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柏木惣の亡霊《かげ》

次回、決着回でございます!

レアアイテムもちゃんと考えてあるよ!


今回更新分は昨日上げる予定だったものなので、夜また更新します(゜ロ゜)


宜しくお願い致します!

 

「流石に、全員が攻撃に参加すると早いな」


 残り時間は十分。アトラフィのHPはなんだかんだで、半分の所まで差し掛かろうとしていた。


 ……俺とエルドが全力でアトラフィを殴る事で敵視(ヘイト)を全て引き受ける。


 そして周囲のプレイヤーが一人ずつ側面から攻撃を与えていく、対アトラフィ戦専用の即席陣形「オペレーション:チクチクタイフーン」のお陰で、制限時間内の討伐が時間的にかなり現実的なものとなっていた。


 エルドと俺は、常にアトラフィの前後を二人で挟むよう対角に位置取り、敵視(ヘイト)が回っている方はアトラフィの攻撃を全力で防ぐ役に徹する。

 そして敵視(ヘイト)の回っていない、ガラ空きの背中側に居る方が全力で殴り、敵視(ヘイト)を互いにパスし合うようにしている。


 当然だが、側面を攻撃するプレイヤー達の与えるダメージの総量が、俺達二人で与えるダメージの合計値を超えてはいけない。

 敵視(ヘイト)が回ったら回ったで、アトラフィの挙動に常に注視していないといけない。


 他のプレイヤーに支援してもらいながら、二人で敵視(ヘイト)をコントロールし、二人で火力とタンクをローテーションしている感じだ。


 これがまたすんげぇ精神的に疲れるのなんの。


 敵視(ヘイト)が切り替わった瞬間、俺は拳闘(ナックル)から直剣(ブレード)へと錬成し直さないといけない。

 それが終わったらアトラフィと剣を打ち合い、次の敵視(ヘイト)値の更新まで耐える。


 ……やる事多過ぎんだよ!!


「おっし、攻守交代だな!」


 アトラフィの目が紅く光った瞬間が、敵視(ヘイト)値の更新された合図だ。


 そこでようやく一息つける。

 でも今度は、こっちが火力を叩き出さないといけない。

 急いで直剣(ブレード)を投げ捨て、拳闘(ナックル)を錬成して殴りにかかる。


 これが一連の流れだ。

 一応コットの回復が予防線とはなっているものの、油断して被弾しようものなら、装備で防御力を上げ、シリーズ装備ボーナスでダメージ軽減まで入っている俺でも、HPの約三割は持っていかれる。


 現状では、装備の整っていない他のプレイヤーなら恐らく瞬殺だろうな。

 もう少しスキルや装備が整っているなら、対策や戦術の幅も利いたと思うんだけど。


(しっかし……。コイツやべぇな。ナニモンだ?)


 ……恐るべきエルド。

 アトラフィの攻撃を避けては、もしくは剣で捌いては、逆にアトラフィへと一撃返している。

 俺が戦闘に参加してから、エルドはノーダメージだ。


 エルドの持つ剣、ガラハディンとか言ってたっけ。

 と、エルドがまるで踊っているかのような、ハイスピードな剣戟。

 それをまざまざと見せつけられている。


 何? 見えてんのそれ? みたいな疑問が湧くレベルの攻防がたまーにある。


「……なるほどな。ボスをソロでやっちまう訳だ。イヤだねぇ天才ってのは」


 ったく。どエラい奴とフレンドになっちまったぜ。


 ……そうこうしている内に、アトラフィの残りHPは三割に差し掛かろうとしていた。

 イエローゾーンは設定されていないのか、アトラフィのHPゲージは未だに緑色だ。


 もしかしたらこのまま押し切れるんじゃ……。

 なーんて甘いこたぁなかった。


「HPがレッドゾーンに入った! 全員一旦退け!」


 エルドの声と共に、全員が攻撃の手を止めて後退する。

 残り時間は七分を切ったところ。ここまで来たら討伐まで持っていきたい……!


