表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/162

エルド(エルド視点回)

予定していたエルド視点回です。

次回から更新に入るクエストの話で二章は終わりになるかなーと思います。

 

 この世界にやってくる直前の俺は、どれほど酷いものだっただろうか。


 過去の栄光、思い出に隅々まで汚染された心が、深い闇へと誘うように俺の両足を掴んで離さない。


 今はもう、だいぶ色の薄まりつつある悪しき記憶。


 ……俺″達″は、『in world』を盛り上げる為に奔走した。

 ゲームをプレイするだけで観ている者を熱くする。俺達にとってこれほど気持ちのいいことはない。


 金じゃない、もっと純粋なものの奥にある何か。


 それをただひたすらに追い求める楽しさ、素晴らしさを俺は伝えたかった。

 この世の全てのゲーマーに向けて。


 俺の所属していたチームクラブ『リオスト』は、数多あったチームの中でもトップの人気を誇っていた。


 理由はもちろん、ソウと俺目当てさ。

 俺は自分で言うのもなんだがまともな方だ。だけどアイツは、ソウは絶対に頭イッてる。

 相手が強ければ強いほど、燃える闘いであればあるほど、常識のタガが外れたようなプレイングで相手をぶっ潰しちまう。


 そんなソウを見ているのが面白可笑しかった。

 そんなソウと本気で遊ぶのが楽しくて堪らなかった。


 だけど……。


 全てが奪われた気がした。

 全てが終わった気がした。


 試合会場へと足を運ぶ車内。窓から見える曇天に憂鬱な気持ちになっていたのを覚えている。

 ただ、最後に覚えているのはそれだけ。

 そこからどれくらいだったのかちゃんと聞いてなかったけど、意識の空白があった。


 忘れない。忘れられない。


 戻る意識。目を開いて最初に視界に入ってきたのは、真っ白な天井。

 そしてその直後、嫌でも目に入ってきてしまった。


 宙に吊るされ、固定具と包帯で固定された俺の両の足。


 暴れた。暴れたら暴れただけ、自分の身体なのに全く動かない両足に心底苛立った。


 喚いた。喚いたら喚いただけ、俺自身の内に湧いた虚しさだけが静かな部屋に反響し、哀れむような無数の視線が俺に向けられたような気がした。


 生き甲斐を失った俺は、みっともなくアイツの前から逃げ出した。


 最後にソウに向かって口にした言葉はもう覚えちゃいないけど、その時のソウの悲痛な顔は今でも忘れない。


 何かを言って貰おう、何かをして貰おうなんて思っちゃいないし、今更会いに行く勇気はない。

 だから俺はこうしてアイツを待っている。


 これは単なるわがままかもしれない。

 だけど、俺はまた動けるようになった身体で、もう一度アイツと遊びたい。


 そんな俺のわがままが叶うチャンスが、こんなに早く巡ってくるなんて。だいだいには感謝しかない。


 それはそうと、まさかソウがユニーク(ルーツ)を引き当てて隔離区域(レギオン)に来てるとは思わなかった。


 ひと目でわかった。普通の奴なら絶対にしないようなメチャクチャな戦い方と、武器を構えた時の独特の姿勢。

 間違いなく、あの銀髪の短刃剣(ダガー)使いはソウだと俺は確信した。


 だからこそ一度接触を試みた。その後だいだいには怒られちゃったけどな。


 けどそのお陰でソウとはフレンドにもなれたし、だいだいの居ない所でその内パーティでも組んでみよう。

 勿論俺の正体は隠して、だけど。


 さて、そろそろボスの相手をしてやらないとな。


「だけど……。俺の相手としてはお前じゃあ役不足だ。

 ソウの足元の足元の更に下、靴の裏についた砂粒にすら届きゃしない」


 そう言い放ちながら俺は目の前に立つエリアボス、エリュシディナイトとの戦闘に意識を向けて。


 エリュシディナイトは漆黒の全身鎧に身を包んだアンデットの騎士だ。

 攻撃しようと不用意に近付けば、赤く禍々しいオーラを放つ剣をデタラメに振り回してくる。


 ただ、意識を向けると言ったって、何ということはない。

 デタラメに振り回しているようで、実はパターン化された攻撃。

 パターン化しようがデタラメに武器を振ろうが、倒す気で掛かって来なければそれは俺からすれば攻撃とは呼べない。


 ……まぁけど、本当にデタラメを攻撃に昇華させられる奴を俺は一人だけ知ってはいるけど。


 手にした剣の柄を握り、力を込めて振るう。

 刀身の無かった柄の先には、瞬く間に黄色い光の刃が伸びていく。

 もちろんこれは手品ではない。

 MPを消費して光属性の刀身を武器に纏わせるスキル、【光閃牙(メルパトリオ)】だ。


 スキルよって生み出す光の刃。これを宿した剣を(もっ)て、俺は敵を切り刻んでいく。


「つまらないな。お前は」


 抵抗はしてきたものの、難なくエリュシディナイトのHPを押し切ってゼロにし、ファーストキルを頂く。

 これで、上級職へと上がるための条件の内のひとつをクリア出来た。


 戦闘のリザルトはどうでもいい。

 レコードを開き、エリュシディナイトのファーストキルが更新されたことを確認した俺はあることに気づく。


「フィールドボスのファーストキル……!」


 ボスにはエリアボスとフィールドボスの二種類が存在する。

 突き詰めればもう少し種類はあるが。とりあえずはこの二種のボスのレコードを巡ってギルドは攻略に臨む。


 エリアボスというのはフィールドに湧くボスのことで、見かけたら攻撃を仕掛ければいいだけの事だから、誰でも簡単に挑むことができる。


 だがフィールドボスは別だ。フィールドボスへ挑むには広大なマップの中にランダムに一ヶ所だけ現れる、ボスエリアへと続く[転移の渦]をまず自分の足でマップを探索して見つけなければならない。


(こんなにも早くフィールドボスが攻略されるなんて。大型ギルドでも結成されたのか……?)


 俺はヴォイドエッジアーミーの項目をタップし、誰がキルを取ったのかを開き見る。

 そこに表記されていた二人の名前を見た瞬間、俺は堪えきれず笑ってしまった。


「……っははははははっ!! アイツら……。アイツらバカだ! やりやがった!」


 ……フィールドボスは、エリアボスとは比べ物にならない程の強敵だ。

 行動パターンにひとクセあったり、こっちが攻撃可能なタイミングが掴みにくかったり、単純に攻撃力、防御力がとにかく高いだとか。


 そんなフィールドボスをたった二人で倒したっていうんだから、あの二人は本物のバカだ。


「ソウ、だいだい。益々お前達と遊ぶのが待ち遠しくなっちまうな」


 笑いの収まった俺は、踊るような心持ちでバリトンを目指して歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=447283488&s ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