表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/162

PvP《ぺーぶいぺー》―1

 

「む……?」


 唐突にテュリオスが訝しげな声を上げる。


「どうかしたか?」


「……いや、すまん。用事を思い出した。暫く落ちるぞ」


 あら、残念。せっかく剣士に転職(クラスチェンジ)したばっかりだというのに。


「出掛けるなら俺も今日は帰るぞ?」


「いや、そう長くかかるものでもない。適当に遊んで待っていてくれ」


 あ、遊んでていいのね。そんなら、そのお言葉に甘えさせて貰うとしますか。


「あいよ。ログインしたらメッセージ飛ばしてくれよ」


 左手の人差し指を右手の親指へと指を差し、「マニュアリングを使えよ」と合図した。


「あぁ。了解だ。それではまた後でな」


 メニューを操作してログアウトしたのだろうテュリオスは、まるで魔法でも使ったかのように足下からその姿を消していった。

 他人から見るログアウトってこんな感じなんだな。


「一人か……。これからどーっすかな……」


 一人となれば、やることは一つしかない。アレだ。

 ……そう。錬成石(オークラント)を手に入れる旅だ。


 誰よりも先にオートボットを狩る為に、俺はアトラリア砂道へと駆けていった。


「おけおけ。ドロップ率はまぁまぁ良しと」


 雑魚戦に錬成石(オークラント)を使いたくない俺は、チュートリアルリッパーを片手に他のプレイヤーの戦闘に交じらせてもらいながら、オートボットとゴーレムをひたすらに倒していく。


 オートボットだけかと思ったら、ゴーレムも低確率で錬成石(オークラント)を落としてくれるっぽい。

 もしかしたらドロップ率は同じくらいなのかもしれないが、オートボットの方が湧きが良いせいか倒せば結構な割合でドロップしてくれるように感じる。


 図鑑が無くなった今、どの敵から何が落ちるのかみたいな情報を得られないし、自分で記憶していかないといけないから、結構手探り感は強くなったな。


「なかなかに鋭い動きをしますね」


 たまたま一緒に戦闘することになったパーティの一人から声を掛けられた。


 周りのプレイヤーの戦闘を見ていると、流石に初期装備であるからか、斬撃に対して耐性を持つオートボットやゴーレムに苦戦している様子だ。


 因みに、今のところ打撃系の武器を持っている奴は居なかった。

 剣七割、槍二割、残りは手斧。みたいな配分だ。

 だがどれも残念ながら、オートボットとゴーレムに対して有効打となる武器ではない。


 まぁそんな具合だから、戦闘に交じってやると戦闘後に「ありがとう」だの「助かった」といった簡単なやりとりこそあったものの、こうしたコミュニケーションを取りにきた奴はコイツが初めてだった。


「そうか? 普通だろ?」


「同じ事をやろうと思って、簡単に真似の出来る動きではなかったと思うのですが……」


「んま、お前さんらとは身軽さが違うからな。んじゃ、俺はもう行くよ。

 また会うことがあればボス戦にでも連れてってくれ」


 ……そういえば、俺の名前ってレコードに載ってるんだった。

 あんま迂闊に他のプレイヤーと接触を持つと、ちっとでは済まない面倒が降って湧きそうな予感しかしない。


「あの……。ちょっ!」


 掛けられる声に目もくれず、俺は聞こえていないフリで本気(マジ)ダッシュした。

 フィールドは広い。一度俺を見失えばそうそう簡単には見つけられないだろう。


 ともあれ、暫く俺はさっきの奴らから隠れるようにコソコソとフィールドを動き回っては、ひっそりと狩りをするようにしていた。


「うひぃー! チュートリアルリッパーじゃ火力足りねぇー! 効率悪ぃー!」


 チュートリアルリッパーで刻みながら、殴ったり蹴ったりで地道に削っていくものの、雑魚モンスターを相手にしているというのに爽快感もクソもない。


 錬成回数を増やす意味も兼ねて気分がてら、拳闘(ナックル)を錬成して暴れ回ってみた。

 そしたら、とにかく早ぇのなんの。弱点様々って感じよなもう。


 一撃で与えられるダメージが、チュートリアルリッパーの五倍位を叩き出している。

 弱点の打撃属性だからってのもあるんだろうが、この火力の差は恐ろしく開きすぎている。


 拳闘(ナックル)を錬成した時の弱点を挙げるとすれば、キリよく戦闘を終わらせられないってことか。

 柄を握るタイプの武器種なら、手から離れれば破棄したこととなり、敵が近くに居なければそのまま納刀判定で戦闘が終わりリザルト画面へと飛ぶ。


 だけど錬成した拳闘(ナックル)は、完全に腕に嵌まって装備された状態となってしまう。


 だから戦闘を終わらせる時は、適当に数体のモンスターを引っ張ってきて、安全な場所で錬成した拳闘(ナックル)が壊れるまで戦ってから、チュートリアルリッパーで処理する必要がある。


 恐らくだが、錬成した盾もこのタイプだと思う。

 身に付けるものを錬成する場合は、ちょっと面倒があるよって感じか?


