PvP《ぺーぶいぺー》―2
俺の持論だが、この世というのは割とシンプルな二分の一の連続で成り立っている。
例えば、今日の夕飯とか。「何食おう」ってただ漠然と考えている内は、選択肢が無数にあるように感じる。
だけど結構な高確率でみんな、「今日はご飯にしようかな。麺にしようかな」って絞ってみたりしないか?
俺はする。面倒な時は両方食えるラーメン屋だチクショウ! ってなるんだけどな。
……話が逸れたな。
まぁ、なんだ。米にしようか、麺にしようかと一瞬でも考えてしまった時点で、人はもうその二つの選択から逃れられないんだ。
勿論そうでないことは当然ある。
だがこの場合、選ぶ確率の高まったその二つよりも優れた何か、惹かれる何かを見つけてしまったという事の方が多い。
例を挙げるなれば、「肉!」だの「ピザ!」だの、食いたい物が突如として頭の中に降って湧くような感覚。
大抵の場合は最初に目にした物、考えた事なんかを「ベスト」だと判断し、無意識に焦点を当てててしまっている。
これが、割とシンプルな二分の一って言ったことの全てだ。
『選んでいるようで、実は選ばされている。』
……さて、俺は今から二人のプレイヤーと対峙する訳なのだが。
勝者と敗者、これもシンプルな二分の一だ。
だが今から行われるPvPでは、この二分の一が完全なるフィフティ:フィフティで無いことは確かだろう?
相手は二人。こっちは一人。
それも向こうの二人は俺よりもリーチの長い得物を手にしているときた。
この不利な状況をひっくり返す為に必要な物は何か。
それは、不利な状況をひっくり返してしまう程の、圧倒的なまでに卑怯な手を使う事これ意外に何があるだろうか。
「……こっちの準備はオーケーだ」
「せいぜい楽しませてくれよ? ……っしゃぁ!! 覚悟しろやぁ!!」
ナンパ師Aは吠え、直剣を抜きながらこっちに向かって走ってきた。
(ん? なんだ? コイツの戦い方)
剣のスジはまぁまぁ良い所を狙っては来ている。
……が、何かがおかしい。何かが足りてない。
(何なんだ? このモヤモヤとした違和感)
ナンパ師Aから繰り出される、鋭くも均一性の無い攻撃を捌きながら、背後を取ろうとしてくるナンパ師Bを足で牽制する。
ナンパ師Bの方は正直、動きは相当悪い。初心者にしたってまぁひどいものだ。
問題はナンパ師Aの方。なかなかコイツ、いい攻撃はしてくるんだが……。
どこか気持ちの悪い「間」みたいなものがある。
「ふっ――!」
その間を縫うように、ナンパ師Aのガラ空きとなった左半身へと蹴りを入れていく。
「なっ! テメェッ!」
予想外の攻撃を食らったのか、俺から距離を取るナンパ師A。
「うわっ! わっ!」
俺はそのまま背後に残されてしまったナンパ師Bへと接近し、与えうる限りのダメージを重ねていく。
コイツはダメだ。動きがまるでなっちゃいねぇ。
攻撃は出来ない、攻撃されても盾で防げない。
今日『カラミティグランド』を始めたばかりのプレイヤーか?
「何やってんだワタルッ! 無理せずさっさと退けっ!」
「う、うんっ! ごめんアスティ!」
ナンパ師A改めアスティとやらの怒号が飛び、ナンパ師B改めワタルと呼ばれるプレイヤーはアスティの元へと逃げていった。
つーか、ゲームの名前でワタル……。
なんつー名前だよ。リアルネームをまんま使ってねぇだろうな?
