DEAD=SET
三人称視点回です。
今回で決着回とする予定でしたが、5000字こえるかもしれないと思ったので切り分けました。
明日の更新でアトラフィとの決着回となるので、宜しくお願い致します!
「す、げぇ……」
プレイヤーの一人が、何かとてつもないものを目にしているかのように、驚愕の声を上げていた。
周りのプレイヤーさえも、食い入るように一人の男の猛勇をその目に、その記憶に焼き付けるように見眺めている。
「あの火力、一体どうやって出してるんだ?」
「……わからん。さっきは素手で殴ったり蹴ったりしてたよな」
一人がふと口にした疑問から、プレイヤーの間で様々な議論が飛び交う。
「格闘攻撃の方がダメージ出てたよな」
「だな、今の倍近くは叩き出していた」
「先駆者の可能性は?」
「……あり得る。寧ろその線が濃厚だろう」
四大ギルドの中でも、『カラミティグランド』の攻略に関する情報を握る一部のプレイヤーは、ユニーク種持ちのプレイヤーのことを先駆者と呼んでいる。
七人七種の特異な職業は、それぞれ得意な事、不得意な事、更にはユニーク種としての成長的デメリットが組み込まれてる。
そんなこの七人には、ある重要な役割がある。
職業の中には、神官や狩人といった、「特定ボスを何者かが倒して初めて解放される」特殊な種がある。
その解除役が先駆者。つまりはユニーク職業を持つ者達だ。
大勢の目の前でエクストリームボス、血塗られし人造神機・アトラフィと一対一で戦闘を行っている一人のプレイヤー。ソウキ。
だが当然ながら、今の時点ではこのプレイヤーが、四大ギルドを差し置いてその名をレコードに刻みつけたソウキである事など、誰も知らない。
ソウキの戦いを周囲で息を呑み、見守ることしか出来ないプレイヤー達は、実のところは四大ギルドに所属するメンバーで大半が構成されていた。
このプレイヤー達は、言わば精鋭部隊なのだ。
武器も初期装備から一つ上のランクの物を支給され、『カラミティグランド』において最もレアなアイテムとされる、防具を身に付けている者さえ居る。
そんな者達が、さも外野に送られてしまったとでも言いたげな程の、ソウキの圧倒的な戦闘力。
まるでエルドが姿かたちと、その戦闘スタイルをガラリと変えて現れたかのように、ソウキの戦闘を見ている周囲のプレイヤー達は感じていた。
……エルドは間違いなく、四大ギルドに所属するプレイヤー全員が認める、『カラミティグランド』のトッププレイヤー。
ボスモンスターのソロ討伐。
この記録は他の三ギルドだけでなく、エルドの所属しているギルド、『硯音』のギルドメンバーすら震撼させた。
本人が公言していないために全く疑惑を持たれていないものの、エルドを動かしているプレイヤーは『in world』のスタープレイヤー、ディラン・マルティネスだ。
ディランの『in world』時代の輝かしい戦績を支えた、競技戦闘においての技術的なセンスもさることながら、『カラミティグランド』内でのエルドの存在感を更に押し上げているのもの。
それはエルドの職業がユニーク種だという事に他ならない。
そして事もあろうに、その職業が種の段階からネームド職、魔剣士であったという事だ。
……火、氷、雷、光、闇。
魔剣士の初期装備である刀身の無い剣「ガラハディン」に、聖属性と暗黒属性を除いた五種の属性。
これを付与した刀身を生み出して戦うこのユニーク種は、スキルによる与ダメージの上昇、ガラハディンを強化しての基礎的な攻撃力の底上げ。
更には常に敵の弱点属性で戦う事が出来るという、全ユニーク種の中で、最も火力に特化した職業であると言えよう。
当然、そんな魔剣士にも弱点は存在する。
スキルによってMPを消費しながら、武器となる刀身を生み出して戦うこの職業は、継戦能力がMPに依存したものとなる。
MPを回復する手段が現状ではスキルによる自然回復しか無い為、MPの消費配分を考えながら立ち回らなければならないという点だ。
そして、種の時点でネームド職ということもあり、上級職への転職の条件が、ソウキやコットと比べてもかなり重ために設定されている。
もう一つ、『カラミティグランド』のゲーム進行をしていく上で致命的とも言える弱点を、魔剣士は抱えていた。
「あいつ……。本当に一人でやっちまうんじゃ……」
アトラフィのHPゲージの全体の三割までを、この場に居る全員で少しずつ削っていった。
しかし、HPがレッドゾーンを迎え、危険度の増したアトラフィの攻撃をかいくぐりながら、残った三割の内の半分を、ソウキはたった一人で怒涛の攻撃の乱舞で削っていく。
「あんな強引に削れるものなのか……」
避けられる攻撃だけ全て避け、避けられないと判断したであろう攻撃は、時に右手に握られた短刃剣で弾いて防ぎ、時にダメージを貰いながらも、それをお構い無しに攻撃を仕掛けていく。
エルドの後方に控えたコットの回復を受けながら、ソウキはアトラフィに対して一瞬たりとも、攻めの手を止める事はない。
アトラフィの撤退まで、残り時間は二分を切ろうとしていた。
「よくやった銀髪の! 倒せば報酬は出るんだ!
全員死ぬ気で攻めるぞっ!」
プレイヤーの一人が大声を上げた。
確かに、全員で取り囲んでしまえば、制限時間までにアトラフィの残りのHPを削り切るのはそう難しい事では無いだろう。
だが――。
「俺のボスを横取りすんじゃねぇ! 引っ込んでろっ!」
ソウキが怒声を上げ、プレイヤー達の参戦を拒絶した。
その声に、戦闘に参加しようと踏み出した者を含め、この場に居る全てのプレイヤーは畏怖した。
「勝つ……。勝つ……! 俺は……。俺がぁぁぁあッ!!」
血走ったように叫び声を撒き散らしながら、ソウキは攻撃の手を速めていく。
「ソ、ソウキさんっ! 次でMPが無くなりますっ!」
度々ソウキの身を包んでいた回復の光。
その最後の黄緑色のエフェクトがソウキの身体から消えた瞬間、コットが叫んだ。
「……クソッ! 後少しだってのに!」
もう何度、コットから回復を受けたかわからぬ程に、ソウキは被弾していた。
過去最高の激戦。それでも倒れない敵。
一度身を退き、ソウキは息を整える。
といっても、仮想現実の中。息など上がってはいない。
ソウキが息を整えたのは、集中力を高める意味合いでの事。
「待たせたな」
ソウキの横に立ち並ぶ、一人の剣士。
「んだよエルド。俺一人で倒すからあっち行ってろよ」
「バカ言うな。時間もない、コットちゃんのMPも無いんだろ? アイツを倒すには二人で行くしかない」
「なんだよコットちゃんって。キモいぞ」
「仕方ないだろ? まだ自己紹介すらしてないんだ」
「……そうだったな。後でドロップアイテムを眺めながら、自己紹介とすっか」
そう言ってソウキは手にしていた短刃剣を放り投げ、水晶の塊を両腕に纏わせた。
錬成石から生み出せる、拳闘種の武器である。
「行くぞ、ソウキ。……本気で、勝ちに」
「……あいよ。頼むぜ、相棒」
そしてこれから、後の『カラミティグランド』の伝説として語られる事となる、二人のプレイヤーの、最初の共闘が始まるのだった。




