ギルドとダンジョン
プロローグ部の改稿(書き足し)を行います。
次話更新までには書き足されていたと思うので、是非読んで下さると嬉しいです!
宜しくお願い致します!
「断る」
俺ははっきりと、そう口にした。
ここは中央都市バリトンの広場。その噴水前。
そこに適当に置かれた木箱の椅子を動かし、俺とコットと対面するように座る″三人″のプレイヤー。
一人はエイジ、もう一人はスミレ。
ではもう一人はというと……。
「ギルドマスター直々の勧誘でも、ですか?」
そう。もう一人は、二人の所属するギルド『ピクティス』のギルドマスターだったのだ。
……まぁ「マスター」って言ってたし、だろうなとは思ってたけど。
目の前に居る、黒髪の槍使いのお姉さん系アバターキャラ。
コイツはアレイダというプレイヤーネームで、ギルド『ピクティス』のギルドマスターさんだそうだ。
そして俺と会ったアレイダの一言目が、「私のギルドに入りませんか?」だった。
流石に勧誘が下手過ぎるだろ……。と思ったが、宿の部屋でエルドから聞いていた四大ギルドに、『ピクティス』の名が挙がっていたんだよな。
ただ、エルドの『ピクティス』に対する評価としては、「四大として見れるのはギルドの規模だけ」との事だった。
四大ギルドの中で、唯一ギルドマスターが女性プレイヤーであること。
そして、ギルドとしての目標がそこまで高くは無いこと。
そしてギルドマスター「アレイダ」の人気さ。
アレイダの中身……。つまりプレイヤーは、今人気急上昇中のゲームプレイ系動画配信者さんらしい。ほんとかよ。
……これらが『ピクティス』という弱小なギルドが、四大ギルドへと名を上げた要因となっている。
「単純に、俺にメリットが無いからな。
俺はちょっとした縛りはあるけど、パーティメンバーは固定で組める」
テュリオスにコット、エルドに椿。
今の敵の強さ的に、正直なところこの中の誰か一人とでもパーティを組めれば、困ることはない。
ともあれ、俺はアレイダへと言葉を続けた。
「『ピクティス』が大手のギルドだってのは勿論知ってる。
ありがたい声が掛かっているのも承知だ。だが俺にはギルドは現状、必要ない」
「そう、ですか……。では、『ピクティス』のダンジョン攻略のお手伝いをして頂くというのは駄目ですか?」
また新たなワードが出てきたな。
「ダンジョン? ってのは?」
「はい、実はですね……」
アレイダさんは、『ピクティス』の現状と、ダンジョンについてを語ってくれた。
メンバーが増えてギルドが大きくなったは良いものの、『ピクティス』のメンバーの中には、四大ギルドとして名を上げたいと声を上げる者もやっぱり居るらしい。
その結果『ピクティス』は、メンバーを均等に育てて行きたい勢力と、ガンガン攻略をしていきたい勢力とに二分化された。
まさか同ギルドのメンバー同士が争うなどとは考えていなかったアレイダさんは、『ピクティス』の現状に困り果てていた。
そんな中舞い降りてきたのは、アトラリア砂道に配置されたダンジョン「廃坑道」への、[ダンジョン挑戦権]というアイテムの入手情報だった。
一度ログインしている全メンバーで会議を開き、このチャンスに乗じて『ピクティス』の面々はひとまずレコードという、同じ方向に意識が向く。
だが他の三ギルドよりも『ピクティス』は戦力的に大幅な遅れが出ている分、ダンジョンの攻略メンバーが決まらないでいた。
そこで名前が挙がったのが俺だったという訳だ。
まぁあのアトラフィ戦は、確実に俺にとっては悪目立ちになっちまっただろうな。
他のギルドが何かしらの形で、俺にコンタクトを取る前に俺に会っておき、可能ならばそのまま俺をギルドに引き込んでしまい、廃坑道の攻略メンバーとする考えだったとの事。
「なるほどね」
「はい。という事なんです。協力しては頂けませんか?」
「それなら構わないぞ。一時的に『ピクティス』に加入するのも考えてやる」
この辺りもエルドから説明があったが、パーティでボスを倒せました。フィールドをクリア出来ました。
となっても、パーティメンバーの中に「他ギルド所属」もしくは「ギルド無所属」の人間が居ると、ボス討伐もしくはフィールドクリアの際にギルドの名前が大々的に表示されないとの事だ。
レコードに載る以上は、自分のプレイヤー名と所属しているギルドを、誰でも見られる場所に表示させた方が宣伝効果が高いというもの。
だから今回、俺は『ピクティス』に一時的に加入してレコードに協力してやるって事だな。
「本当ですか! ありが――」
「――ただし、条件がある」
「……ある程度でしたら飲み込みます」
そんなに苦い顔しなくても。難しい事は要求しないぜ? 優しいだろ?
「一つは、特に残る理由が無ければダンジョンの攻略が終わったら『ピクティス』を脱退する事。これを許して欲しい。
二つ目。『ピクティス』の抱えている錬成石と、それを買えるだけのゴールドを流せるだけ俺に流して欲しい。
この二つが条件だ。どうだろうか?」
「錬成石ですか?」
「あぁ。属性やランクは問わない」
って言っても、低級しか抱えてないだろうな。
気になるのは、どのくらいの属性を抱えているかだ。
「私の方は二つの条件に関しては問題ありません。
現状では錬成石は皆使い所がなく、寄付ランク目当てで特に無属性はギルドボックスに溜まっていく一方で……。
ゴールドの方も、ショップで買って頂ける分ならば問題なくそちらにお渡し出来ます。
……協力して頂けますか?」
よしよし。取れるだけ錬成石をぶん取らせて貰おう。
「交渉成立だな。んじゃ、まずはフレンド登録をしよう。
そこから、俺とコイツにギルド加入の招待を出しといてくれ」
んあ、その前にエルドのからメッセージだ。
『すまん! ギルドの方でフィールドボスを探す事になった。今日の所はパーティ抜ける!』
だとの事だ。やっぱギルドはパスだ。
直後、パーティからエルドが脱退した。
「送りました。確認お願いします」
アレイダとフレンドになった俺とコットに、『ピクティス』の加入招待が来た。
招待のウィンドウにある[加入]の所をタップし、俺とコットは一時的にだが『ピクティス』のギルドメンバーとなった。
「よし、じゃあ早速だが錬成石を渡してくれ」
「わかりました。それでは一度、ギルドエリアへと招待します。私パーティに入れて、リーダーにして頂けますか?」
「ん、了解だ。……悪いなコット。置いてけぼりにしちまって」
「い、いえ。気にしないで下さい、ソウキさん」
コットへと断りを入れ、フレンドリストからアレイダをパーティへと招待する。
そのままリーダー権をアレイダへと回してやった。
「それでは行きます。『ピクティス』のギルドエリアへ」
アレイダはメニューを操作し出した数秒の後、俺の視界はローディング画面を挟み、秘密基地チックな地下通路へと移り変わった。
「ここが、ギルドエリア」
「はい。ようこそ『ピクティス』へ」
アレイダは可愛らしく笑って見せた。……アバターキャラだけどな。