先駆者《ラピッダー》
アトラリア砂道へと出た俺達は、そのまま廃坑道へと直行してきた。
ダンジョンのルールは、プレイングマニュアルを読む限りではシンプルなものだ。
内部に湧いたザコモンスターを全て倒すと、ダンジョンボスがランダムな位置に出現する。
そのボスを倒せばダンジョンはクリアとなる。
プレイヤーやギルド間で競争性を高めたいのか、当然のようにダンジョンにもファーストクリア、クリアタイム、ダンジョンボスのファーストキルの三つのレコードが設けられているみたいだ。
ダンジョン、廃坑道の中は廃棄されて間もない坑道な設定なのか、所々にカンテラの灯りが先へと続く道を照らし示している。
そんな廃坑道で最初に遭遇したモンスターはスケルトンだった。
元々は人だったのだろうそれは、どういう経緯でかは知らんが骨だけの存在となっても尚動き回り、プレイヤーを襲う。
そういえばスケルトンは、ボス戦以外では初のまともに動ける人型ザコモンスターだ。
アトラリア砂道に湧いているゴーレムも人型っちゃあ人型なんだが、動きが鈍く硬いだけの敵だ。正直相手にはならない。
対してスケルトンは、槍や手斧、剣や盾で武装しそこそこには軽快な動きで攻撃を仕掛けてくる。
まずはそれぞれの戦闘能力を見るために、スミレとアレイダ、俺とエイジの二人一組に分かれて一度戦闘を行った。
アレイダはまぁ、普通だ。可もなく不可も無くといったところか。だがスミレの方の戦い方に俺は少し違和感を感じた。
違和感、とは違うな。
扱いに慣れている、といった印象だ。だがスミレは槍を使っているというのに、肝心要の刃の部分で突く攻撃を行う事が少ない。少な過ぎるほどだ。
「スミレはあまり、突き攻撃はしないんだな」
槍の長い柄の部分を器用に使い、打撃属性の攻撃を与える事がスミレの戦闘の中には多い。
「はい。学生時代になぎなた部に入っていて、その時の動作が攻撃の元になっています!」
「薙刀か、珍しいな」
剣道は中学生以下で突きを行う事は駄目だった気がするが、なぎなたはどうなんだろうな。
因みに、スポーツ競技として薙刀を書き表す際、ひらがなで「なぎなた」と表記されている事が多い。
「槍は全てを扱うとなると難易度がかなり高まるが、一応は斬撃、刺突、打撃の三種の攻撃属性を兼ね備えている。
薙刀とは扱いが全く異なるとは思うが、斬撃と刺突を交えた攻撃も練習してみるといい。
戦闘の幅が広がるぞ」
槍は自分でも何度か振るってみたが、やっぱり難しい。
片手で狙いが上手く定められるリーチではないし、かといって両手で柄を握ると可動が制限されちまう。
幾ら自分の身体能力の制限を受けないからと言っても、日常で槍なんて扱う事は絶対に無いしな。
それを言ったら武器全般がそうなるが、剣や短刃剣なんてのは握れば素人でも振るうこと位は出来る。
それについては少し気になる事がある。
例えば、剣の達人みたいなやつと対人戦をやることになるとしたら、熟練の差というのはどれほど顕著に現れてくるのかという事だ。
現実世界では言うまでも無く、余裕で負けるだろう。
だけどこっち側ではどうなるんだろうな。いつかそんな奴が現れた時、ちょっくら相手して貰いたいところだぜ。
「はい。意識してみます!」
スミレは明るい声で、後ろに束ねたポニーテールを揺らしながらはっきりと言葉を返してきた。
黒髪のポニーテールか。スミレも中身もこんなだったりしてな。
現実世界でないのに、現実世界での自分が影響してくる仮想現実の世界の中での、プレイヤー間のコミュニケーションは結構面白いもんだ。
「エイジはもう少し、バランス良く攻撃をしてやるといい。
剣と盾は、武器としてのパフォーマンスはかなり高い。
斬撃、刺突、打撃。三属性を兼ね備えているだけでなく武器としての扱い易さ、総合力という点でも他の武器種よりも一歩前に出る。
相手の弱点属性を探りながら戦う事を、常に心掛ける癖をつけろ」
「はい、意識してみます。……ソウキさん、少し質問しても良いですか?」
「ん、なんだ?」
「ソウキさんは、先駆者ですよね?」
……はい? らぴっだー? なんだそれは?
