半分を下回ったら、回復を掛けること。
この戦闘の流れにわたしが入り込む余地など、全くありません。
ただ、だからこそ、わたしが今この場でやること、やれることがハッキリとわかる。
「サンキューコットっ!」
「コットさん、ありがとうございます!」
エリミネート・スパイダーの仕掛けた毒糸に引っ掛かり、再度毒状態に掛かったソウキさんの毒を消し、HPの減っていたエイジさんを回復する。
わたしを含めたこの場の全員が、自分に出来る全てを力を出し切って、ボスモンスターを倒そうと必死になっている。
その中にわたしが居る。居られるというのは、なんだかとても、ヘンな気持ちです。
わたしが治癒士見習いという職業を、あのチュートリアルで選ばれていなかったら、わたしは今ここに居られたでしょうか?
モンスターに囲まれて、倒せなくてHPをゼロにしていた毎日に嫌気が差して『カラミティグランド』にログインしなくなっていたら、わたしはソウキさんに出会えていたでしょうか?
答えは、ノーでしょう。
わたしよりも戦力になるプレイヤーさんが居れば、わたしはきっとソウキさんのパーティから弾かれてしまう。
(それでも……。わたしは……)
今はまだ、ソウキさんの後について甘い蜜を吸わせて貰っても良いでしょうか。
そんな事を考えながら、激しく流れるようなソウキさんとエイジさんと、エリミネート・スパイダーとの攻防を眺めていました。
「っしゃあっ!」
突如として雄叫びを上げたソウキさん。
その隣には、体勢を崩してその場に倒れてかかっているエリミネート・スパイダーの姿。
まだ、少しだけエリミネート・スパイダーのHPが残っています。倒した訳ではないのですが……。
「流石です、ソウキさん!」
「ここで終わらすぞ!」
「はいっ!」
転倒状態になったエリミネート・スパイダーは、無防備に頭を攻撃の届く位置に晒しています。
エイジさんとのやりとりを手短に済ませたソウキさんは、両手に握っていた赤い剣を放り投げ、手首を触れ出しました。
これはソウキさんが武器を呼び出す時の合図です。
再び、赤い剣がソウキさんの両手に握られると同時に走り出し、エイジさんより少し遅れてソウキさんは転倒したエリミネート・スパイダーの頭部の傍へと到着し、二人で頭部を攻撃し始める。
「キシュー! キ、キ……」
叫び声にも似た、奇妙な声を響かせながら、僅かに赤い色のついていたエリミネート・スパイダーのHPゲージは、その色を失い、ゼロとなりました。
『クリアレコード更新のお知らせです。
・ダンジョンボス:エリミネート・スパイダーのファーストキル【ピクティス】
・ダンジョン:廃坑道のファーストクリア【ピクティス】
・クリアタイム:廃坑道のクリアタイム29分22秒【ピクティス】
以上のレコードを更新しました。おめでとうございます。』
そしてわたしの目の前に飛び込んで来るように現れたのは、レコード更新を通知するウィンドウでした。
「やった……!」
嬉しさのあまり、わたしはつい喜びの声を上げてしまう。
「っしと。やったなエイジ、宣言通りだ。レコードおめでとう」
「い、いえ。あなたのお陰ですよ。ソウキさん」
こうしてギルド『ピクティス』の名は、エリミネート・スパイダーのファーストキルと、廃坑道のファーストクリア、そしてクリアタイムの三つの項目でレコードに名を刻んだのでした。
 




