初めてのレアドロップを装備出来ない奴おる?―1
「さて、と。そろそろ行きますか」
フィールド内の湖で気の済むまで釣りを楽しんだ俺は、上機嫌に周囲を見渡した。
凛とした雰囲気の青々とした湖が前方に広がり、後方には草原と林。
アルマトと別れるように光の渦に巻き込まれた俺が出てきたのは、どこかの街だとかロビーとかではなく、普通にフィールドの中だった。
中立都市がどうたらこうたらってアルマトは言ってた気がするんだけどね。まぁそれは別にいいやどうでも。
だけどいきなり送られたこのフィールド名前とか、わりかし肝心な情報が残念ながら入ってこない。
まぁきっとスタート地点は皆ランダムで、たまたま俺はモンスターの居ない湖の傍に送られ、たまたまその湖の近くの宝箱に「釣りしてね!」と言わんばかりに釣り竿が入れられていただけの事なんだろう。
「あんましぐだぐだしてっと帰りが遅くなっちまうな。
さくっと動作確認で狩りをして今日は終わろう」
このまま永遠と釣りもありだけど、流石にそれだけで帰ろうもんならだいだいに怒られちまうかもしんねぇからな。
感想を言える程度には遊んでおこうって事よ。
その為にも、まずはアルマトがくれた短刃剣を装備しないとな。
腰元に提げられた小袋を一度タップすると、視界の左下にメニュー画面が表示された。その辺はアルマトから大体の説明は受けている。
このメニュー画面は小袋をもう一度タップするまで消えることは無く、視界を動かしても左下側について回ってくるという仕組みだ。
メニュー画面もタップで選択するタイプだねこれは。
メニューの装備画面へと操作して動かし、武器の欄を開く。″チュートリアルリッパー″という名前がまた、初期装備感を引き立たせるよね。
とりあえずは装備……、と。
なるほど、利き手も対応してくれるのね。装備とタップすると、[右手]か[左手]かの選択が出てくる。
俺は右利きだから当然[右手]をタップした。
武器を装備すると、対応箇所に鞘に仕舞われたその武器が出現するっぽいね。これをそのまま使って戦えばいいってことか。
ものは試しに、装備したチュートリアルリッパーを一度鞘から抜いてみる。因みに鞘が現れた場所が右の裏太腿の少し上。体の側面に向かって柄が飛び出している。
スゲー、よく考えてあんねこの位置設定。
この位置だと普通に抜いてもいいし、逆手に持って抜いても使える位置に柄があることになる。ちょっと感動するわ。
「おぉ、カッコよい」
VR世界で初めて見る刃物に思わず声が出てしまった。
チュートリアルリッパーの見てくれは、黒色を帯びた鉄の刃が柄の先から伸びるている感じ。
しっかし、短刃剣ってこんな長いモンかね?
柄を返して握り、左腕を定規代わりにして大雑把にだけど長さを測ってみる。
柄が手のひらいっぱい分くらいの長さで、そこから伸びる刃の部分の長さは肘を越えて二の腕くらいまである。
長さだけで言うなれば短刃剣というよりもマチェーテとか、小刀くらいか?
形状は一般的な刃物だな。長さを帯びたサバイバルナイフってのが一番しっくり来る。
重みは感じる。さすがに軽いけどね。
というのも、一応内部データで武器重量ってのが全ての武器に定められていて、その数値に準じた重さがプレイヤーには感知できる。という仕組みとなっているとはアルマト先生の教え。
まぁ確かに持っている、振っている、という感覚くらいは武器には欲しいね、ありがたいことだ。
チュートリアルリッパーの攻撃力が12。そして俺のキャラクターのパラメータが乗っかったり、武器倍率みたいなのが掛けられて、そこから敵の防御力が引かれたりして、俺が一撃でモンスターに与えられるダメージはせいぜい15もあれば良いとこじゃないかな。
「お、モンスター湧いとる」
メニュー画面をいじりながら、湖から一本しかない道を辿って歩いて行くと、草の生い茂るちょっとした広場へと出た。
そこにはいかにも低レベル帯って感じの、生態色満載な灰色がかった青い狼が三匹。
まだ知覚範囲に入っていないのか狼が俺に気づいている様子はなく、のたのたと歩き回っているだけだ。
戦闘に入る前に結晶士について少しだけ、メニューからわかる範囲の情報を探ってみた。
職業情報に結晶士についての説明″は″書かれていた。
『結晶を自由に扱うことの出来る職業。錬成を重ねる程、その力は大きなものへと姿を変えてゆく』
と記されている。うん、何が言いたいのかよくわかんないね。
まずはこの″錬成″についての何かしらのヒントがあればいいんだけどね……。
ともあれ、狼との戦闘に入るヨ。