槍とダガー、炎の剣
たぶん、次回エリミネート・スパイダーとの決着回です。
宜しくお願い致します!
「いやぁぁぁぁあああっ!!」
女の子の、いやコットの絶叫がフロア内に響く。
廃坑道のダンジョン全域にまで届きそうな声の大きさだ。こんな声出せたんだな。
いや叫びたい気持ちはわかるんだけどね。
「どうだエイジ。アレと戦えそうか?」
「僕は問題ありません。寧ろ少しワクワクしています」
……変態か?
「一体、何にワクワクしているんだ?」
「ソウキさんと二人でボスに挑める事に、ですよ」
あぁ。どうやら変態ではなかったみたいだ。
アレ、というのはダンジョンボス、エリミネート・スパイダーの事だ。
先ほど倒した三体のスケルトンで、ダンジョン内のモンスターは全て倒していたらしい。
適当に廃坑道の中をふらついていた俺達の目の前に、突如として姿を現したエリミネート・スパイダー。
その姿に、コットを始めとする女子陣三人が超絶ビビっているのが現在である。
アサルトスパイダーの四倍ほどはある体躯だ。なかなかにデカい。
現実世界で見ようもんならおぞましくて逃げ出しちまうような、そんな黒くデカい蜘蛛型ボスモンスターのエリミネートスパイダーだが、強さの程は如何に、って感じだ。
「行くぜエイジ、遅れるなよ!」
「任せて下さいっ!」
「アレイダとスミレはボスの背後に回って突け!
敵視が回らないように抑えて攻撃しろよ!」
「わっ、わかりました!」
とアレイダが。
「了解です!」
とスミレが気合いを込めたような返事を返して来た。流石に後ろから突っつく位は行けるか。
「コットっ! 回復だけはきっちりやってくれよ!」
「はっ、はぃぃぃっ!!」
凄く、か弱い叫びが聞こえた気がするが……。
二人でタイミングを合わせ、エリミネート・スパイダーの両サイドへと俺とエイジは一気に詰め寄った。
「火属性は効くか……? 喰らえやぁっ!」
火の低級錬成石から直剣を錬成し、エリミネート・スパイダーの脚を斬っていく。
「なるほど。火は効くのな」
エリミネート・スパイダーの脚の、斬った部分に火炎のエフェクトが起こる。
一応は弱点らしい。HPの削りもなかなかのもの、悪くない。
ただ、HPがグリーンの内に、現状では入手手段の無い火属性の錬成石をそうポンポン使う訳にはいかない。
使うならば、イエローやレッドゾーンで勝負を掛ける時だろう。
今錬成している火属性の直剣が壊れたら、しばらくはいつも通りに無属性の錬成石で戦わないとな。
左右八本の脚とは別に、胴体から腹部へと渡る繋ぎ目の部分から、手のような前脚が生えていて、これを器用に使いながらエリミネート・スパイダーは前方への攻撃を仕掛けて来る。
「いいぞエイジ。上手くパターンに入ってる」
前脚の攻撃を盾で防ぎながら、予備動作中にエリミネート・スパイダーの右脚へとエイジは攻撃を加えている。
HPがグリーンゾーンの間は、エイジに火力を任せてチュートリアルリッパーで削るのも悪くはないが、クリアタイムの事もある。今回は全力アタックだ。
かくいう俺はというと、防御の変わりにエリミネート・スパイダーの前脚から繰り出される攻撃を避けながら刻んでいかなきゃいけないから、割と忙しい。
といっても、エリミネート・スパイダーの攻撃自体はかなり単調なもの。
パーティの人数的なものもあるし、ボスの攻撃パターン的にも、今回が一番楽に感じられる。
「スミレ! あんまガシガシと攻撃すんなよっ!」
「はいっ! すみません!」
スミレの持っている槍は青レア武器らしい。
下手をさせると俺とエイジへの敵視が外れちまうかもしれねぇからな。
そうなったら、ちょっとでは済まないほど可哀想な結末がスミレを襲うことになる。
流石にそれだけは避けたい所だ。
「うおっ! 別の攻撃パターンかっ!?」
突如、エリミネート・スパイダーがこっちに向かって突進をしてきた……。と思ったら違った。
エリミネート・スパイダーはただ転倒しただけだった。だがこれは思いがけないチャンス。
俺達の頭二つ分くらい高い位置にあり、そのままではこっちの攻撃の届かないエリミネート・スパイダーの頭部が、転倒によって腰の辺りの位置まで落ちてきたのだ。
恐らくだが、エリミネート・スパイダーの弱点部位は頭部にあり、この頭部を攻撃する為に「転倒」というボス固有の特殊ギミックが組まれているのだろう。
「チャンスだエイジ! 頭をボコるぞ!」
「了解です!」
うひょー。エライ弱点みたいだなエリミネート・スパイダーさんよ。
俺とエイジの無慈悲な一方的攻撃によって、ゴリゴリとHPが削られていくエリミネート・スパイダー。正直可哀想まである。
「っと。ここまでか。だがイエローまで持っていけたな」
「はい。この転倒は大きいですね」
そう言いながら、起き上がるエリミネート・スパイダーへと剣を構えるエイジ。
エリミネート・スパイダーのHPは残り六割の所まで削れている。
「転倒、もっぺん狙ってみっか」
エイジと分かれ、再びエリミネート・スパイダーの右脚側へと回ってきた俺は、チュートリアルリッパーを引き抜いて左手に持ち替えた。
そしてここで俺が錬成するのは槍だ。
エリミネート・スパイダーの攻撃を避けつつ、右脚をチュートリアルリッパーで刻みながら、錬成槍でエイジ側の左脚へと突いていく。
「く~っ。難ぃな~ったくよぉ!」
左手には短刃剣。右手には槍と、武器のリーチが天と地ほどの対称的な長さを持つ二つの武器を握っている。
片手で槍を扱うのもそうだが、もう一つ困った事が起こった。
「クッソ……。毒か……」
イエローゾーンへとHPが割り込んだエリミネート・スパイダーは、毒糸を噴いてくるようになった。
レッドゾーンではこの毒糸に気を取られている間に、何かしらの強攻撃で攻めてくるパターンか?
――ただ、とりあえず俺達には毒の心配は全く無用だった。
「お二人とも、大丈夫ですか!?」
毒にかかった俺とエイジの身体を、青紫色の光が包む。
その瞬間、俺達の毒状態は解除された。
やるなコット。状態異常を回復出来るのか!
「ナイスだコット! エイジ! このまま転倒まで持っていくっ!」
「はいっ! ガードは任せて下さいっ!」
錬成槍を放り投げ、チュートリアルリッパーも鞘へと納めた俺は、火の錬成石で直剣を錬成し、エイジの方へと全力ダッシュする。
「あと二つだ。それを使い切る前にお前を倒す」
今錬成した直剣を合わせて、ここで使う火属性の錬成石は三つ。
この三つを上手く使いながら、エリミネート・スパイダーを倒す事を俺は宣言した。
んま、宣言したところで何の意味なんて無いんだけどな。
エリミネート・スパイダーの左脚側へと到達した俺は、左前脚へと向けて火属性の錬成直剣を振りまくった。
最早爆炎とも言える、幾つもの炎のエフェクトがエリミネート・スパイダーの左前脚を包んでいく。
「おし、転倒したな!」
弱点属性による乱舞のお陰か、二度目の転倒を迎えたエリミネート・スパイダーの頭部へと、エイジと俺の二人で再び無慈悲な追い打ちが始められる事となる。




