突入と死と
「メッセージ、ありがとうございました。とても貴重な情報でしたね」
『カラミティグランド』情報屋(予定)のたかSinは、俺の元に来るなりそんな事を口にした。
「そりゃ良かった。何か聞きたい事があれば、その都度メッセージを寄越してくれていいからな」
「わかりました」
既にたかSinへは、現状把握しているほぼ全ての結晶士に関する情報をメッセージで言い伝えてある。
まぁただ、情報屋としてここで商売をしてくには、まだまだ情報は少な過ぎるな。
他のユニーク職の情報でも伝えてやるか。
「銀水晶! 伝えておきたい事があるのだ!」
たかSinの後ろから、ひょこっと活発そうな口調の女プレイヤーが出てきた。
「おぅ。何だ? 6辛」
「私の"アレ"が、恐らく今回役に立つぞ!」
「あぁ、"アレ"な。期待してるぜ!」
"アレ"とは、6辛のメインウェポンである拳闘と短刃剣の可変型武器、仕込刃・ゴーレムハンドの事だろう。
バルサザーク戦では、そのスキルの効果で相性悪く一瞬だけの使用で終わってしまったが、そのたった数秒でバルサザークのHPを多く削り取った強武器だ。
今回の攻略では、その火力を活かした活躍に期待したい所だぜ。
「俺達も居るぜ、銀水晶!」
背後から、聞き覚えのある野太い声が。
「ムザサ!」
振り返って見ると、ムザサパーティもやって来ていた。
今回は、名前だけは聞いていたが月影の使徒・ジュヴィス戦では居なかったムザサパーティのメンバーである女プレイヤー、ロイスも参戦するようだ。
「『硯音』のマスターが、ウチのマスターに攻略を持ち掛けて来たって、『ムヒョルト』に所属しているフレンドから話を聞いたんだ。
銀水晶が少数パーティで先行するだのなんだのも言っててな、こりゃ行くしかねぇと思ってな!」
「心強ぇぜお前ら。んで、そっちは?」
俺の視線はムザサパーティから少しの間隔を空け、横に控えていた四人組へと向く。
「初めまして。あなたと共に攻略に挑めて光栄です、銀水晶。
僕はトレイア。『ムヒョルト』の一員です」
こう口にする男の右腕には、変わった見てくれの武装が装備されていた。
手首に赤と白の腕輪が嵌められていて、腕輪からは腕の側面から指の先に沿って赤色のプレートが走り、手の平にはプレートから逆手握りの柄が伸びている。
これだけ見れば、トレイアの持つ武器は赤色のトンファーなのだが、それだけでは終わっていない。
更に目を引くのは、赤いプレートの中心部から伸びる、一振りの大きなブレード。
これだけ見ると、かなり戦い難そうだが……。
「トレイア……。あ、お前らが『ムヒョルト』でファーストキルのレコードを出した連中か!」
「よくご存知ですね。その通りです。僕らのパーティが、『ムヒョルト』で唯一エリアボスのファーストキルに成功する事が出来たんです」
ギルド『ムヒョルト』は、一つだけエリアボスのファーストキルに成功している。
そのパーティの先頭に、トレイアという名前があったのは覚えている。
そのパーティが参戦してくれるってんだから、心もとない今の戦力としては、かなり助かる存在のパーティだ。
「一つ聞いてもいいか? その武器、戦い難くないか?」
「このままではそうですね。ただ、刃はこうなるんですよ」
トレイアははにかむように笑いながら手の平の柄を握り、俺達に武器の真の姿を見せてくれた。
肘の先に伸びていたブレードの切っ先は、ガキンッというイカした音を立てながら反転し、今は拳の先に伸びている。
なんだその武器、反則級にかっちょいいぞ。
「かっこいい」
「ずるい」
俺の横でトレイアの武器を見ていたフィルとセイが、それぞれ驚愕の表情を見せながらこう口にする。
……ずるいってなんだよセイ。
「この武器はクリムゾン・ブレイバーと言います。
かのアトラフィ戦で運良く手に入った、赤レア武器です」
あ、これがクリムゾン・ブレイバーなのか!
やっぱ赤レアなだけあって、どエラいギミックと、レアリティの高さを見せ放つようなデザインのかっこよさがあるな。
「なるほどな、イカすぜその武器」
そこから簡単にお互いのパーティの自己紹介を済ませ、アホ程デカい扉にアクセスし、俺達はいよいよ塔ダンジョンへと突入する。
「ここが……。塔ダンジョン」
塔ダンジョンの中へと入った俺達の目に入ったのは、フロアから上へと続く階段まで、真っ白に塗り清められた異質な空間。
そこに群がる、黒い甲冑を身に纏う敵。
俺達の今居るエントランス。
この水色の区画だけが安全エリアで、この空間から先へと進むと、一斉に敵の敵視が向く仕組みだろう。
「そこら中に居る雑魚はコボルト・ナイト。耐久力はそこまでだが、攻撃力は異常に高い。囲まれたら終わりだと思った方がいい」
なるほど。ルーアがこう説明してくれたって事は、ムザサパーティは一度塔ダンジョンに挑んでるって事か。
そして、6辛の先程の口振りからすると、キヨムラ達も挑んでいる事だろう。
「この上の情報を知っている奴は居るか?」
「……」
誰からも声は上がらなかった。
つまり、二パーティともここで全滅を繰り返し、制限時間が尽きてしまったと。
「なら、時間がもったいない。行こう。椿っ!」
「わかったわ!」
椿の支援を受けながら、俺はチュートリアルリッパーと宝雷剣・バルサを抜き、安全エリアを抜けた。
最初の制限時間は四十分。既にゼロに向かって時は減り刻んでいる。
まずはなんとしても上の層へと上がり、制限時間を伸ばさなければ。
と、言いたい所だが……。
「知覚範囲が広い、フロアの敵は全部動き出しやがった」
安全エリアを抜けた瞬間、コボルト・ナイトは一斉に動き出した。
小さいながらも、ハルバードを掲げた黒の甲冑がこっちに向かって来る様は、なかなか壮観と言う他無い。
「銀水晶、気を付けろよっ!」
俺が一番戦闘に居る為、この声が誰のものかはわからなかったが、そろそろコボルト・ナイトとの距離もかなり近い。
振り返ってそれを確かめる余裕など無かった。
「道を、空けろぉぉおっ!」
振り下ろされるハルバードを避け、俺は一体目のコボルト・ナイトと、更に近くに居た二体の計三体のコボルト・ナイトを処理した。
「何だよ。そこまで強くはねぇじゃねぇか。数で時間が経っちまう感じか」
「ソウキ、うし――」
[蘇生受付時間:残り10秒]
ーーフィルの声が聞こえたと思えば、赤く染まった俺の視界に、こんな文字だけが浮かんでいた。
 




