『未来を視る剣、明日を見る盾』―2
引き続き【MST】様の作品
Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
コラボクエスト回でございます!
MST様の作品も読んで下さると、クエストの流れなようなものがわかってくるのではないかな、と思います!
「んぁぁぁあらっ!」
攻撃が重い。折れた剣を扱ってるとはとても思えない。
「ふんっ!」
エルドの方も、いまいち手応えを感じられるような攻撃は与えられてないように思える。
ヴィレントの攻撃はとてつもなく速く、そして重い。
俺達二人がかりで、ようやくヴィレントの攻めの手を食い止められるというもの。
「くっ……!」
ヴィレントは呻いた。二人がかりなら、僅かずつだがヴィレントへとダメージを入れていける。
エルドは装備、アトラフィス・コートの装備限定スキルにより、斬撃属性と刺突攻撃に僅かばかりの耐性がある。
加えて、俺はアトラリアの法衣及び、機械天使の首飾りの効果によって、十秒に十パーセントのHP回復効果を持っている。
これらのお陰で、俺達はヴィレントに対してなんとか強気に攻める事が出来ている。といった感覚だ。
手強い相手であるという事には間違いない。
が、ユニーク職業である俺とエルドの二人を同時に一人で相手するっては、ちっとヴィレントには分が悪過ぎるだろうな。
「何故死なないっ!?」
ヴィレントは苛ついている。それもそうか。
剣撃を何度俺に当てようとも、死ぬことなく立ち向かってくるんだからな。
悪ぃな。俺達は今、ただのデータなんだ。
戦闘において何の痛みも、恐怖も感じない。手足をどれだけ斬られようとも、失うことはない。
非常にゆっくりとではあったが、ヴィレントのHPが半分まで削れた頃、状況に変化は起きた。
「……ここまでか」
英雄ヴィレントの猛攻を、図らずとも食い止めた俺達。
態勢を立て直したチェントとネモが、部隊を率いてこっちに向かってくるのを目にしたヴィレントは、それだけ言い残すと撤退していった。
「良いのか? 逃がしちゃったけど」
エルドは不満そうにそんな事を口にしていた。
「そういう流れなんだろ。とりあえず、チェント達に合流しようぜ」
俺とエルドはチェント達に合流し、魔王軍の陣営、砦へと迎え入れられる事となった。
更新されたクエスト情報を見るに、魔族側か、人間側。
どちらか片方の味方となり、この戦争を終わらせる事がこのクエストの目的のようだ。
チェントは今日が初陣という魔王軍のいち新兵、ヴィレントはベスフル軍という大軍に所属し、小規模部隊を率いる人間側の英雄という扱いらしい。
「んんー、なんだか難しい話だったな」
「そんな事はないだろ。わかりやすく、シンプルに出来てる」
エルドにそんな突っ込みを入れられてしまった。ちゃんと理解はしているよ?
「やぁ、二人とも。先の戦いでは本当に助かった。
突然ですまないけど、二人に聞きたい事があるだが……」
砦の中を適当にふらついていた俺達に声を掛けてきたのは、ネモだった。チェントも一緒だ。
「よ。なんだ?」
「……魔の谷は戦場だった。そして、あの場に居たのは魔王軍か、ベスフル軍の人間のみの筈だ。
ソウキ、エルド。君たち二人は一体、何者なんだ?」
む。至極当然の疑問だが、そんな事をAIに聞かれるか。
さて、何と言うべきかなのか。
「知らん」
で、結局こんな答えを返してしまった。
考えに考えた挙げ句がこの返答だと思うと、なんだか自分でも悲しくなってくるな。
「そんなどうでもいいことを、いちいち気にするな。
俺達は魔王軍に付くことを選び、ベスフル軍の敵となる事を選んだ。そんだけの事だ」
「そうか。……そうだな。
実はな、俺とチェントは今から二人でベスフルの本陣へと奇襲を掛けに行くんだ」
ネモは一枚の地図を俺達に見せる。
「ここが、敵の本陣?」
エルドは地図の印の部分を指差し、ネモへと尋ねた。
「そういう事だ。本陣の奇襲から帰還するまでの間、二人には俺達の代わりにここに待機し、砦の守りに入って欲しい」
「なるほど、俺は問題ないぜ?」
「俺もだ」
俺とエルドは、ネモに向けて首を縦に振ってやる。
「問題はそっちだ。生きて帰って来れるのか?」
チェントとネモに対し、俺は交互に視線を向けた。
本陣を攻めるって言ったら、相当守りの固い所を攻める訳だよな。
幾ら奇襲って言ったって、たった二人じゃ厳しいものがあるだろう。
ヴィレントが居るならば尚更、だしな。
「無理だと判断したら即座に撤退する。俺はチェントに無理はさせないし、チェントが居れば俺は死なない」
うんうんと、チェントはネモの言葉に続いて頷いている。
