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甦る単騎戦の熟練者《エキスパート》

ここでヴォイドエッジアーミーとの決着って書いちゃったんで書きましたけど……。


文量上がってしまいました。

5000字オーバーでの更新です。


宜しくお願い致します!

 

 それから暫く、俺とテュリオスはヴォイドエッジアーミーと殴り合っていた。

 HPがイエローに入ってからのコイツは、動きこそ滑らかになっているが、まだまだ多角的な動作が出来ずにいる。


 まだどこかしらの身体のパーツが可動の邪魔をしているのか、攻撃を行う直前に若干の溜めが必ず入る。

 ここに大きな隙がある為、溜めの瞬間にテュリオスは盾バッシュを決め、その合間に俺は今も背後から殴り散らしていた。


 因みに、俺はまたチュートリアルリッパーだけで戦っている。

 今の段階でのヴォイドエッジアーミーはまだ錬成石(オークラント)を使って戦うよう敵ではない。


 テュリオスの方も、斬撃にも刺突にも耐性のあるヴォイドエッジアーミーに対して、自慢のブルーウルフサーベルでの攻撃をする事なく盾で殴ることしかしていない。


 ……ワンパターン過ぎる。攻略もくそもあったものではない。


「……お前はリザードサイスに遥かに劣る」


 今のところまだ俺もテュリオスも被弾はしていない。

 このまま順調にレッドゾーンまでHPを削っていければ、俺達二人だけでヴォイドエッジアーミーを倒せるかもしれないという所まで来ている。


 特にこれといった反撃らしい反撃をさせることなく、とうとうヴォイドエッジアーミーのHPはレッドゾーンにまで入った。


「テュリオスッ! レッドゾーンだ! 一旦退くぞ!」


「了解したっ!」


 テュリオスは即座に攻撃の手を止め、離脱する。

 俺は再度停止したヴォイドエッジアーミーの正面へと回り、置き土産とでも言わんばかりに、その細く造られた頭部を二度殴ってからテュリオスの後に続いて距離を取った。


「さて、ここからだな。どう来るか」


 テュリオスの元へと辿り着き、俺達は並び立つようにしてヴォイドエッジアーミーの様子を見ることにした。


「妙だな……。手応えが無さすぎる」


 弱く設定されているのか。それともレッドゾーンからがヤバイのか。

 どちらにせよ、テュリオスの手応えが無さすぎるという発言には俺も同意見だ。

 正直な話、このまま行けるようならフィールドボスをノーダメ完封まで見えてくるレベルだ。


「これからが本番だと俺は思いたいね。ヤバくなったら迷わず退けよ? 防御力は俺の方が高いんだからな」


 盾による差分はあるものの、被弾時の耐久力は俺の方が上の筈だ。なんて言ったって二部位分の防御力の差があるんだ。


 腕部、胴体部、腰部、脚部の順に要らない部分を排除(パージ)していくヴォイドエッジアーミー。

 最初に見た時よりもかなり細身のボディとなっている。


 金色の鎧は全て外され、中から現れたのは純白の機械天使。

 いや、無機質な造りが機械に思えるだけで、実際は天使という生命なのかもしれない。


「なぁ、目の錯覚か? アイツ飛んでね?」


 見ればヴォイドエッジアーミーは膝を曲げ、機械で出来たような翼を大きく広げて浮いている、ような気がした。


「あぁ、飛んでるいるな。間違いなく」


 俺の問い掛けにテュリオスは淡々と応えた。あ、やっぱり飛んでる?

 あれはズルくね? だって飛んでるんだよ? 高さが高さなら俺達攻撃出来ないよ?


「どーすっかな……。とりあえず仕掛けてみるか……」


 俺の脳内に居る警戒度くんが超反応を起こしてしている。

 今まで戦闘は前座の前座に過ぎないよと。

 ヴォイドエッジアーミーは剣を投げ捨て、ふわふわと浮きながらこっちに向かって来はじめる。


 奴の動きは相も変わらずゆったりとしているが、先程までとは明らかに(まと)う雰囲気が違うのだ。

 可動の滑らかさも断然違うのだ。より人間のような自然な動きをとっている。


 強者の余裕とでも言うのか。そんなものさえ感じられるこの流れるような静の動き。


「……面白ぇ」


 こういうの。やっぱこういうのなんだよ!

