マーテルの杯:騎士編―3
クエストに入るまでで時間かかってごめんなさい。
今日の深夜に更新するので許して下さい。
お付き合い頂けると嬉しいです、宜しくお願い致します!
「んぁぁぁああっ!! 遅ぇっ!!」
ゴーレム三体に囲まれてはいるが、三体から繰り出される鈍い攻撃を避けつつなるべく均等にダメージを与えられるように攻撃を当てていく。
テュリオスの火力はすげぇ。超魅力的だ。
レア武器の性能ってのを体感出来るのが、凄く羨ましく感じられる。
そりゃあ、結晶士の錬成武器も見る奴から見れば羨ましく感じるのかもしれない。
だけどやっぱ、他のプレイヤーと同じ条件でスタートして、差を感じなから楽しみたいと言ったら、贅沢なんだろうか?
俺だって、自分でドロップさせたエッジオブヴォイドを自分で装備してブン回してみたかったぜ?
……なんでこんなに楽しいんだろうな。
それと同時に、なんでこんなにイラつくんだろう。
単にテュリオスに嫉妬してるのか?
あんな超火力を序盤から叩き出せるんだから、嫉妬のひとつやふたつ、許して欲しいモンだぜ。
まずは二体のゴーレムの足を払い、転倒させた。
三体相手取っても被弾はしないだろうけど、なるべくならば一対一の状況を作り出しておきたい。
残った一体へと襲い掛かり、格闘攻撃を交えたチュートリアルリッパーの斬撃をゴーレムへと浴びせていく。
抵抗する余裕すら与える事なく、瞬く間にゴーレムのHPを削り切った。
それでもテュリオスの攻撃ならば二発で終わるだろう。
圧倒的な火力の差を重い知らされているばかりだ。
「……見事だ」
残り二体のゴーレムのHPも余裕で削り切った俺は、テュリオスの賛辞を受けながらチュートリアルリッパーを鞘へと納める。
今の戦闘によって、俺とテュリオスのレベルは6へと上がった。
「んま、こんくらいは動けねぇとな」
「それは、『リオスト』元ツインエースの片割れとしての発言か?」
……また懐かしいワードを、平然とした顔で出してくるなぁ。
「違ぇよ。初期装備で戦わなきゃいけない場面が多い特殊なプレイヤーとして、だ」
「……柏木」
始めて『カラミティグランド』でテュリオスから本名呼ばれたんじゃねぇかな。
「なんだ? ソウキ、じゃねぇのか」
別に怒っている訳ではないよ。
最初に俺を呼ぶ時、柏木でもいいぞって言ったのは、紛れもなく俺自身なんだからな。
ただ、だいだい自体はこういう所での呼び方ってのはきっちり呼び分けるタイプだ。
それをしないって事は、何かあるってこと。
「……また、戻る気は無いのか?」
戻る、というのは、プロゲーマーの世界って事だよな。
……プロゲーマーというのは本当にしんどい世界だ。
常に己との戦い、常に肉体との戦い、常に精神との戦い。
だけど、そうやって鍛え上げたとしても、ただゲームをやってるだけで勝てれば良しという甘い世界ではない。
選手ひとりひとりやチームクラブを支えてくれるのは己の腕でも、コーチでもオーナーでもない。スポンサーだ。
プロゲーマーなんていうのは、結局のところは小さな界隈に過ぎない。
それでも『in world』はまだ見栄えの良さもあってか、数あるタイトルの中でも比較的優遇された立ち位置に居られた。
当時『in world』というものは、ようやく世界的にスポーティなゲームとして注目され、認められ、eスポーツがアンダーグラウンドな世界から抜け出す切っ掛けを作った存在だったんだ。
それでも、初めてゲームというスポーツが表舞台に出て来た時、社会は扱い方に困った。
「所詮はゲーム」。この意見を切り崩していくのにはとてつもない時間がかかった。
話は戻るが、eスポーツが社会へと浸透するまでは、オーナー力とスポンサー力がチームクラブの経営を回して行く軸そのもので、クラブ運営をしていくに当たっての全てと言っても過言ではない。
勿論、規模の大きくオーナー力の強いチームクラブであれば、勝ちを引っ張れるだけの腕さえあれば食いっぱぐれる事はない。
ただ、そうであったとしてもそう簡単に行かないのがプロゲーマーの難しい所。
……それを考えると、『リオスト』は恵まれた環境下にあったんだなと今なら思える。
クラブオーナーの力はそこそこのものだったが、チームクラブを支えるだけの圧倒的な集客力を生み出せる力を持っていたんだ。
――それが、俺とディランの存在だ。
「……ねぇな。『リオスト』を抜けてからもう四年……。俺ももうすぐ二十三だ。言いたいことはわかるよな?」
……プロゲーマーというのは、スポーツ選手のように肉体を鍛えても意味のないことがほとんど。
精神力、集中力、そこに加わる正確性、精密性。
そういった精神的なものを磨り減らしながら技術を披露する場面が非常に多い為だ。
その中で勝ちをもぎ取らなければならない。
この辺りはスポーツと似てはいるのだが、プロゲーマーというのはデビューして間もなく、ひとつ致命的な問題を抱えることになる。
そしてその問題は、誰でも等しく与えられる。
スポーツ選手なれば、ここ一番というときに気持ちを切り替えられるメンタルがあれば、苦しい場面も切り抜けられることが多い。
身体面と精神面が互いを支え合い、高い集中力を生み出してくれる。
ただゲームの場合、そのジャンルにもよるが、フィジカルとメンタルが支え合うことはほぼないと言っていい。
そして選手生命の圧倒的な短さ。これが本当に致命的な問題だった。
スポーツ選手なれば、鍛え上げた肉体と精神というものは引退するまでの間、そう急激に衰えてしまうということはない。
だがプロゲーマーの選手生命というのは、早い者で二十三、四歳。遅くても二十六、七歳までが限界値とされている。
つまり、俺はもう選手としての限界に片足を突っ込んでいる状態なんだ。
「だが仮想現実なら……この世界ならば……」
「うん、まぁそれはわかるよ。だけど、俺はもうあの世界は良いかなって思ってる。
……さて、着いたぜテュリオス。準備はいいか?」
「あ、あぁ……。問題ない」
まぁ、だいだいには悪いが、上手くかわさせてもらった。
俺とテュリオスはクエストの開始地点であろう巨木へと辿り着いた。
ミニマップの赤い点も相当近い。この巨木がクエストトリガーである事は間違いない筈だ。
巨木の間近へと来ると、目の前にはヴォイドエッジアーミーと戦う前のあの光の渦と同じような感じで、[クエスト『雫を流す者』を開始する]とアイコンが表示された。
迷わずタップした俺の視界はローディング画面へと切り替わり、俺達は世界から切り取られた。
 




