開幕のビーム
もうちょっとアトラフィの外見に関する描写まで迫れれば、と思ったのですが次回になってしまいます。
お付き合い頂ければと思います!
「文面や演出の扱いからして、間違いなくヴォイドエッジアーミーよりも強敵が出てくるだろうな」
俺はプレイングマニュアルに追加されていた、[特殊ボス]の項目にある、エクストリームボスというページを眺めていた。
そこにはこんな事が書かれている。
『エクストリームボスが現れました。
このボスは一定期間毎に現れる、フィールド参加型のイベントボスです。
ボス登場時、対応フィールドに滞在しているプレイヤーは全員強制参加となり、専用のフィールドへと転送されます。
エクストリームボスが撤退するまでの規定時間内に撃破する事が出来れば、参加プレイヤー全員に豪華なアイテムがドロップする可能性があります。
見事撃破し、レアドロップをその手に収めましょう。』
と。これはこれは、なかなかに胸アツなイベントだな。
アナウンスを聞きつけてプレイングマニュアルを見たのか、バリトンからぞろぞろとプレイヤーが出て来だした。
こんなに居たの!? ってな勢いで、安全エリアはプレイヤーで埋まりそうになっていた。
瞬く間に安全エリアの七割程をプレイヤーが埋め尽くしていった。
それもそうか、皆フルパーティで挑むんだ。
何人がパーティの最大人数かは知らんが、パーティが幾つも集まれば、その数だけ掛け倍式に人数は増えていく。
「コット。少し場所を変えよう」
「はっ、はいぃ……」
プレイヤーの波で身動きが取れなくなる前に、俺とコットは安全エリアを脱出し、モンスターの生成されない区画を目座した。
「この辺でいいか」
少し広めの区画へと出てきた。
一応、オートボットとゴーレムの姿はあるにはあるのだが、もっと近くまで寄って行かなければ襲いかかって来る事は無いだろう。
「きっと、凄く強いですよね。エクストリームボス」
「さぁな。やり合ってみるまでは何もわかんねぇ。
……案外、拍子抜けするくらい弱ぇかもしれないぜ?」
強かろうが弱かろうがのどっちにせよ、本当の戦いが始まるのはHPがレッドゾーンに入ってからだろう。
そこのラインから急激に変わる攻撃のパターン。
それを如何にしてかいくぐり、残りのHPを削り切るか。これに全てが懸かっている。
「でも、あんなに沢山のプレイヤーさんが集まるとは思いませんでしたね」
「確かにな。あんなに居たんだって感じだ。まぁ居るか、ふつー。……おっ?」
[エクストリームボス:アトラフィのフィールド侵入まで残り3分となりました]
というテキストが目の前に現れた。ヤバい、緊張してきた……。
って程でもないけど、言葉にしがたい高揚感が、妙にふわふわとした感覚を身体に揺り起こさせる。
VRの世界の中でも、精神的な作用は現実とさして変わらないのが余計に、妙な感覚に陥る原因となってる可能性はある。
とりあえず、かの三分の間に出来る事といえば、スキルツリーを眺めるくらいか。
「んー……。アトラフィ戦に向けて【盾錬成】を取るか、【錬闘士】を取っておくのもありか?」
悩む所ではあるが、アトラフィという名前だけでは、ボスがどんな姿でどんな攻撃を仕掛けて来るのか、全く検討もつかない。
「ボスの姿を拝んでからスキルを取るのも悪くない、か」
アトラリア砂道全域に居るプレイヤーをイベントに巻き込む程のボスだ。
かなり広い専用フィールドが設けられているんだろう。スキルを取る猶予くらいはある筈だ。
ついでに、残りの時間を使って一応ではあるが、コットのスキル構成についても把握しておいた。
コットは回復魔法の回復力を上げるものと、魔法使用時の消費MPを少しだけ減少してくれるスキルを取っているらしい。
後はMPの自然回復が出来るようになるスキルもあるらしく、それに向けてスキルポイントを溜めているみたいだ。
MPの自然回復、か。
俺の装備している機械天使の首飾りに組み込まれた限定スキル、【機械天使の祈り】のMPバージョンみたいだな。
