「姫」と名前に入っているやつは大概ロクなのが居ない。―1
「あっ。そういえばリザードサイスからの戦利品、見てなかったっけ」
ボストカゲを何とか倒した昨日から明けた今日。
だいだいの家に着き、だいだいの顔を見た瞬間、昨日リザルト画面を見ずにログアウトした事を思い出した。
「リザードサイス?」
あー、だいだいの所属する区域には居ないのか。だいだいの方には一体どんなボスが居るんだろうな。
「おん。昨日エリアボスを倒せたんだよ、昨日話したもう一人の奴と二人で」
は? とだいだいは自分の部屋の扉の前で立ち止まり、目を見開いて俺を凝視する。
止めてください……。恥ずかしい……です。
「エリアボスを倒した、だと?」
だよね。そうなるよね。現段階ではまず勝てないって言ってたもんね。
「うん。何とか勝てたって感じで、倒した後スゲー疲れちゃってさ。リザルトも見ずにソッコーログアウトしちゃったから、今からボスの落とした戦利品を見に行くとこ」
レアなアイテムだとか装備だとかを落っことしてたら超ラッキーだよね。そう思うと勝手にわくわくしちまうな。
「お前は今、自分がどういう状況にあるのか理解をしていないらしいな。柏木」
呆れた口調でだいだいは自分の部屋へと入って行った。その後を俺も続いていく。
最早お馴染みの光景になりつつある、真っ暗な部屋の中心に、さもまるで光源かのように在る二機のUPC。
「どういうことだ?」
部屋に入った俺は、だいだいに説明を求めた。
「ログインしたら、メニューからスコアボードを覗いてみるといい。チュートリアルが終わったら、お前はきっと英雄になるぞ」
それだけ言うとだいだいはUPCに座り、多分『カラミティグランド』の世界へと入っていった。さて、俺も続くか。
「アイナ、『カラミティグランド』を起動してくれ」
「畏まりました」
UPCって基本的に電源はつけっぱなのかな。待ち時間無しでゲームをやれるってのはかなり凄いけど。
「スコアボード……スコアボード……っと」
エリアインした俺は、早速メニューからスコアボードを探し当て、開いてみた。
「あぁ……そういう感じ……。これはまずいね」
開いたスコアボードには、細かな実績と、ランキング表が映し出されていた。
1stの右側にはとても良く見えるように大きめのテキストで並んだ三文字の名前。更にその右側には1017ptと書かれていた。
俺が一位ならば、2ndにも名前があるという事だ。もちろんそいつはコットだよ。コットは俺と10ptの差で1007ptだった。
このポイントの内訳も見ることができて、大まかなポイント獲得はボスのファーストキルが1000pt。レアアイテムの拾得が17pt。
多分この10ptは、どこぞの狼が落としたレア武器の差だと俺は思う。
区域争奪レースが始まる前からランキングに名前が載ってしまうこの現状。
まぁ、リザードサイスは全く倒せないモンスターという訳では無かったから、俺が一足お先にランキングインしたというだけ。
各区域でボスのファーストキルが出始めれば、勝手に俺の名前も埋もれていくだろうさ。
スコアボードを閉じ、いよいよお待ちかねのアイテムパックの確認タイムだ。
俺とコットに7ptの余りポイントが入っていたから、恐らく二人して同じレアアイテムを手に入れたんじゃないかね?
アイテムパックに目を通すと、あったよ。緑色のテキストが!
その名も赤竜鱗の籠手。名前を見る限りでは防具っぽいな。
ブルーウルフサーベルの事もある。武器は入手しても装備出来ない恐れがあるから、防具は素直に嬉しいドロップ品だ。
残りは強化素材と、スキル書:低級ってアイテムだった。強化素材の方はチュートリアルが終わったら、必要とするプレイヤーに高く売りつけてやろう。
スキル書は、何だこれ……?
『低級のスキルポイント書。使用するとスキルポイントが1加算される』
と書いてはあるが、使用しようとしても使えない。
現状使えないアイテムなのか、俺には使えないアイテムなのかは謎だが、暫くはアイテムパックの中で眠っておいて貰おう。
とりあえず、赤竜鱗の籠手を装備した。装備の画面にパラメータの加算値が表示された。防御力の加算値は18。基準はわからないけど腕の装備一つで18も上がれば上出来だろ。
あ、TIPS先生、お久し振りです。
『防具の獲得、おめでとうございます。防具は同じ名前を持ったシリーズ品を同時に装備することでボーナスを得られることがあります。シリーズを集めて自分のプレイスタイルに合ったボーナスを探してみるのも面白いかもしれませんね』
と、いうことらしい。
なるほど、こいつのシリーズがあればそれを全部揃えて装備すると、何かしらの装備特典があるのか。
……待てよ? このシリーズを集めようと思ったら、アイツと連戦しなければならないって事だよな……?
リザードサイスを連戦ってのはキツすぎるが、レベッカもパーティに混ぜて挑めばまただいぶ戦闘の楽さが違ってくるだろうな。銃持ってるし。
「こんなところか。さて、今日はどうしようかな」
錬成石も何気にかなり消費している。昨日のリザードサイス戦だけで52個も使っている。
こんなに使ってたのかと自分でもびっくりだが、一人で集める気にはならん。コットの戦闘訓練のついでに手に入れば御の字か。
そして今のところ、だいだいからトレード機能を使って貰うしか入手する手段のない火の低級錬成石も20個近く使っていた。
暫くは昨日のような激戦は避けたい。
そんなこんなで特にやれることのない俺は暫く、誰か来ねぇかなぁと思いながら釣りを楽しみつつ、このゲームの仕組みについてを考えていた。
まずは区域の規模。恐らくこれが最初の争奪戦のキモになるはずだ。
当然、極端に規模の小さい二つの区域があろうものならばその二つの区域はスタートラインに立つことすら許されず、何も出来ないまま上の区域に吸収されてしまうだろう。
そしてここで鍵になってくるのがユニーク種持ちのプレイヤー。
一つの区域にユニーク種持ちは一人しか所属できない、というルールはアルマトからは聞いていない。
だからもしかすると、規模の小さい区域でも、ユニーク種持ちを複数人、抱き込めるかどうかでこのゲームの立ち回りが一変するという訳か。
だけどもユニーク種持ちを一度に何人も区域に迎え入れてしまうと、次の期間にユニーク種持ちを入れられなくなる可能性もある。
区域を指揮する人間の采配も注目どころだ。
……ん? そういえば、その区域を指揮する人間ってどうやって決まるんだろうな。