"神々"の頂点に立つは"人"―2
更新サボってさーせんでした!
最近絵を真面目に練習してまして、これにハマっててサボってました。
いつか挿し絵でもつけられたらなー、とか今は思ってます。
セイの本名ですが、正しくは亜久里誠司です。
どっかで誠二となってた気がするので、近々修正しておきます。
『in world』のU23リーグでは、一年に一度人気投票が行われ、そこで一位から五位までに入った選手には"神"と付く称号が与えられる。
五位、【神弾】マウロ・D・ランドル
四位、【美神】飛一憫
三位、【神童】亜久里誠司
二位、【神速】ディラン・マルティネス
そして、"神々"の頂点に立った男に与えられた称号は"人"であった。
一位、【魔人】柏木惣
どこの誰が、こんな形で、こんな所で魔人、柏木惣が復活するなどと思うだろうか。
当人のすぐ傍に居る、たった一人を除いては。
「……よぅクソガキ。礼を言うぜぇ? もう二度と出てくる事はねぇと思ってたからな」
口調をガラリと変えたソウキが、セイに向かってこんな言葉を切り出した。
「っ! やっと、やっと来た……!」
待ちわびた魔人の復活に、セイは狂喜した。
セイはソウキの錬魔剣クリスティアペインを弾き、ソウキの胴体へと攻撃を攻撃を加え――。
「遅ぇ。長剣、直剣」
――その胴体を捉えた筈のエーテルソードは、何故かセブンレイズソードマンのサーベルを掴まされていた。
逆に、サーベルのすぐ横に立つソウキの腕から伸びる錬魔剣クリスティアペインの刀身が二度、セイの体に突き立てられた。
この時ソウキは攻撃中に再錬成を行っていた為、セイは一撃で二度、ダメージを与えられた事になる。
そしてそれが理解出来るからこそ、セイは今目の前に居る相手の強さ、恐ろしさ改めて痛感するのだった。
不敵な笑みを浮かべるソウキの背にはセブンレイズソードマンが立ち、まるでセブンレイズソードマンを味方につけているかのようなその姿に、セイは身震いを起こす。
「はぁぁあっ!」
セイはすぐさま体を反転させ、その勢いを乗せた高速の横薙ぎの一閃を放つ。
仮にこれが防がれたとしても、セイには次の攻撃の手があった。
だが……。
「勢いだけの攻撃」
――対戦相手は口を揃えて言った。
「深みも、捻りも無い」
――まるで魔法にでもかかったかのように。
「目ぇ瞑ってても避けられそうだ」
――攻撃したそこには、柏木惣の姿が無かった、と。
「つまんねぇ」
「ぐぅぅうぅっ!」
自分の攻撃は当たらず、逆に向こうの攻撃だけが確実に刺さる事に、セイは強い不快感を覚える。
「おらどうした? 俺を殺すんじゃなかったのか、クソガキ」
これこそが、試合に勝って勝負に負けた、本気の柏木惣との戦い。
これ程でも、まだ上があるんじゃないかとさえ思えてしまうその余裕。
揺るぎの無い、絶対王者の復活。
「ソウキさんっ! うし――ろ……」
ソウキの背後から、セブンレイズソードマンの一撃が疾る。が……。
「っせぇなぁ、ちっと黙ってろよ。気が散んだろ」
背後のセブンレイズソードマンへと目を見やる事なく、ソウキはセブンレイズソードマンのサーベル攻撃を止めてみせた。
この理解不能な背面防御に、トレイアは開いた口を塞ぐことも、そこから言葉を出す事も出来なかった。
口調の変化もそうだが、ソウキの持つ雰囲気自体が、全く別の誰かにトレイアは感じられたのだ。
「余計な事しなけりゃ、お前は生かしとっから安心しろ」
ソウキにこう諭されたトレイアは、セイはここで間違いなくキルされて、最下層へと送られてしまうのでは、と考えていた。
「余所見を……するなぁっ!」
剣を振りかざし、ソウキへと斬りかかるセイ。
「っ!?」
が、エーテルソードの刃がソウキへと届く事は無かった。
逆手に握られた宝雷剣・バルサによって、攻撃は防がれていたのだ。
またしても、そして一瞬にして深々と、自身の腹部には錬魔剣クリスティアペインの刀身が突き立てられていた。
悪魔のような、ソウキの冷たい微笑と共に。
攻撃を仕掛ければ、逆に攻撃を受けている事に寒気すら感じながら、セイは距離を取って左手に武器を装備する。
「剣が二本あれば――」
ソウキはそのまま襲い掛かってくるセブンレイズソードマンと戦いながら、宝雷剣・バルサを鞘へと納めた。
「――俺に勝てるとでも思ってんのか?」
振り返って刃を向けるソウキのこの言葉が、セイのソウキに対する警戒心を引き上げるには充分なものだった。
今の言葉は決して驕りなどではなく、左手の剣を納めたのも、ソウキは「この身とこの剣一本あれば、お前程度何度でも倒せる」という意味を暗に持たせ、本気で口にしている。
そうセイは受け取った。
「勝てるんじゃくて、勝つ……!」
そう叫んだセイは、再度ソウキへと攻撃を加えるべく突っ込んでいった。
「俺はそういう甘っちょろい事言う奴、大好きだぜ。なんでかってーと――」
この一合も、ソウキが制する事になる。
セイの放つ鋭い剣閃をするりと抜けるソウキが一瞬にしてセイの背後へと回り、羽交い締めにして。
「――俺のもう半分が、甘ちゃんだからな」
「くっそ!」
ソウキに羽交い締めにされたセイの目に映ったのは、真上から振り下ろされるセブンレイズソードマンのサーベル。
プレイヤーとモンスターとの連携。
そんな非常識な連携が、目の前で起きている。
サーベル攻撃をその身に受け、セイのHPは半分を割った。
「……どうして」
「?」
「どうして、未だにそんなに強いのに、あんな簡単に引退しちゃうんだよ!」
「俺が強さを求めてない……いや、求める必要が無くなったから」
「そんな理由で、僕達を捨てて行くなよ!」
「っと、お前はここで大人しくしてろよ?」
会話を割るように繰り出されたセブンレイズソードマンの攻撃を、ソウキは食い止める。
「……悪かった。俺が憎いなら、今ここで俺を殺すか?
