ギルド『硯音』
PV2万、ブックマーク100件を突破しました!
ありがとうございます、非常に嬉しく思います!
これにて2章は終了となります。
今日の深夜にざっと3章の登場人物をまとめ上げて、3章スタートの更新に向けて書き出したいと思います(゜ロ゜)
本当にありがとうございます!
今後とも「クリスタル・ブレイド」を宜しくお願い致します!
「惜しかったですね」
「本当にそう思っているのか?」
「いいえ?」
「この二人について何か知っていることは?」
「……何も」
「……フン。まぁいい。……しかし、レコードをいきなり三つも持っていかれるとはな」
「ギルドの精鋭プレイヤー達。そのパーティに穴はありませんでした」
「……では何故、レコードを三つも持っていかれたと思う?」
「レコードを更新したプレイヤー。ここに答えがあるかと」
「ソウキ、テュリオス……。どちらかが、或いはどちらともユニーク種持ちの可能性、か」
「かと思われます」
「この者についてを探れるか?」
「お望みとあらば」
「では、頼む。……この二人を取り込めれば、他のギルドと圧倒的な差をつけられるだろう。お前も含めてな」
「期待して頂いているのですね?」
「無論だ。期待しているぞ。……エルド」
「承知しました」
ギルドエリアの最奥、ギルドマスターの部屋の扉を押し広げてひょっこりと出した顔がひとつ。エルドだ。
エルドはバリトンへと移動するために、エリアの入り口に設置されている転移の渦へと歩を進ませる。
「お前も忙しいヤツだな、ソウ。同情するぜ」
そうは言いながらも、エルドの表情は僅かばかりの笑みを含ませていた。
エルドの所属しているギルド、『硯音』はギルドの強化と、その強化したギルドメンバーでパーティを組み、レコードに載るプレイヤー全てを『硯音』のメンバーとする事を目指して結成された。
己が名声を高める為、全員がレコードに載るという目的を持って、自らの意志で『カラミティグランド』の世界を踏み進んでいく。
そんなゲーマー集団の中の一人としてひっそりと、何かから隠れるようにエルドは『硯音』に所属していた。
「アイナ、レコードを開いてくれ」
親指を口元へと近付け、声を発した。
「畏まりました」
機械混じりの女性の声がエルドの声に反応して返ってくる。
エルドはマニュアリングの中に待機していたA.I.N.A.を呼び出したのだ。
A.I.N.A.はレコード画面を開き、エルドの目の前に表示させる。
「さて、と。まだレコードに載ってるのは俺とソウとだいだいの三人だけか」
独り言を呟きながら、エルドはまだ行数の少ないレコード画面を見つめている。
レコードに名を連ねているのは、エリュシディナイトを撃破したエルド自身の名。
そしてフィールドボスであるヴォイドエッジアーミーを撃破したソウキとテュリオスの名だ。
ギルドに所属した者がレコードに名を刻めば、名前と共にギルドの名も刻まれる。
ダンジョンやフィールドのクリアタイムならまだいい。塗り替えればいいだけの話だ。
だがファーストキル、ファーストクリアだけは別だ。
これだけは最初に倒した者、最初にクリアした者の名が永遠に残ることになる。
『硯音』のメンバーではない二人の名がここにある時点で、ギルドマスターの目論見は大きく外れてしまった。
であれば、ソウキとテュリオスを『硯音』のメンバーとして迎え入れてしまえばいい。
というのが、現段階でのギルドマスターの新たな狙いとなった。
まずは二人の情報を集める。
といっても既にエルドは二人とフレンドである。
それ以前にエルドは、ソウキのテュリオスを動かしているプレイヤーの事を良く知っている。集めるも何もその必要などほぼ無いのだ。
たった今、エルドに対してギルドマスターから与えられたこの簡単な指令の最終的な行き着く先は恐らく、というよりはまず間違いなく二人の『硯音』のメンバー加入だろう。
「……可哀想なのはだいだいだよな。アイツまたソウに巻き込まれてやんの!」
自身の記憶を辿り、堪えきれずエルドは笑みを溢してしまう。
薄暗く、一歩足を踏み出せばかつかつと足音が鳴り響く不気味ともいえる長い廊下を、エルドは笑顔交じりに歩いていく。
この状況を何も知らない者が見れば、エルドはとても奇妙な者に見えた事だろう。
……このギルドエリアは特殊なエリアだ。
ギルドに所属している者しか立ち入ることが出来ない。
それはつまり、今この場に居るという事が、エルドがギルド『硯音』のメンバーであるという事を示してるひとつの証だ。
そんなギルドエリアの内部は異様な静けさに包まれている。
皆、レコードに自分の名を刻む為、必死にフィールドに駆り出しているからだ。
呑気にこうしてギルドエリアへと出向き、ギルドマスターとお喋りしているのはエルド位だろう。
……何も単なるお喋りという訳ではなく、ギルドメンバーとしての事務的な会話である事には間違いないのだが。
「ファーストキルも更新は無し、か。ログアウトして寝るか」
ギルドエリアの入り口付近までやってきたエルドは転移の渦へとアクセスし、中立都市バリトンの町の中へと入っていった。
「んま、その内会えるしメッセージはいっか。……ソウ、だいだい。俺達が暴れる日も近いぜ?」
そう呟いたエルドは、メニューを操作して『カラミティグランド』の世界からログアウトした。
『カラミティグランド』が始まった直後に結成された四大ギルドの内の一つ、『硯音』に目を付けられてしまったソウキとテュリオス。
そんな事などは露ほど知らず、昼食を済ませた惣と大河は再び『カラミティグランド』を起動するのだった。