「ラピッダー、ってのは?」
「僕達のような汎用職業のプレイヤーがそう呼んでいる、ユニーク職業に就いているプレイヤーの事です。
ユニーク職業のプレイヤーは、今判明してるだけでは可能性も考慮して二人。
……あぁ。僅かな可能性までを考えるなら三人か。
四大の中で、一番攻略性の高いギルド『硯音』に所属しているエルドさん。
そして、エルドさんと共にアトラフィのHPの殆どを削ったソウキさん。
そんなソウキさんと一緒に居た、ヒーラーらしき職業のコットさん」
あちゃー。やっぱあのアトラフィ戦は駄目だったね。反省反省。
今から反省しても、もう遅いだろうけど。
それにしても、先駆者、ね。
ユニーク持ちがそんな呼ばれ方をされてるなんて。
「ふぇ? わたしもですか?」
コットが間抜けな声を上げている。
そりゃそうよ、君ヒーラーなんだから。
「そうなのです。ソウキさんには四大ギルドが。
コットさんにはアトラフィ戦に参加していたギルドから、ギルド加入のオファーがこれから来る事になると思います」
アレイダが悠長な口調で割って入ってくる。
ちっと面倒な事になりそうだな。全部断ってやるけど。
「……話は戻って、先駆者というのは『カラミティグランド』の序盤。
つまりは土台の部分を開墾してくれる存在として、僕らはそう呼んでいます」
「なるほどね。エルドはその役目をきっちり果たしている訳だ」
「そうなります。あっと……。分かれ道ですね」
目の前には、先へと続く道が三本に分かれていた。
「この中の二つはハズレだろう。スミレとコット、エイジとアレイダ、俺の三チームに分かれて一斉に行くぞ。
奥へと進む当たりの道を引いたチームは、他の二チームが合流するまで待機。これでどうだ?」
俺はチームを分けて一気に三本の道をクリアリングする提案をしてみた。クリアタイムも気にしたい所だしな。
全員で一つずつ潰しながら……。なんて手間のかかる事はしたくない。
知らない奴と組ませる事になっちまうから、コットには少し悪いが、スミレとなら大丈夫だろう。根拠はないけど。
「僕らは問題ありませんが、ソウキさんは一人で大丈夫ですか?」
「んー。大丈夫だろ」
四人は互いに目配せし、少しの間を置いて俺へと頷きを返した。
「うし、んじゃ俺は左。残り二つはお好きどーぞ」
四人へとそう言い残した俺は、左の道へと駆け込んで行った。
残念、ハズレだ。スケルトンが四体湧いているだけの、行き止まりの道だった。
スケルトンは打撃属性の攻撃に弱い。これはスミレの戦闘を見ていてよくわかった。
拳闘を錬成し、スケルトンの元へとちょっかいをかけに行く。
「ふっ! パーンっ! と。まずは一体だな」
スケルトンから繰り出される剣を手首ごと弾いて、右手で思いっきりスケルトンの顔面をパーンしてあげると、ガシャガシャと音を立てながら体を構成していた骨が弾け飛んだ。
「っとぉ! 槍はずりぃよ槍は」
槍を持ったスケルトンの突き攻撃を避け、胴体部を二度殴りつける。二体目。
今のでわかったのは、各モンスターには弱点部位が存在するという事だ。
残る二体のスケルトンは剣を持った奴だ。
ちょっと戦闘について色々と実験してみるか。