それを望むのなら、俺は抵抗しないでやって――」
"今の"ソウキにとっては、自分が先の階層に辿り着く事や、フィル達にレコードを取らせる事などどうでもいいと思っているからこそ、こんな発言を軽々と、且つ本気で口にしてしまう。
……それをセイが許すような事は無いのだが。
「――そんな簡単に許されようとするなよ! 僕がどんな想いで……どんな想いでここに来たか!」
……いちゲーマーとしてつまらない日常を送っていた亜久里はある日、たまたま再生した一本の『in world』の試合動画に魅せられた。
まだ柏木とディランがアマチュアだった頃の、『in world』の世界大会での試合。
およそ同年代とは思えぬ連携の数々。
自分より体格の大きな外国人プレイヤーを相手に、善戦どころか圧倒すらしている姿。
二人を知った亜久里は、すぐさま『in world』の世界に足を踏み入れた。
天性の才覚。
それを際限無く発揮し、亜久里は二人を追いかけ僅か一年でU23リーグの選手の仲間入りをした。
それからは、激戦の連続だった。
これまでの人生で味わった事の無かった緊張感、声援、勝利と敗北。
ようやく生きていると実感出来るようになった亜久里の前から、突如姿を消した柏木とディラン。
柏木が引退した後には、リーグ内で亜久里のライバル足り得る選手は存在しなかった。
置いていかれた。それしか亜久里の頭には無かった。
時代はVRへと移り変わり、人気が低迷した『in world』のリーグは解体。
少しの間を空け、亜久里は海外で新たに発表されたタイトル、『リベルクライス』の公式チームの初期メンバーとしてのオファーを受け、二人の事を忘れようと日本を後にした。
そんな亜久里の元に届いた一通の手紙。
送り主は大治大河だ。
セイは、亜久里誠二は、大治大河によって招待されたプレイヤーの一人でもあった。
怒りをぶつける為、試合には反則勝ちしたものの、心が折れそうになる程ボロボロにいたぶられた本気の柏木へとリベンジする為、亜久里はこの『カラミティグランド』の世界へとやって来たのだ。
「俺にとっては、そんな想いなんてゴミ同然だ。
だから自分で選べ。今ここで俺と全力で殺し合うのか、無抵抗の俺を殺すか」
『リミットの到達を確認。
情報体をアップデートしますか?
[はい] [いいえ]
※アップデートを行う事により、情報体の限界値を大幅に引き上げます。
これによって、情報体の運動量が現実世界のプレイヤーの肉体の限界値を超えた場合、その超過分の負担がプレイヤーの脳にかかる事になります。』
ソウキからの冷ややかな選択肢を迫られながら、セイは自身の視界に映るウィンドウを眺めていた。
「僕は、ワギと競えるような存在でありたい。その為なら、どんな事だってする」
ソウキには聞こえない声でこう呟き、セイは[はい]のアイコンをタップした。
[アップデートが完了しました。]
アップデートとやらは一瞬だった。
そしてこう表示されたものの、特に身体的に感じられる変化や異変も無い。
こんな事をしたくらいで勝てる筈が無い。
そう思いつつ、今度はソウキに聞こえる声でこう言う。
「殺し合おう、ワギ。僕は僕の積み重ねた全てを出し切って、競いたい」
「回復はしておけよ? 俺を楽しませてくれ」
「うん」
[命の雫]を使い、HPを回復したセイ。
「剣は一本でいい。二本あっても、通用しないなら邪魔なだけだ」
そう呟いたセイは左手に握る剣を装備から外し、覚悟を決めてソウキの元へとゆっくり歩いていく。