 まぁ、それを差し引いても錬成拳闘(ナックル)はメチャクチャ強い。

 ここから【錬闘士】のスキルを取っちまおうモンなら、アトラリア砂道での俺は敵ナシかもしれないな。


 ……錬成石(オークラント)一個あたりでオートボットなら五体、ゴーレムならギリギリ三体を狩れる。

 オートボットに狙いを定めるならば、お釣り分の錬成石(オークラント)がドロップするかしないかというところ。


 ただ、狩る時間も考えれば1個しかドロップしなかったとしても、効率は半端じゃなく良い。

 たとえ錬成石(オークラント)がドロップしなくても、経験値だけは貰える。


「っしゃっ! レベルアップだっ!」


 そしてこんな風にレベルが上がれば、問答無用でスキルポイントが2pt加算される。これで俺のレベルは7となった。


 テュリオスとのレベル差は6まで開いたが、はっきり言ってこのゲームでのレベルの差は、有利不利を生む要素とはなり得ない。

 装備とスキルがものを言う。正直ここには少し……、いやかなりの好感が持てるな。


 とりあえず【錬成の心得:技】の要求スキルポイントまで、半分ちょい手前という所まで来た。

 かなり順調にここまで来ている。


「……プレイヤーか。……さっきの奴らでは無さそうだ」


 錬成石(オークラント)も少しずつ増えてきて、レベルも上がってと昇り調子の俺は意気揚々とフィールドを歩いていると、何人かのプレイヤーが遠目に見えてきた。


 遠くからでもはっきりとわかるくらいには、服の色やなんかもさっき声を掛けてきたプレイヤー達とは全く異なるものに身を包んでいる。


「……お? コットじゃねぇか? アレ」


 見えたプレイヤー達の中に、コットの姿があった。


 チュートリアル期間の最終日以来だな。姿を見るのはだいたい一ヶ月振りってとこか。

 なんだかんだで結構『カラミティグランド』にハマってんのな。コットの奴。


 まだ少し距離があるため、何を話しているかはわからないけど、どうやらコットは他のプレイヤーとパーティを組んでいるみたいだな。

 コットの付近には二人の剣士職らしきプレイヤーが見える。


 楽しんでいるようで何よりだ。


『久し振りだな。今おまえが見えるんだけど、楽しんでるかー?』


 A.I.N.A.を呼び起こしてコットにメッセージを送ってみた。そしたら……。


『助けてください、、、』


 と、コットからこんなメッセージが返ってきた。

 前言は撤回しよう。……は? どういう状況よ。


「……まぁいいや。とりあえずコットのとこに行ってやるか……」


 俺は少しだけ小走りでコットの元に向かってやった。


「えぇーいいじゃんよー! パーティ組もうぜ! ボスも倒しちゃうよー? 損はさせないって!」


 パーティのリーダーらしき男のデカい声が聞こえてきた。

 あー……。なるほど。読めたぞ。

 ナンパされてんだな。誇っていいぞコット。


「あっ……。あの……」


 ……もうなんだか、見ているこっちが悲しくなってくる程にコットは男に踏み寄られ、押しに押されて押されまくっている。

 とりあえず、コットからお願いもされたことだしここは助けてやらなきゃな。


「よぉコット! 一ヶ月振りだなぁ!」


「あ、ソウ――」

「――あん? なんだお前は?」


 コットの声を遮って、デカい声の男は俺に食ってかかってきた。ったくチンピラかよ。


 ……よし、決めた。コイツの名前はナンパ師Aとしよう。


 ナンパ師Aはチクチクしそうな鋭利で赤い逆毛がとてつもなく印象的なのだが、それよりも特徴的なのはその武装だ。

 直剣(ブレード)なのか長剣(サーベル)なのかまではわからないが、剣士職の最大の強みである盾を持っていない。


 腕に覚えでもあるのか、ただのアホなのかは知らんが、なかなかの強キャラ感は出している。


 横に居る大人しめの地味系剣士職くんも、面倒だからナンパ師Bな。


 ナンパ師Bにはこれといった特徴はない。

 モブキャラという言葉がこれほどに相応しいプレイヤーが居るのかと感動するレベルだ。NPCだと言われても違和感は全く無い。


「この()は俺のフレンドだが……」


「だから何だってんだ? この子は今、俺達が誘ってんだよ!」


「……なんだか嫌がっているようにも見えるが? ……よし、それならこうしよう。今からお前達二人と俺とで勝負だ」


 俺はチュートリアルリッパーを引き抜いた。


(あぁやべぇ……! 格好つけてイキ撒いたはいいけど、負けたらクッソ恥ずかしい奴だぞこれ)


 自ら進んで負けられない戦いにしてしまった事を悔やみながら、俺はナンパ師AとBに向けて話を続ける。


「勝った方がその()とパーティを組む。

 で、負けた方は安全エリアに送られるだけだから、恨みっこはナシだな」


「ほぅ……。二対一で俺達に勝とうってか?」


 ナンパ師Aは既に勝ったと言わんばかり、のニンマリとした表情を見せている。

 まぁ、普通に考えたら勝てない方がおかしいってなるよな。


「シンプルでいいだろ? ちょっとだけ待ってろ。

 流石に二人を相手にするにはこっちも準備が要るからな」


「上等じゃねぇか! それくらいの時間は与えてやるぜ!」


 あっそ。まぁ俺にそんな時間を与えてくれた時点で、お前達は負けなんだけどな。


 ……うし、準備は出来た。後はバトるだけだな。

 今から、『カラミティグランド』の世界に来て初の記念すべき対人戦(PvP)が始まる。


 俺は見事、勝利をこの手に収めて見せようじゃあないか。






【結晶士】ソウキ:レベル7


 所持スキルポイント:9


 所持スキル:


【錬成の心得:Ⅰ】

 錬成した武器の耐久力を上げる。

 錬成武器を装備している間、僅かに攻撃力が上昇する。


【拳闘武器錬成】

 拳闘(ナックル)が錬成可能になる。


【マルチウェポン】

 錬成武器専用の特殊ショートカットが使用可能になる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=447283488&s ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