いつか見た共闘《ふたり》:前
ようやく、ようやくアトラフィ戦の決着回です!
ドロップアイテムの確認回と、少しの話を挟んで三章は終わりとしたいと思います!
この「いつかみた共闘」は前編となります!
中編があるかどうかはわかりませんが、後編はだいぶ後になるかと思います!
宜しくお願い致します!
「行くぞ、ソウキ。……本気で、勝ちに」
本気、ねぇ。正直そういうのはガラじゃないんだけど、たまにはいいか。
なんだかんだで、さっきガチになってたしな。
……コットの声で正気に戻った、というか戻れたけど、戻ったら戻ったで俺の集中力的に限界が近い。視界がぼやける。
(仮想現実の中なのに視界が霞んだりすんのかよ……)
「……あいよ。頼むぜ、相棒」
制限時間の残りは一分半。アトラフィの残HPは一割ちょい。
ったく、さっきの時点で他の奴らに任せときゃあ良かったぜ。
ブチ切れてると、自分自身何を言ったりするかわかったモンじゃない。今はさっきより冷静だけどな。
ともかく今は、目の前の敵に集中しないとな。と、その前に……。
「コット! 回復のタイミングはエルドに合わせろ! 絶対ぇミスんじゃねぇぞっ!」
これだけは言っとかねぇとな。
最後の最後でアトラフィに、勝つチャンスをひっくり返されちまう。
「はいっ! ……二人とも、勝って下さい!」
なんつー激励だ。こりゃ負けらんねぇぞ? エルド。
俺はエルドよりも先に、アトラフィへと突っ込んで行く。
実は一旦距離を取って、再度アトラフィへと近付く時が一番危険だった。
袈裟斬りはまぁ避けられる。問題はその次だ。
レッドゾーンで攻撃パターンの変化したコイツの深い角度の袈裟斬りは、攻撃後に腕を返しての横一文字の一閃が派生追加される。
鋭角の二撃を避けきる事は難しい。
だけど俺は最小限のダメージで、この初撃を抑えなきゃいけない。そこで拳闘の出番って訳だ。
「……っへへ、俺ってば天才」
俺はダメージを負うことなく、アトラフィへと接近する事が出来た。
アトラフィの右腕に取り付けられたブレードは、俺の体に触れる事なく拳闘で腕ごとその攻撃をせき止めている。
PvPの戦闘とは違う、対モンスター戦の面白い所は、武器同士で打ち合った時、攻撃力の高い方が相手へとダメージを通す事が出来るという所だ。
しかしながら、アトラフィの攻撃力の方が俺の攻撃力よりも断然高い。
だからどうあっても、俺にダメージが入っちまう。
だがそれは「ブレードと打ち合ったら」の話だ。
ブレードの付け根の部分から向こう側、つまり腕部は武器判定として設定されていない。
さっきアスティの手首にやった事と同じだ。
これは恐らく、武器を使う全ての者に適用された、ひとつの秩序みたいなものだろう。
そしてたった今俺は、アトラフィの攻撃をカットすると同時に、逆にアトラフィへとワンヒット攻撃を当てる事が出来た。この一撃はかなり大きい。
後は、アトラフィの背後へと回っているエルドの一撃目が来るまでに、俺がどれだけコイツへと持ちうる火力を叩き出せるかだ。
「くっ! お前……。本当に強いな。小細工の効かねぇ敵ってのは、どうにも厄介だっ!」
アトラフィの左腕や脚から繰り出される格闘攻撃を食らいながらも、負けじと反撃を加えていく。
それでも、やっぱりブレードによる斬撃がメイン火力なのか、格闘攻撃ではそこまでのダメージは入ってこない。
「あと……。もぉぉちょいぃ!」
コイツのブレードと俺の拳闘では、そもそも攻撃のレンジが違う。
俺が今やっている事は、常に拳闘のレンジで戦う事で、アトラフィの攻撃アルゴリズムを格闘攻撃のみに書き換えてしまう力技だ。
ブレードに当たりさえしなけりゃ、デカいダメージは入らないからな。
多少強引にでも、アトラフィの懐に入り込んで行くぜ。
そして忘れちゃいけないのが属性の相性。
機械系の敵は打撃属性と雷撃属性の攻撃に弱く、それ以外の攻撃には耐性がある。
だから多分、俺とエルドがアトラフィへと与えられる一発あたりのダメージはほばイコールと言ってもいいだろう。
……攻撃の手数を除けば、の話だがな。
「はぁぁぁぁあぁっ!」
来たなエルド。相当にベストなタイミングだ!
蒼白い雷撃のエフェクトがアトラフィの背後に走っているのが、アトラフィの体の隙間からよく見える。
ここで俺は一度防御に徹する。
やっていることは前半と同じだが、上手く位置調整をしてやらないと、俺はブレードの攻撃を食らっちまうし、エルドの方にまで攻撃の手が伸びちまう。
エルドへと完全に敵視が切り替わるまでは、恐らく防御力の高い俺が盾役になる必要があった。
「来たっ……!」
アトラフィの目が紅く光る。エルドの連撃によって、敵視値が更新された合図だ。
あと四十秒……! メチャクチャにギリギリだ!
