マーテルの杯:騎士編―1
クエスト回です。
おおよそ1万字で話がひと区切りとなるかな……。
と思ってますが、安定のガバ計算なのでブレるかもしれません。
お付き合い頂けると嬉しいです!
「マーテルの杯? なんだそれ?」
バリトンの町を歩くNPCやプレイヤーを避けつつ、落ち着ける広場を探しながら俺はテュリオスへと説明を求めた。
このマーテルの杯というアイテムが欲しいとテュリオスは言うのだ。
「上級職へと上がる際に必要となるアイテムだとクエスト報酬に記されている。クエストの適正レベルもちょうど俺達と同じ5レベルからだ」
「そんなの今取る必要あるのか? まぁ取りたいって言うなら俺は構わないが……。どんなクエストだ?」
5レベルが適正レベルだとしても、クリア出来なきゃ報酬は貰えないから、内容はよく見てクリアできるクエストなのかどうなのかを判断する必要がある。
「『雫を流す者』というクエストだ。解放されてないか?」
あぁ、あるね。
メニューからクエストの項目をタップすると、「New」と黄色いテキストの横にクエスト名らしきものが幾つか出ていた。
なんだよ、内容なんて全くわかんねぇじゃねぇか。
仕方ない。ここは一回テュリオスと挑んでみよう。
まぁ、こんな序盤から解放されてるクエストだし、そこまで難しいものでもないか。
「とりあえず受注……、と」
テュリオスはこのクエストをやりたがっているみたいだし、俺も『雫を流す者』のクエストを受注してみた。
『アトラリア砂道には、かつて涙を流す巨木あったという伝説が残されている。涙を枯らした巨木を今でも守っている者が居るらしい。果たしてその者の正体とは……。』
というクエストの説明だ。残念ながらこの説明ではクエストの達成条件とか内容とかは全くわからなかったのだが、まぁクエスト自体がお使いゲー扱いなら大抵のクエストの説明なんてこんなもんだろう。
この辺りはもう諦めるしかない。
クエストの目的地自体は[このクエストの目的地を常に表示する]という項目をタップすることで、フィールドマップにそのクエストを発生させる為の何かがあることを示す旗を表示させることが出来る。
あとはこの場所を目指してフィールドを歩いて行けば、クエストを開始するために設置、設定された何らかのトリガーが旗の付近にある筈だ。
それにパーティリーダーがアクセスすることでクエストが開始される、という仕組みだという事がマニュアリングの[クエスト]の欄にもわかりやすく画像付きで解説されている。
クエスト報酬には先程テュリオスから説明のあったマーテルの杯と、騎士の雫という物が設定されていた。
まぁ、どっちも転職に必要なアイテムなんだろうけど、今の俺には当分必要にはならないアイテムなことはわかる。
なんてったって俺が転職出来るようになるまで、あと七万強も錬成の回数を重ねる必要があるからだ。
数えてはないけど、ヴォイドエッジアーミー戦での錬成回数だって十回あるかないかくらいだろう。八万回への道はまだまだ遠い。
「クエスト、受けといたぞ? とりあえず物々交換と行こうぜ」
「あぁ。助かる、ソウキ」
『雫を流す者』のクエストを受注した俺達はバリトンの中に設置された、プレイヤー間でのアイテムの売買が出来るショップ端末を目指した。
バリトンはRPGの中盤によく出てくる、砂漠の中にある町のような全体像なのだが、このショップ端末の存在ひとつが見事に世界観を崩壊させている。
ファンタジー世界の中に、突然とSFチックな何かがとんと置かれていたら、誰だって不自然さは感じるだろう。
実際のところ俺も感じてるしな。NPCからしたら完全にオーパーツレベルだろこれ。
正式名称までは忘れてしまったが、オーパーツというのは「その時代、環境、文明レベルでは作成不可能」と推測された物の総称を指す。
主に建造物であったり、武器や装飾品と言った物が多いな。
簡単に言うと、「この時代にこんなものどうやって作ったの!?」と研究者に言わせられれば多分ソレはオーパーツと認められると思う。
だからかのバリトンの環境レベルからすれば、このショップ端末は間違いなくオーパーツだと言える筈だ。
……そんなこんなで俺達はショップ端末の前に着いた訳なのだが、流石にまだゲームが始まったばかり。
五台も並んでいるショップ端末の前には一人としてプレイヤーらしい姿はない。
早速俺達はショップ端末へと足を運び、起動した。
俺はテュリオスから機械天使の首飾りに必要な素材アイテムとスキル書を買い取り、逆に俺からはテュリオスへとエッジオブヴォイドをショップでの最低取引額である1000ゴールドで売ってやった。
武器が装備出来ないというこのハンデは、使い様によっちゃあ他のプレイヤーとの良い交渉材料になる。
即席で組んだパーティメンバーに向けて、武器を誰かにやるから何かくれ。とかな。
みんなレア武器大好きだろ?
「ちょい機械天使の首飾りを作りたい。アクセ屋に行ってもいいか?」
「構わないぞ」
お待ちかねの俺が装備出来る(かもしれない)装備品の作成タイムだ。
機械天使の首飾りの作るための素材は、テュリオスから売ってもらった分でそれぞれ必要数まで達している。
「これは……。なかなか強い!」
ショップ端末からそれほど離れてはいないアクセサリショップへと足を運び、秒で出来上がった機械天使の首飾りの性能を見て、現状ではかなり嬉しい装備な事がわかった。
「どんな性能なんだ?」
俺は機械天使の首飾りの性能をテュリオスへと説明してやった。
装備性能自体は防御力がちょこっと上がるだけなのだが、こいつには【機械天使の祈り】という固有スキルが組み込まれている。
『2秒間に1度、装備者の最大HPの1%を回復する』
という効果のスキルだ。
アイテムを用いない自己回復の手段というのは、今の段階では非常にありがたい。
1%は回復力としては本当に微々たるものだが、それでも敵の攻撃を避け続けてさえいれば無限にHPを回復しながら戦える訳だ。
「なるほど……。だが、1%は低すぎる気がしないか?」
「まぁ、2秒で1%って聞くと低い気がしなくもないが、20秒で10%HP回復出来るって思えばそれほど低い数値でもないだろ?」
「確かに……」
顎に指を触れ、納得した様子のテュリオス。
言いたいことは、要はものは捉え様という事である。
常時、無条件で20秒経過するとHPが約10%回復出来るアイテム。
持っていたとしたら誰だって使うだろ? 普通は。
「それに、装備する以外に要求される条件は無い。攻撃を当てなければいけないとかでもないしな。
単純に戦闘での持久力が少しでも上がるならありがてぇってもんよ」
「そういうものか」
「そういうもんだ。おっし、行こうぜ!」
最後に、たった今作成した機械天使の首飾りをアクセ枠に装備して、ざっと流し見程度ではあるがアイテムと装備のチェックをしておく。
これで、バリトンで今やれることの大体を済ませた俺達はクエスト『雫を流す者』を進行させる為、アトラリア砂道へと出られる門を目指した。