コットの手記―2
以前コットの精神力についての感想を頂いたのですが、それより前から、コットをどう扱っていこうかという悩みがありました。
7章が終わった後、コットは少しの間登場しなくなります。
その間に裏でちまちまと動いている訳なのですが、その辺りの処理については「クリスタル・ブレイド」が完結した後に投稿する話でわかるかと思います。笑
追加の情報は、また前書きや後書きの方でお知らせしますので宜しくお願い致します。
感想を下さったloaさん、ありがとうごさいました!
あれはそう。
今でも、よく覚えています。
今でも、よく思い出します。
わたしにとっては、思い出と言い表すには少しばかり軽すぎた、8日間の始まりの出来事。
年月が経った今、当時書く事の出来なかったその空白のページを記そうと思います。
「コット」
事の始まりはわたし、ソウキさん、椿さん、セイさんの4人と、フィルちゃん、レベッカちゃん、ディンくん、ミリーちゃん達4人のパーティで塔ダンジョンへと挑む少し前。
皆で戦闘訓練をしていた中での出来事でした。
ソウキさんがセイさんを呼び、レベッカちゃんと次の訓練へと移ろうとする中、不意にわたしと並んで訓練を見ていたフィルちゃんから声を掛けられました。
「は、はい?」
「コットは魔法職? 強い魔法が撃てるの?」
チュートリアルの時では、わたしは雷の魔法を撃つ事が出来ましたが、今ではHPの回復と、状態以上の解除しか出来ません。
「い、いえ……。わたしは回復しか……」
「そう。一つ言っておく」
わたしを見るフィルちゃんの瞳は、凛としていて、それでいて力強かった。
そんな瞳が、わたしを捉えるその視線が、とても冷たく感じ、そして痛かった事は覚えています。
「なんでしょうか?」
「回復なら、私にも出来る」
「え?」
「私はアタッカーになりたいから、回復をする事は無いだろうけどね。
コット、これから回復職のプレイヤーが増えたらどうする?」
「ど、どうすると言うと?」
「ソウキは強い。誰から見ても」
「そうですね」
ソウキさんは、本当に強いです。
攻撃ひとつ、回避ひとつ、判断ひとつ。
どれを取っても、この辺り一帯に居るプレイヤーさんの誰よりも、ソウキさんの戦いは一段も、二段も上の位置にある。
そんなイメージ。
「ソウキが活躍すればする程、コットは今居る所に置いてきぼりにされる。そうは思わない?」
「それは……。思います」
フィルちゃんに言われた事は、当時のわたしが『カラミティグランド』にログインしている間、ソウキさんと共に冒険をする中で、常に感じていた事です。
ソウキさんは、一人でどこまででも行く事が出来る。
どこまでも一人というのは言い過ぎかもしれませんが、ソウキさんはその場で組めるならば、どれ程経験の浅いプレイヤーだろうと相手を選ばず誰とでも組み、どれだけ困難な攻略だろうと必ず糸口を掴み、それを突破してしまう。
ソウキさんはよく口にしていました。
「これは俺だけの力で掴み取った勝利じゃねぇ。
お前たちの力と、結晶士の力あってこその勝利だ」
と。
そんな事を軽々と、でも本気で口にしてしまうからこそ、ソウキさんは格好いいんだと思います。
脱線しちゃいましたね。笑
とにかく当時のわたしの頭の中で、ソウキさんの足を引っ張っているのでは、という考えがあったのは間違いありません。
「私達の代わりは、ここにはいくらでも居る」
「そんな……」
フィルちゃんの代わりなんて居ないのに。
とわたしが考えている内に、フィルちゃんからフレンド申請が送られました。
「コットに欠けているもの、私が見せてあげる」
直後、フィルちゃんが送ってくれたひとつのメッセージ。
これを読み、塔ダンジョンの攻略が無事成功した瞬間からが、わたしの後ろ向きだった精神が変わり始めるきっかけとなり、わたしがわたし自身を、ちょっとだけ好きになる事ができ、『カラミティグランド』の舞台から身を引くこととなる、8日間の始まりだったのでした。
 