「レーザーが来るぞ! 盾持ちはきっちりガードしろよ!」


 エルドの言った通りに、アトラフィは赤い翼を大きく広げ上空へと飛んでいく。

 戦闘開始時に撃ってきた、あの卑怯なビーム攻撃の合図だ。

 実はここまでHPを削るまでにも、開幕攻撃以外でビーム攻撃を二回ほど撃っている。


「おいなんかアイツ、構えがさっきと違くね?」


 アトラフィは定位置に着くと左腕を俺達の方へと向ける。

 大きな赤い光の球がそこにあるのが、こっちからよく見える。


「やべぇっ! すっげぇ拡散した!」


 クッソ……。この攻撃をかわすのは無理だ!

 なんでビームが追尾(ホーミング)するようになってんだよ!?


 赤い光の球から、これまた無数の赤いレーザービームが生み出され、かなりのプレイヤーがこれに被弾した。

 っていうか追尾(ホーミング)してくるから、狙われた奴は全員被弾したな。


「コット! 大丈夫かー?」


「はっ、はいぃ! 何とか無事ですぅ!」


 うへぇ……。コットの奴、HP四割も持ってかれてるじゃねぇか。全然大丈夫そうには見えない。

 ただコットは自分で回復も出来るし、前線には出さねぇし、大丈夫っちゃあ大丈夫か。


 ……ってもうコット回復使ってるわ。安心安心。

 ついでに俺達のHPも全回復した。


「……しっかし、あんな大技隠し持ってたなんて。流石はレッドゾーン」


 悠長な事言ってる場合かエルド。


 まぁただ、さっきまでのビーム攻撃よりも、威力が少しだけ小さくなっている。

 被害は甚大なものになるが、それでも一撃あたりの死ぬ可能性が低くなったのは助かる。


「勝てると思うか? ここから」


 何となく、そんなことを聞いてみた。


「逆に聞くけど、勝てないと思うか?」


 エルドはにっこりと笑ってそう言った。アバターキャラクターだが、なかなかに爽やかなスマイルだ。

 ……っておい、質問を質問で返すんじゃねぇよ。


 いや俺だって勝ちてぇよ? レアアイテム欲しいしな。


「それは、戦ってみねぇとなんとも言えねぇな」


「そ。それいでいい。さぁ、来るぞ。ソウキ」


 ビーム攻撃を終えたアトラフィは、ゆっくりと降下してくる。


「せーので仕掛けるか?」


 俺はそんな子供じみた提案を、茶化すようにエルドにしてみた。


「それアリかも。俺が合図していいか?」


 アリなのかよ……。

 まぁ、向こうがタイミングを出してくれるっぽいし、ここは意地でも合わせていきたいね。


「任せる。それに合わせて突っ込んでやるよ」


 エルドは既にガラハディンを構え、アトラフィを迎え撃つ態勢を整えていた。

 俺も、それに続くように拳闘(ナックル)を錬成する。

 エルドの声に反応していつでも飛び出せるよう、意識を集中させる。


「せーっ……、のっ!

