PvP《ぺーぶいぺー》―3
なんか、カイトシールドとラウンドシールドのことを書こうと思ったら文量すっごく上がっちゃいました。笑
とりあえずここでアスティとワタルとのPvP回は終了です。
「!? なんだ!?」
未だに左腕で俺を殴る程度でしか身動きの取れないアスティは、たった今俺の身体の周囲を包んだ光が何なのか理解出来ないようだ。
当然と言えば当然か。
そんなアスティは、ただ驚きの声を上げる事しか出来ないでいる。
「知りたいか? ……今のはな、回復の魔法だ」
俺は口元をつり上げて、薄らな笑みをアスティへと向けてやった。
――俺とコイツら二人で今行われている対人戦。その戦闘前まで事の始まりは遡る。
俺はコットへとパーティ申請を、こんなメッセージも一緒に添えて送った。
『俺が合図したら、回復をかけてくれ。合言葉は「コット」な。合言葉を聞くまでは動くなよ?』
と。
二対一という不利をひっくり返してしまう方法。
それはとーっても簡単だ。二対二という状況にしてやればいいだけの事なんだからな。
そう。戦闘前のあの瞬間に、俺がコットへとパーティ申請とメッセージを送る時間を与えてしまった時点で、コイツらの勝機は限りなくゼロへと近づいてしまったってこった。
だけど最初っからコットを戦闘に参加させちまったら、コットに狙いを絞られてしまう可能性も考えられた。
だからこそ、勝負を決めにかかる瞬間までは絶対に動かないように言っておいたのだ。
……おっと、汚いなんて言うなよ?
誰も初めから「俺一人で戦う」なんて言っちゃあいないぜ?
さて、俺がこうしてわざわざコイツらに向けて、そんな言う必要のないネタばらしをしたと言うことは……。
「エンディングだ。勿論、バッドの方だけどな」
俺はチュートリアルリッパーを鞘へと納めたその手で、アスティの右手首を掴んだままの左手首にあるショートカットを操作する。
左手の方に予備枠を仕込んどいて良かったぜ。
こんな風に、左手が全く使えなくなる状況なんてのは全くもって想定してなかったからな。
「なんだその武器!?」
「レア武器さ」
まぁ嘘なんだけどな。俺チュートリアルリッパー以外装備出来ないし。……ひがんでないからね?
そんな悲しい自己確認は置いておいて、本当はその辺に居るオートボットから取れる錬成石なんだよ。
と言った所で信じないだろうからな。
ユニーク種だって悟られないようにする為にここまで無茶な戦い方をしたんだ。
だから錬成武器を見られた(見せたんだが)からには、ここで一気に決めさせてもらう。
今もワタルに背後から攻撃は受け続けているものの、構う事なく錬成した短刃剣で二度三度と斬りつけていき、五回目の斬撃を加えた瞬間、HPが尽きたのかアスティの身体は地に伏した。
……なるほど。消えることの無いアスティの身体から推測するに、恐らくパーティメンバーが全滅するか、蘇生アイテム的な何かが使用されるまでは、その場に倒れて動けなくなるだけみたいだな。
これもチュートリアル期間とは異なる仕様だ。
「よぉーっし、後はお前だけだな。よっくも後ろからメッタ斬りにしてくれなぁ!?