「行くぞエルドっ! 覚悟決めろよっ!」
「あぁっ! これで終わらせるっ!」
アトラフィがエルドの方へと向きを変えるその瞬間に、俺は拳闘から拳闘へと上書き錬成した。
肝心の瞬間に武器が壊れたらシャレにならないからな。勝率がミリでも上がるよう、万全の状態で殴りかかる。
――だが、状況は少しだけ俺の予想の斜め上を行った。すこーしだけな。
HPが一割を切った瞬間、俺達がアトラフィへと与えるダメージが小さくなったような気がしたのだ。
「っ!? 急にダメージが通りにくくなったぞ! ソウキ!」
「構うな! 全力で攻撃しろっ!」
アトラフィは一瞬の発狂状態になっているのだろう。これもゲームではよくあることだ。
特定の状況下に陥ると、モンスターが特殊強化状態へと昇格する。
この状態になると一時的に、もしくはHPが尽きるまで攻撃パターンの変化や、パラメータの大幅上昇なんかが起こったりする。
恐らく、それがアトラフィにも設定されているだけの事。
――だが甘い。それすらも、俺にとっては想定の範囲内だ。
待ちわびていたコットの最後の回復が、俺とエルドのHPを全快まで持っていく。
「っし、こっち向いたな!」
もう一度拳闘を上書き錬成し、アトラフィと正面から向き合う。
恐らく、これが最後の殴り合いとなるだろう。
瞬時に繰り出される斬撃に目もくれず、錬成武器の火力だけを信じてアトラフィの胴体部を殴りまくる。
静かだ。二人、いや。三人だけで戦っているだけからかもしれないが、前方から聞こえる妙な駆動音と、バチバチと鳴るエルドの雷撃属性攻撃の効果音。
そして俺がアトラフィを殴る度に鳴る、鈍い音だけがずっとこの場に響いている。
「さすがに死ぬ……。かな」
アトラフィのブレード攻撃の威力は本当にヤバい。
格闘攻撃を誘発しようにも、残りの俺の体力ももうあと僅かしかない。
「まだだ……! いい加減……、くたっばれぇぇぇっ!!」
精一杯に伸ばした拳は多分、アトラフィへと当てれたと思う。だけど――。
――HPが尽きた。俺は死んだみたいだ。
立っているのかも、地に伏しているのかもわからない。HPがゼロになるってこんな感覚なのか。
視界が赤く染まり、中央に浮かぶ白いテキスト。
[蘇生受付時間:残り10秒]
……だとさ。多分この十秒が過ぎたら、俺は安全エリアへと送られるんだろう。
(すまん、後は頑張ってくれ。エルド)
あれこれと考えている内にカウントはゼロになり、俺の視界の中はほんの数秒だけ、真っ黒になった。
「あん? 昼のアトラリア砂道……」
目を開けたそこは、俺のよく知るアトラリア砂道の景色だった。
あっ、そういえば死んだ瞬間って、制限時間ギリギリだったっけか。
多分通常フィールドに戻されたんだな。
「勝て、たみたいだな」
視界にはウィンドウがぽんっ、と置かれていた。
『クリアレコード更新のお知らせです。
・エクストリームボス:血塗られし人造神機・アトラフィのファーストキル
以上のレコードを更新しました。おめでとうございます。』
そこにはこんな事が書いてあった。
アイツのファーストキルもレコードに載るのか。ま、それもそうか。一応はボスだった訳だし。
そして、この激戦で俺のレベルは9へと上がった。
経験値はしょっぱめだけど、ここはひとつ、ドロップアイテムに期待するとしようじゃあないか。
無事に勝利を収めたこと、レコードに載ることが出来たことの嬉しさよりも、とにかく精神力と集中力が大きく削られたような、疲労感の方が強い。
「……クッソ神経持ってかれた! とりあえずログアウトすっか……」
そう思ってメニュー画面を開こうと、ポーチををタップしようとした瞬間――。
「おっ! いたいたっ!」
「ソウキさーん!」
こっちに向かって、叫びながら走って来ているエルドとコット。……んだよ。騒々しい。
「勝ちましたね! 勝ちましたねっ! 凄かったです、ソウキさんっ!」
俺の元まで辿り着いたコットの発した第一声がこれだ。
……コットって、こんな奴だったっけ。
「エルドが最後、削りきってくれたんだな」
「……ほぇ?」
コットの目が点になったような、ならかったような、結局ならなかったんだけど。
まぁそんな、呆けた顔を見せた。
「えっ?」
思わず俺は聞き返してしまう。倒したのはエルドでは無い?
「お前とアトラフィは、相討ちだった」
「あっ、そうなの?」
「とりあえず、ゆっくり出来る場所へと移動しよう。
……アトラフィの居た付近は今、お祭り騒ぎだぜ? 大興奮だ!」
そんなエルドも、興奮を抑えきれないと言わんばかりに声を荒げていた。
何だか一番見てなきゃいけない瞬間を見逃したような、ちょっと残念な気分だ。
ともかく、俺達は三人でゆっくりと話せる場所を目指して、バリトンの町へと入っていった。
【結晶士】ソウキ:レベル9
所持スキルポイント:13
所持スキル:
【錬成の心得:Ⅰ】
錬成した武器の耐久力を上げる。
錬成武器を装備している間、僅かに攻撃力が上昇する。
【拳闘武器錬成】
拳闘が錬成可能になる。
【マルチウェポン】
錬成武器専用の特殊ショートカットが使用可能になる。
装備限定スキル:
【機械天使の祈り】
2秒間に1度、装備者の最大HPの1%を回復する。
【闘竜の怒り】
被ダメージを15%軽減する。
竜族、竜人族に対する与ダメージを15%増加、被ダメージを20%軽減する。
 