 っておい! ちょっとフライングしてんぞっ!」


 エルドの「のっ!」が遅すぎて、俺の方が気持ち早めに飛び出してしまった。


「アホかっ! タメ過ぎなんだよ!」


 結局タイミングを合わせるもクソもなく、俺達はバラバラに、アトラフィが着地するだろう地点の間際へと辿り着いた。


「っちっ! 面倒な攻撃を……!」


 地上へと降り立って来たアトラフィと俺達との戦闘が再開されたのだが、HPがレッドゾーンへと入ったアトラフィは、例のごとく行動パターンに変化が入った。

 速さを活かした手数の少ない一撃ではなく、連続攻撃をメインに仕掛けてくるようになった。


 剣のみで戦っていたさっきまでと違い、蹴りを挟んできたりといった、変則的な攻撃もある。


 更にコイツの厄介な所は、俺達二人を同時に相手に出来るようになったという事。


「クッソ! 隙がねぇ!」


 俺はエルドと共に、アトラフィから一旦身を引く。


「……おい。お前、本気で戦ってるか?」


 突如、エルドからそんな事を聞かれた。


「あん? 本気も何も、大マジだぞ」


「……本当か?」


 ったく。なんだってそんな――。

 ――なんだ? 昔も、俺に対して本気って言葉を口にして突っ掛かってきた奴が居たような。


 また、記憶の何処に仕舞い込んでいたのかも覚えていないような映像が、突然頭の中に流れ出す。


 ――あんた、今の試合、本気で戦ってなかったでしょ。

 (うるせぇよ)


 ――本気を出すまでも無いだろ?

 (そうだよな? たかがゲームに)


 ――どれだけ相手が格下だろうと、あんな風に相手をバカにするような戦い方、私は認めないっ!

 (認めるだの認めないだの、本当に、くっだらねぇ)


 どいつもこいつも、ゲームごときにマジになり過ぎだっつーの。


 ……俺を縛る、『in world』時代の記憶達。

 何故今になって思い出すのか。そんな答えはいとも簡単に出せちまう。


 やっぱ、どうあってもディランなんだよ。


 俺の目の前から姿を消したはずのディランが、今『カラミティグランド(この世界)』のどこかに居る。

 テュリオスは……、いやだいだいはそう言っていた。


 その可能性だけが、俺をまたゲームの世界へと連れてきた。

 その可能性だけが、俺をここまで楽しませてくれている。


 俺自身は、確かに柏木惣だ。当然、自覚もしている。

 だけど、柏木惣の亡霊(かげ)。……過去の栄光みてぇなもんが、常に俺に引っ付いて離れない。


 そして否定するんだ。今の俺を。

 ……まるで、俺の方が影だと言わんばかりに。


 (変わらない。変われない。か……。本当にお前の言う通りだよ、コット)


 ソウキとして今ここに立っていたって、結局俺は、柏木惣のまんまさ。


「……上等だ。エルド。……今からお前に、俺の本気を見せてやる」


 啖呵を切った以上、やるしかねぇ。

 大抵こういうのって、言ってから思うよな。

「余計な事口にした~!」って。


 そして俺はアトラフィの方を向いた。

 アトラフィはゆっくりとこっちに近付いてくる。相変わらず隙があるようには感じないな。


「けっ。こんなもん使ってっから、プレイがオキにいっちまうんだ」


 俺はショートカットを操作し、拳闘(ナックル)から短刃剣(ダガー)へと上書き錬成する。


 ……さて。五年のブランクか。

 正直言ってそんなモン、そうそう簡単に埋められる気がしないが、今の俺は機嫌が悪い。


「俺の八つ当たりに付き合ってもらうぜ。カラクリ野郎」


 仮想現実による肉体の可動補正。これに全てを託すしかないな。

 後は、俺の「カン」が鈍ってなけりゃあ、あんなガラクタ風情、残り時間の五分以内にぶっ潰してやる。


 これから始まる、アトラフィとの最後の殴り合いに備え、俺は武器を構えた。



 ――この時、ソウキを見ていたエルドの表情(かお)が、とても嬉しそうな笑顔であった事を、ソウキは知らない。






【結晶士】ソウキ:レベル7


 所持スキルポイント:9


 所持スキル:


【錬成の心得:Ⅰ】

 錬成した武器の耐久力を上げる。

 錬成武器を装備している間、僅かに攻撃力が上昇する。


【拳闘武器錬成

 拳闘(ナックル)が錬成可能になる。


【マルチウェポン】

 錬成武器専用の特殊ショートカットが使用可能になる。


 装備限定スキル:


【機械天使の祈り】

 2秒間に1度、装備者の最大HPの1%を回復する。


【闘竜の怒り】

 被ダメージを15%軽減する。

 竜族、竜人族に対する与ダメージを15%増加、被ダメージを20%軽減する。


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