 ヒリつくような戦い。気を抜けば一瞬でやられちまいそうな程の精神的な駆け引き。


「ソウキ、どう攻める? 俺は後に続くぞ」


 まだコイツと戦うのは今回が初めてだ。戦術も何もあったもんじゃない。

 どんな動きをして、どんな攻撃をしてくるのかもわからない。


 こんなところでビビって動けなくなってるのは時間の無駄だ。

 俺達は試しにここに来ただけだからな。倒すチャンスは何度だってある。

 ここは死ぬ覚悟で行くしかないだろう。


「俺が奴の正面を引き受ける。隙があればそこを突いてくれ」


「わかった。……ひとつ、わがままを言ってもいいか?」


 珍しいな。だいだいがわがままなんて。

 でもなんだかしおらしいのもちょっとキモいぞ。


「なんだ? ここに来てアイツが死ぬ寸前にわざと死んでくれ、とかは止めてくれよ? 俺だってアイツのドロップアイテムが欲しいからな」


 あっ、操作ミスった。まぁいっか。捨てちまうのはもったいない。

 俺は本来、錬成するつもりのなかった直剣(ブレード)タイプの武器を錬成しながら、テュリオスの緊張をほぐしてやる為の軽いジョークを口にしてやった。


「いや、そんなんじゃない。俺は……奴を倒したい。お前と何かを達成してみたい。あいつの……ディランのように」


「……」


 何だよ。急に真面目な事言い出すなよな。調子狂う。

 だいだいってスッゲーめんどくせぇ奴だけど、心根はクソ真面目で良い奴だから困るんだよな。


「はんっ! バッカじゃねぇの」


「……何?」


「アイツの体力を見ろ。 たったのあれっぽっちしかねぇんだ。勝ちたい? バカ言うな。勝つんだ。

 どんなに汚い手段を使おうとも、どんなに泥臭い勝ち方だろうと、どんな世界だろうと勝てば正義、負ければ悪だ」


 ったく、どいつもこいつもプライドやつまんねー卑屈、過去現在。囚われ過ぎだっつーの。

 まぁある意味では俺もそうかもしれねぇけどな。

 だからゲームの(この)世界に戻ってきたんだろと言われれば、返す言葉もない。


「だからな、だいだい。楽しめ。

 奴の行動パターン、俺達の与えるダメージ。奴から貰うダメージ、次の奴の攻撃を受けるのか、捌くのか、避けるのか。

 逆に攻撃に回る時はどこから攻めるのか。戦闘ひとつ切り取ったって、これだけの流れがある。

 集中しろ。奴との戦闘を楽しめ。……その先に、俺とディランが辿り着いた答えがある」


 そう、俺のゲームに対する考え方や楽しみ方というのは、ディランから影響を大きく受けたものなのだ。


 あいつは常にゲームというものを楽しんでいた。

 チームクラブに入ってからもそれは変わることはなかった。

 ゲームに遊ばれるんじゃない、ゲームをとことんまで遊び倒していた。


「ふんっ。言ってくれるじゃないか、ソウキ。だが一つだけ言っておく。ここでの俺はテュリオスだっ!」


 あ、無意識だったけどだいだいって言っちまったみてぇだな。反省はしてない。

 ……だがそうだ、それでいい。

 大治大河(だいだい)はそういうめんどくせぇキャラじゃねぇとな。らしくねぇよ。


「気合い充分だな。死ぬなよ、テュリオス」


「お前こそ」


 こいつ、俺がユニーク(ルーツ)持ちだってこと忘れてるんじゃないかね。

 まぁ盾がある分、耐久面ではテュリオスとイーブンか。

 それでも防具の差があるからやっぱり俺の方が死ににくいんだけどな。


「行くぜぇっ!」


 俺達のやり取りを余所に、目前まで迫ってきていたヴォイドエッジアーミーへと突撃し、直剣(ブレード)タイプの錬成武器をテュリオス譲りの突き攻撃でお見舞いする。が……。


「は!? それは汚ねぇっ!」


 突き攻撃が当たる瞬間、突然ヴォイドエッジアーミーはその姿を眩ました。


「どこだ? どこにいるっ!?」


 周囲を見回しても、奴の姿は見えない。


「ソウキッ! 上だっ!」


「クッソ~! アイツ汚ねぇ!」


 テュリオスの声を聞いて上を見上げれば、遥か上空をふわふわと浮遊しながら旋回している。

 瞬間移動に浮遊だと? セコ過ぎるだろ!


 上空でヴォイドエッジアーミーが静止したかと思えば、今度は地上に無数のオートボットとゴーレムが現れる。コイツ……本気過ぎじゃね!?


「とにかく雑魚を潰すぞ!」


 テュリオスはそう言って迫り来る群れへと突っ込んでいき、盾の薙ぎ払いで一度に複数体の敵にダメージを与えていく。


「よし、なんとか……うぉ危ねぇっ!」


 雑魚モンスターを全滅させたと思えば、ヴォイドエッジアーミーは瞬間移動で至近距離まで近付いてきていた。

 超至近距離から放たれた、掌からの光線に身を焼かれる所だったぜ……。


「くそ……。またか……」


 光線を放ったヴォイドエッジアーミーは、すぐさま瞬間移動してまた上空から雑魚モンスターを召喚してくる。


「どうする……何かいい手は――」


 ――突如として甦る記憶。ただただ脳内に流れる映像を暫しの間、雑魚モンスターと戦うテュリオスを背景に俺は目を奪われていた。


 ――ソウは戦術を練るのがヘッタクソだな!