「さて、そろそろお出ましの時間だな」
そうこうしている内に、左上のミニマップの下に表示されている[アトラフィ出現まであと]のカウントは残り十秒を切っていた。
「テンション上がるな。コット」
「わ、わたしはそこまで……」
カウントがゼロになったその瞬間、コットのその言葉を最後に、俺の視界は例のローディング画面へと切り替わった。
『アトラリア砂道に住まう、全ての機械兵を従う事の出来る存在、アトラフィ。
かつて人と共に平和の道を歩んだ人造神機が人と対立する理由は何なのか。
今となってはそれを知る者は居ない。』
ローディング画面にはこんな説明が添えられていた。
この説明文からすると、アトラフィってヤツは『カラミティグランド』の内部設定的には、ヴォイドエッジアーミーよりも上位の存在らしいな。
いよいよローディングが終了し、視界は俺のものへと渡される。
フィールドは変わらずアトラリア砂道っぽいが、本当に特殊フィールドなのか先程居たはずのオートボットとゴーレムは、俺達の目の前から姿を消していた。
そしてこのアトラリア砂道の上に広がる空は、真っ昼間の青々としたものから、闇のような夜の深い紺色へと変わっている。
蒼をその身に纏った月が、周囲の闇を浅いものへと誤魔化してくれてはいるが、そんな蒼白の月を背景に、浮遊する何かが視界の遥か遠くに居た。
――血塗られし人造神機・アトラフィ――。
視界の上部にはアトラフィの正式名称らしきモンスター名と、その下にはそんなテキストの三倍くらいもある長さのHPゲージがある。
視界に捉えたそのモンスターの頭上に名前とHPが表示されるタイプでは無く、視界内に姿が見えていなくても名前とHPが見えるタイプのボス戦らしい。
普通のボス戦とは違う、急襲戦のような扱いか。何となくそんな予想はついていたが。
……急襲戦とは、一体または複数体の特殊モンスターに対し、大人数のプレイヤーが集まって戦闘を仕掛ける、強敵イベントバトルの事を言う。
元来のMMORPGなんかにあった急襲戦は、それぞれのジョブごとに与えられた役割があり、それを普段のボス戦よりも正確に、緻密に行えないと、それだけでパーティが崩壊してしまう恐れがある程、体力と精神力を大きく削るようなプレイングを強いられるバトルになる。
俺はMMORPGは苦手だったから、本当に触りしかやった事はないが、『カラミティグランド』での急襲戦は一体どうなるのか。
……さて、いよいよエクストリームボス、アトラフィとの戦闘が始まる訳なのだが――。
「んぬぉぉおっ!?」
「ソ、ソウキさんっ!?」
ご挨拶と言わんばかりの赤いレーザービームが、アトラフィから俺に向けてピンポイントで放たれた。
正確に言えば四回か五回、アトラフィはバラ撒くようにビームを放ったのだが、あれ全部誰かしらにピンポイントでブチ当ててんのか?
「じょ、冗談だろ……?」
もろに食らっちまったのはあるが、今のビーム一発で俺のHPの二割程が吹っ飛ばされた。
チクショウあの位置からこれだけの火力を出してくるのはズルくねぇか!?
そんな開幕の超遠距離ビーム攻撃を終えたアトラフィは、ゆっくりと降下を開始した。
「あの野郎、今の一撃は許さねぇ……。行くぞコット!」
「はいっ!」
アトラフィの姿を見失わないよう目で追いかけながら、俺達は奴の降下していくだろう地点へと向けて駆け出して行く。
【結晶士】ソウキ:レベル7
所持スキルポイント:9
所持スキル:
【錬成の心得:Ⅰ】
錬成した武器の耐久力を上げる。
錬成武器を装備している間、僅かに攻撃力が上昇する。
【拳闘武器錬成】
拳闘が錬成可能になる。
【マルチウェポン】
錬成武器専用の特殊ショートカットが使用可能になる。
装備限定スキル:
【機械天使の祈り】
2秒間に1度、装備者の最大HPの1%を回復する。
【闘竜の怒り】
被ダメージを15%軽減する。
竜族、竜人族に対する与ダメージを15%増加、被ダメージを20%軽減する。




