"神々"の頂点に立つは"人"―1
セイを最下層へ落とすか、残して上へ上がるかで迷ってるので、ここ一話だけ引っ張ります。
多分……決着まで二話くらいかなーと思います。
この計算は絶対ガバりますが。
「えっ? セイさん、ソウキさんに攻撃を……」
ソウキ達三人の動きを見守っていたコットは、驚きながらエルドの方を向く。
セブンレイズソードマンの攻撃を左手の宝雷剣・バルサで受け止めながら、右腕を左腕に交差させてセイの攻撃を錬魔剣クリスティアペインで防いだまま、ソウキは動かないでいる。
見ている側からしたら、動けないでいる、とも見える。
(ソウがセイと呼ぶあのプレイヤー、あの動き……偶然で……いや、別人である筈がない)
「……コットちゃん」
エルドの――ディラン・マルティネスの明晰かつ迅速な思考が弾き出した一つの解。
それを元に、エルドはコットへと言葉を紡ぐ。
「ソウキのHPが減っても、絶対に回復はしちゃダメだ」
「ですが……」
「俺の予測が正しければ、今のソウキは君の知るソウキじゃない。
今からの戦いは、回復をしようものなら怒号が飛んでくるぞ」
ディラン・マルティネスという人間は、亜久里誠二と同じく、柏木惣という人間の一から十までを全て理解している。
元は両利きであった事や、好きな食べ物も嫌いな食べ物も無かった事。
元は二つの心が存在し、半身とも呼べるその片方の心を捨て去り、忘れてしまっている事。
そして、その半身が甦ったか、情報体が限界点に到達したか、もしくはその両方が今柏木の、ソウキの身に起きているのではないかという事までがエルドの頭の中にあった。
根拠もある。
まずはセイというプレイヤーが、あの亜久里誠二であるとしたならば、今柏木惣が亜久里誠二の攻撃を受け止めているという光景自体、あり得ない出来事であるという事だ。
実力トップのプロ選手だったとはいえ、『リオスト』から身を引き、長いブランクのある柏木と、『in world』のゲーム性を受け継ぎ、今は海外で話題となっているARバトルアクションゲーム『リベルクライス』。
その『リベルクライス』で、つい先日まで公式クラブチームに所属していた亜久里誠二とでは、プレイヤーとしてのスペックが全く異なる。
いくらVRにおける身体アシストを受けようと、この差は簡単に埋められるものではない。
ましてやモンスターの攻撃を防ぎ、無防備な状態となっているならば尚更である。
「あの……。エルドさん」
エルドが考察に耽っていると、コットはエルドへと距離を詰め、耳打ちをする。
「どうした? コットちゃん」
「イエスかノーで答えて下さいね。エルドさんが、ディラン・マルティネスさんなんでしょうか」
エルドは目を見開いた。
ソウキに自分の正体がバレるならまだしも、数回パーティを組んだだけのコットに、何故正体がバレたのかと。
沈黙は正解と言っているようなもの。
腹をくくったエルドは、静かに口を開く。
「…………イエス。どうしてわかった?」
「実は、ソウキさんが柏木選手だって事はもう知ってるんです。
そのソウキさんについて、これだけ詳しい人が居たら、それはもう、わたしからすれば『俺がディランだ』って言ってるようなものです」
エルドの耳元から顔を離したコットが、エルドへと向けて笑顔を見せた。
「やられたな。意外な所に伏兵が居るものだね、本当に」
おどけたようにエルドがそう言った瞬間、トレイアとセブンレイズソードマンを巻き込んだ、ソウキとセイの対人戦が始ってしまった。
――その戦いに、誰もが息を呑む事になる。
 