「随分な自信だな。んま、そこまで言うなら止めはせんよ。……ちゃんと生きて帰ってこいよ?」
俺はネモの胸元へと拳を向けた。
「……あぁ、必ず。約束だ」
向けられた俺の拳に、ネモは拳を触れ当て、短いながらも、強い意志を持って言葉を返してくる。
「んじゃ、頑張ってな」
今度は言葉を返す事なく、ネモは背中を向けて立ち去っていく。
その後に続いて数歩歩いていったチェントが振り返り、手を振ってきた。
手を振り返してやると、少しの笑みを見せ、チェントは置いて行かれまいと、小走りでネモを追いかけていった。
二人が砦から出ていったすぐ後、ローディング画面へと視界は切り替わる。
そして、視界が俺達のものへと返されると、日は進み、既に魔王軍とベスフル軍の二度目の戦闘が開始されていた。
……ヴィレントの姿が確認されていないという一報を受けた俺とエルドは、魔王軍が砦へと帰還する為のルートの安全を確保するべく、砦から出てすぐの場所で待機していた。
「来るかな。ヴィレント。……手強かった」
手強かったというエルドの発言には同感だ。
自分の身でもヴィレントの強さは痛感したが、コイツが言う程だ。ヴィレントは相当に強い。
「……俺なら、だが」
「?」
エルドへと向け、俺は一つの考えを話した。
「俺がヴィレントなら、あの単騎での戦闘力を活かして、ベスフル軍とは全くの別角度から強襲を畳み掛ける。
……例えばだが、戦闘を終えて、消耗した魔王軍が砦へと帰還するここ。だとかな」
「……確かに」
少しの沈黙の後、エルドは顎に指を当てながら俺の考えに賛同してくれた。
「だけど、それはソウキなら、だ。
俺達から見るヴィレントにはHPが設けられているけど、ヴィレントから見るヴィレントにはHPは見えてない。
……俺の言いたい事、わかるかな」
なんとなくだがわかる。
俺らから見るヴィレントは、ゲーム内の存在に過ぎない。
だがヴィレントから見るこの世界は、俺達で言うところの現実世界だ。
自分のHPが見えている訳じゃない。
設定されているとも、自分では認識は出来ていないだろうな。
例えばの話だが、ヴィレントのHPが10、そして、弓矢の攻撃力が9だと、この世界の内部設定が施されていたとする。
生身で矢を受ければ致命傷だし、その状態で何らかの攻撃を受ければ、ヴィレントは当然死ぬ。
だけどそもそも、HPなんてものが見えていないなら、自分のデッドラインというものがとても曖昧になる。
あの攻撃を受けたら死ぬとか、あれはヤバい、みたいな直感的な判断が全てになると言うことだ。
そんな状況で、果たして俺と同じ思考にヴィレントが至るか、至れるか、という話をエルドはしている。
冷静に、機械的に、相手に大打撃を与える戦術を組み上げ、それを実行に移せるか。ということ。
「わかる。が、それを可能にするのが、しちまうのが、英雄ってモンなんじゃないのか?」
「そこまではわからない。ソウキ、ヴィレントがもしこの付近に現れた場合、俺達はどう動く?」
「そりゃあもう、なんとかしてヴィレントをここから引っ剥がすしかねぇだろ」
俺の直感だが、ヴィレントはそういういやらしい戦い方が出来る。……いや、やれちまう奴だと思っている。
「んま、ゲームの中の存在に対して、直感もクソも無いんだけどな」
「――ヴィレントだっ! ヴィレント・クローティスがっ!」
兵士の一人が俺達の元へと駆け寄り、ヴィレントの登場を知らせてくれた。
「来たか!」
「……やるな。ソウキ」
「ったりめぇだ。戦況をひっくり返しちまうような奴ってのはな、決まって絶対に頭のネジが一個から全部ぶっ飛んでんだよ」
「それだと、ソウキもぶっ飛ん……。いや、なんでもない」
何か今、スッゲー聞き捨てならねぇ事をエルドから言われたような気がするが……。まぁいいや。
「ぐだぐだしてっとヴィレントに戦場を荒らされちまう。行くぞ!」
「おうっ!」
俺達は戦場へと向かっていった。
「はっ……はぁ。またしても……。お前達はぁっ!!」
息を大きく吸い、肩を揺らしながらヴィレントは剣を構える。
ヴィレントのHPはさっきの戦闘時から引き継がれていて、二割程削るだけでイベントが発生した。
「残念だったな。ヴィレント」
魔王軍にヴィレント以外の全ての敵を引き受けて貰い、俺とエルドはヴィレントに対して執拗なまでに張り付き、狙いを絞った。
そのお陰もあってか、苦戦する事なく残りHPが三割となったヴィレントは撤退。
ベスフル軍も時を同じくして、敗走していくのだった。
伝令兵から戦況を聞くに、魔王軍は圧倒的な優勢を保っているらしい。
魔王軍が砦へと帰還した段階で、ローディング画面へと視界は奪われた。
クエストが、次のフェイズに入ったという事だな。