 ――あん? うるせぇ。ソッコーで一人落とせりゃ簡単に終わるだろ?

 ――ソウ。お前は天才だ。一対一でまともにソウを相手に出来るのは俺しかいねぇ。

 ――自分で言うのか、それ。

 ――俺は強ぇからな! それにソウは体力も集中力もお粗末だし、持久戦に持ち込めば絶対勝てる。

 ――ほっとけ。

 ――攻めるだけが戦いじゃない。待つことも大事なんだ。相手が仕掛けてくる時、必ずそこに隙が生まれる。それを誘ってみる。待ってみるんだ。


 ……なーんでこんなことを今思い出すんだろうね。

 ったく。イヤーな記憶だ。俺はチームに在籍していた頃、トレーニングで戦術案を課題で出すのが本当に嫌いだったからな。


 でも、ヒントは得られた。

 そして、俺はテュリオスへと向けて叫ぶように声を飛ばした。


「テュリオスッ! 暫く一人で雑魚を頼む!」


「お前はどうするんだっ!?」


 群れとは言え、それほど雑魚モンスターとの戦闘が苦ではないだろうテュリオスは、戦いながら叫びを返してくる。


「単騎決戦だ」


 ……ボスエリアへと突入する前のレベルアップ時、俺はこっそり【拳闘武器錬成】スキルを獲得していた。

 もちろん、ショーカットにもちゃんと拳闘(ナックル)は登録している。


 俺はショーカットから拳闘(ナックル)を錬成した。

 半透明のグローブのようなものが俺の両手を覆っている。


 テュリオスが湧いた雑魚モンスターを全滅させてくれたお陰で、俺の目の前に再度ヴォイドエッジアーミーが掌を向けて現れた。


「…………そこだぁっ!!」


 お見事、俺。

 光線の照射と同じタイミングなら、絶対に回避されない自信があった。

 寧ろここしか攻撃出来る隙がないからだ。


 瞬間移動されることなく、胴体部に拳の一撃をねじ込むことが出来た。まずは一発。

 更にダメ元でもう一発殴ってみた。

 ヴォイドエッジアーミーは初撃を受けた瞬間からほんの数秒は怯みが入るらしく、二発目を当てるまではギリギリ瞬間移動されないみたいだ。


 錬成武器、弱点。多分自らの防御力を削ぎ落としたことと、攻撃チャンスの少なさの設定も加味されているのか、ドエラいダメージが入った。


 同じダメージ量なら、今と同じ攻撃を二セット与えられれば、ギリギリ倒せるか倒せないかのラインだろう。


 程なくして再び雑魚モンスターが召喚され、テュリオスがそれを全滅させる。

 再び目の前に現れたヴォイドエッジアーミーの攻撃に合わせてカウンターを当てる。


 ……そしてこれが最後だ。

 テュリオスは軽々とオートボットとゴーレムの群れを薙ぎ倒し、当然のように俺へと光線を放つ為、掌を向けて現れるヴォイドエッジアーミー。


 ここでの敵視(ヘイト)値を上げる条件は「何もしない」事だろう。

 恐らく、ヴォイドエッジアーミーは召喚した雑魚モンスターの撃破率で敵視(ヘイト)値を管理し、一番敵視(ヘイト)の高い者。

 つまりは雑魚モンスターを掃討した際、貢献率が一番低い者を優先して狙う。


 ってな感じの敵視(ヘイト)設定がされていると俺は見た。

 早い話が弱い奴を一番最初に狙うよ、ということだ。


 だから執拗に俺を狙って来たんだろう。

 幸か不幸か、たまたま俺のまんま予想通りに動いちまったヴォイドエッジアーミー。

 雑魚をテュリオスに任せっきりにして良かったぜ。


「だぁぁぁぁっ!」


 ヴォイドエッジアーミーの光線の照射に合わせて一撃目を当てる。

 そして怯んだ所をもう一撃。

 ここで拳闘(ナックル)の錬成武器は壊れてしまったが、まだヴォイドエッジアーミーの体力はミリほど残っている。


「逃がさ……ねぇっ!!」


 チュートリアルリッパーを右手に引き抜き、左手に拳を握り、ヴォイドエッジアーミーの頭部を目掛けて思いっきり殴りかかる。

 ヴォイドエッジアーミーの瞬間移動は足下から始まる。今ならギリギリで一撃入るか……!?


「間っ……に合えぇっ!」


 俺の拳がヴォイドエッジアーミーの頭部へと直撃し、僅かだけ残っていたヴォイドエッジアーミーのHPをゼロにした。


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