俺は卑怯で汚い手段を使って勝つことは大好きだが、卑怯で汚い手段を使われて負けることは大キライだ。絶対に許さねぇ。覚悟しろ!」
ワタルの方を向きながら、錬成武器を左手に持ち替えてチュートリアルリッパーを抜く。
自分でも最低最悪にカッコ悪い台詞を吐いているとは理解しているが、ここだけは譲れない。
「遅い遅い! そんなんじゃ俺は倒せねぇぞ!」
放たれる斬撃も、突き攻撃も全てを避けながらワタルのHPを削っていく。
「くぅ……!」
HPが危険域に入ったのか、ワタルは攻撃の手を止め、呻きながらの防戦一方となった。
木と革と鉄で作られたような簡素な造りの円形シールドが、俺の攻撃からワタルの身を守ろうと目の前を阻んでくる。
「ちっ……。面倒だな。カイトシールド担いでくれてた方が楽に戦えんのに」
カイトシールドも円形シールドも、同じ盾としてひと括りにされてはいるものの、その形状や使用方法が若干異なる為、戦闘スタイルに大きな影響を与える。
カイトシールドは恐らく一般的な盾としてよく知られる、逆三角形型の盾だ。
イナーメと呼ばれる、盾と腕を固定する為の通し穴となる部品と、盾として扱う為の握りの部品が裏面には取り付けられている。
広い防御面と、イナーメによって盾と使用者の腕とを固定して防御する為、円形シールドよりも体重を乗せてしっかりとガード出来る。
そのため基本的な防御性能が円形シールドよりもずっと高い。
元々は騎乗兵用に作られたこのカイトシールドは、戦闘時に構えた時、胴体部から脛の辺りまでを防御出来る程の、かなり大型の盾だった。
しかし鎧の普及と共に小型化され、漫画やゲームでよく見るあのサイズに至った。
という事までは知っている。
そして今ワタルが手にしているような、円形シールドという名の盾は、文字通り円形の形状をした盾だ。
カイトシールドとは対照的に防御面が小さく、盾として扱う為の握りしか取り付けられていない。
これだけ見ると、カイトシールドの方が良いじゃないかと思うかもしれないが、円形シールドには円形シールドを使う明白な利点がある。
それは、形状や作りからくる取り回しの利きやすさそのものだ。
腕を伸ばせばカイトシールドよりも遠くに盾を向ける事が出来るし、固定していない分上手く扱う技量があれば、ピンポイントで様々な箇所をガード出来ることが円形シールドの強み。
一対一の戦闘での使用に主眼を置かれた軽量盾。
それが円形シールドなのだ。
事実、ワタルは俺に対して目一杯腕を伸ばして盾を向けてきている為、単純に俺からワタルまでの距離そのものが、ワタルを守る壁となっているのだ。
だが……。
「甘いな」
俺はチュートリアルリッパーを鞘に納め、ショートカットから槍を錬成した。
単騎戦で円形シールドと剣が並以上に扱える奴に対して、槍を持つっていうのははっきり言って愚策なのだが。
……だが盾なんて日常で使う奴は居ないだろう?
素人はカイトシールドの方がよっぽど扱い易いんだ。
フェイントを織り混ぜた俺の突きに成す術も無く、HPの尽きたワタルとアスティの姿は消えていった。
「ふぅ。コットのお陰で何とか勝てたな。さて、コットの所に行ってやるか」
槍を捨て、少しだけ離れた位置に見えるコットの元へと、俺は歩いて行った。
「改めて、久し振りだなコット」
「はい……。お久し振りです。あの……。ありがとうございました」
久し振りに会ったっつーのに、なんでそんなしょげてんだコイツ。
ため息をこぼしながら、俺はコットへと声を掛けてやる。
「お前はもう少し、ハッキリと断るという手段を持て。
嫌なら嫌ってハッキリ言わないから、あぁいう面倒が引っ付いて回るんだぞ?」
「は、はい。すみません」
……なんだか俺がイジメてるみたいじゃねぇか。
「まぁいいや。せっかくだし、適当にふらふらしながらレベルでも上げるか?」
「宜しくお願いしますっ」
ぺこりと頭を下げたコット。頭の動きに合わせて、翠色の髪がふわりと大きく揺れる。
これを見るのも久し振りだな。
おっし、新たなパーティメンバーも加わった事だし、行きますかね。
(どっかに隠れてるボスでも見つかれば、コットも居るし挑んでみても悪くない……。か?)
「ソ、ソウキさん……。何か良からぬ事を考えていませんか??」
えっ。もしかしてコットって結構、鋭い??
「気のせいだろ。さ、行くぞー」
「だ、だと良いんですけど……」
俺はコットを引き連れて、レベル上げ目的でアトラリア砂道を散策することにした。ついでにボスも探しに、な。
【結晶士】ソウキ:レベル7
所持スキルポイント:9
所持スキル:
【錬成の心得:Ⅰ】
錬成した武器の耐久力を上げる。
錬成武器を装備している間、僅かに攻撃力が上昇する。
【拳闘武器錬成】
拳闘が錬成可能になる。
【マルチウェポン】
錬成武器専用の特殊ショートカットが使用可能になる。