「逃がさ――っ!」
背中を向けたワタルへと追撃しようとしたが、それはアスティによって邪魔されてしまう。
「流石にそれ以上を許すほど呆けちゃいねぇ!」
「よく言う。スキだらけだぜっ!」
斬撃をチュートリアルリッパーで受け流し、アスティの懐へと潜り込む。
そのまま二度斬りつけ、アスティの顔面に裏拳を咬ましてやり、最後に腹部に向けて蹴りを入れ当てた。
「クソッ!」
またも距離を取って直剣を構え直すアスティ。意外と折れないな。
「どうした? 降参するか?」
「テメェ……。殴ったり蹴ったり、汚ぇぞ……!」
「二対一で汚いも何も無いだろう? だがまぁそうだな……。そこまで言うならひとつ、お前達に勝つチャンスを与えてやろう」
邪魔こそされたものの、ワタルの方はまぁまぁHPを削れたと思う。半分は割ったんじゃないかな。
アスティの方はどうだろう。今の雑なコンボでどれ程削れただろうか。
決して弱くはない、ただ強くもない。良くも悪くも並ってところだな。
アスティが俺をまともに相手取るにはちっと腕が足りねぇな。
……ったく。パーティを組んでいないプレイヤーの情報はまるっきり見えない仕様のせいで、ちょっと戦いにくい。それはお互いにだと思うけど。
「俺と正面きって斬り合おうぜ。俺はお前の攻撃を避ける事は絶対にしない。
避けてるだけじゃあ、俺がお前達を倒せないのはコイツを見ればわかるだろう?」
そう言って、チュートリアルリッパーの刃をアスティ達に向けて見せてやる。
「……短刃剣か。確かにお前の言う通りだ。だが俺がお前と正面から斬り合うとは限らないぜ?」
「その時はその時だ。まぁそんなことさせねぇけどな」
「言うじゃねぇかっ!」
アスティはまたも俺の元を目掛けて猛ダッシュしてくる。
――その姿は、昔よく見ていた懐かしき幻影と重なった。
……あぁ、そうか。このモヤモヤの正体。
このダッシュのフォームを見て一発で思い出した。
(ここでも『in world』なのか。全くイヤになっちゃうね)
今アスティがやっているような、頭上よりも高い上段の位置に突きの構えを作る事が、『in world』では「スティンガー」と呼ばれる、最もポピュラーな構え方だった。
走る時にスピードが犠牲となってはしまうものの、接近さえ出来れば攻撃に回る時はそのまま突いてもよし、手首を返して斬ってもよしという、なかなかに使用感の良い隙の無いもの。
だがアスティは勘違いをしている。
ARとVRで武器を振るう際の決定的な「差」を。
それは、
「実体としては無いけど、そこにある刃」の『in world』と、
「今ここにある刃」の『カラミティグランド』。
これをアスティは全く理解していない。
……『in world』はビームセーバーの刃がAR効果によって映し出される。
つまり、実際に存在しているのは「柄」の部分だけ。
この「スティンガー」が最もポピュラーな構え方だった理由は、突きを攻撃の軸とすることで、「一撃目を避けられても物理の法則を無視して、多角的な次の攻撃を仕掛けられる」という利点そのものだ。
刃は存在しているが、現実には存在しない。
だから、壁や相手の体で攻撃が止められてしまうことがないんだ。
だがここでは違う。ちゃんと物理の法則が働いている。
相手に当てれば、その相手がのけぞりでもしない限りは当てた箇所からそれ以上拳や剣が進むことはない。
「……その構えは、残念ながら『in world』でしか通用しねぇ」
接近してきたアスティから繰り出される突き攻撃を、俺は左腕を使い剣の内側から外側に向かって突き攻撃をアスティの手首ごと弾く。盾無しパリィだ。
剣と打ち合うか、剣を防いで弾くっていうのは、ダメージ判定の仕組みがある以上、武器か盾でしか行う事が出来ない。
だから、腕で剣を弾くことは出来ないが、腕を相手の手元まで滑り込ませて、手首ないし腕ごとを剣を弾いてやるのはどうだろう。
という実験をテュリオスに付き合ってもらっていたんだ。
結果は見ての通りだ。
剣が腕を掠めた分のダメージはもらってしまうが、その程度のダメージで相手の懐に入れるならこっちのもんだ。
……まぁ、テュリオス相手だと雷撃のダメージ追加で飛んでくるから、掠めただけでもバカにならないダメージを受けちまうんだけどな。
アスティの動きに合わせてワタルが側面から接近しているのが見えるが、俺はそれに構う事なく可能な限りの斬撃をアスティの体へと叩き込んでいく。
勿論、剣の握られたアスティの右手首を掴んだまま。
「ちっ、くっしょう!」
ここまで接近していると、お互いに蹴りを入れる事は出来ない。
アスティは左腕でひたすらに俺の右半身を殴っているのだが、武器の攻撃力を乗せて戦うことの出来る俺の方が当然、与えるダメージは上だ。
「アスティ! くっそぉ!」
叫びながら側面からそのまま俺の背後に回ってきたワタルのメチャクチャな攻撃を背中に受けながらも、俺はワタルを無視してアスティのHPを削っていく。
(そろそろか)
アスティのHPを削ると同時に、俺のHPもワタルの攻撃によって半分程まで削られていった。
――ここで俺は合図をする。
――勝者と敗者を決める、この場に潜んでいた、たった一人の女神の名を俺は力一杯に叫んだ。
「――コットッ!!」
「はっ、はい!」
――そしてこの瞬間、俺の体を包み込むように現れた黄緑色に輝く光が、瞬く間に俺のHPを満タンに回復したのだった。
【結晶士】ソウキ:レベル7
所持スキルポイント:9
所持スキル:
【錬成の心得:Ⅰ】
錬成した武器の耐久力を上げる。
錬成武器を装備している間、僅かに攻撃力が上昇する。
【拳闘武器錬成】
拳闘が錬成可能になる。
【マルチウェポン】
錬成武器専用の特殊ショートカットが使用可能になる。
今回で決着にする予定だったのですが、だらだらと書いてしまったのでもう次話までずれ込みます(-_-;)
戦闘回は、攻撃スキルのようなものが無い分、どうしても文量が上がってしまう傾向にあるようです。
さーせん(-_-;)
ともあれ、今後とも「クリスタル・ブレイド」を宜しくお願い致します!