塔ダンジョンへ(テュリオス視点)
部屋へと戻るなり、端末に着信が入った。
表示された名前には、研究室と書かれている。
「俺だ」
『四人目です』
声の主は高浦という男だった。
高浦の『カラミティグランド』開発でのメインの担当は武器開発の筈だが……。
「四人目か……。どんな奴なんだ?」
『もう解除しておきましたが、聞きますか?』
「何? 俺の許可無しに――」
『――四人目のIDはソウキだったからですよ。千秋ちゃんは休憩入ってたんで、僕が解除通知を出しちゃいました』
「……ソウキというのは本当なのか?」
だとしたら、柏木達は中層に辿り着いている頃だな。
『えぇ。現在は塔ダンジョンの下層フロアに居ますが』
と思っていた矢先、高浦のこの言葉で俺の予想は疑問に変わる。
研究室の人間が手を加えていなければ、下層はすぐに突破出来るフロアだった筈だからだ。
下層フロアは、柏木が限界点に到達するような場所では到底無い。
「下層だと? あの場には中ボス一体しか配置されていない筈だが……」
『のようですね。配置モンスターの変更は確認されていません』
「そうか……。ひとまずソウキの解除通知の件、礼を言うよ」
『それはそうと、"二択剣"。大河さんのIDに送っておいたんで、テスト評価して下さいね』
「実装前から堂々と握れるかそんなもの」
『ちゃんとデザインは大河さんの手持ちの武器に合わせて、変更はしておきましたって』
「まぁ、それならテストはやっておこう」
『ありやすありやす。白はブルーウルフサーベル、黒はエッジオブヴォイドに変えてありますんで』
「両方を送るなよ……」
『実装日は同時なんですから、そう言わずに』
「わかった。テストが終わり次第、評価を報告しよう」
『お願いします~』
通話を切り、二基並んだUPCへと視線を向ける。
片方には、今は意識が向こう側にある柏木の姿。
「……塔ダンジョンか。須藤君に任せておけばいいと思っていたが、俺も行くとしよう」
それに、アップデートとしたソウキの動きも気になる所ではあるしな。
「たまには仕事をサボるのも悪くない」
そう自分に言い聞かせ、俺は柏木の隣にある自分のUPCに腰掛けた。
「おはようございます、大治大河さん。本日も宜しくお願い致します」
聞き慣れた筈の平坦なAINAの声も、今日はどうしてか弾んで聞こえる。
「……ふ。俺も大概、夢の見すぎなのかもしれないな。
全く、お前のせいだからな。柏木」
「……仰る事の意味が理解出来ません」
AINAは簡単にではあるが、こうしてコミュニケーションを取る事が出来る。
それでも、当然ながら|インプットされている与えられた言葉の範囲でしか答える事が出来ないが。
AINAをもっと『カラミティグランド』の中に取り込む事は出来ないだろうか……。
「理解する必要はない。アイナ、『カラミティグランド』を起動してくれ」
「畏まりました。『カラミティグランド』、起動します」
まずは塔ダンジョンへと向かわなければな。
既に下層に辿り着いているという事は、恐らく最下層の群れはほぼ残っていないと思っていいだろう。
「強引に突破でもしない限りは、な」
ログインした俺はそんなあり得ない事を口にしながらエヴリデイへとメッセージを飛ばし、塔ダンジョンへと向かった。
 




