戦闘訓練
「まずはディン、ミリー。お前達二人からにしよう」
無事に拓けた場所を見つけ、モンスターを処理した俺達は、早速戦闘訓練とやらを始める事とした。
「お願いします」
「剣と盾ってのは、その組み合わせだけでもシンプルに強い。
だが逆に、戦っている最中に考えなければいけない事も実は多いんだ。まずは剣を抜け」
俺の言葉にディンとミリーの二人は、剣を抜いて構えた。
俺は宝雷剣・バルサを抜き、ディンに近寄る。
ディンと俺との距離は、一歩踏み込めば宝雷剣・バルサの刃が、ディンの体へと届く程度の距離だ。
「例えば、こう斬り掛かられた時、お前ならどうする?」
俺は宝雷剣・バルサを握った右腕を振り上げながら、ディンへとこう尋ねた。
角度的に言えば、俺の攻撃は右上段からの袈裟斬りとなるな。
「盾で防ぐ……?」
「まぁ、大抵はそうなるだろうな。だけど、俺の次の攻撃がこうだとしたら、どうだ?」
宝雷剣・バルサを逆手に持ち変えながら、俺は転身しながら次の動作に移った。
宝雷剣・バルサの刀身は、ディンの首元を捉えている。
「剣を使います」
「使えるか?」
「……無理、です」
ディンの振り回そうとした剣は、俺がチュートリアルリッパーでガッチリと抑えている。
「盾は身を守る為の物だ。だから盾で攻撃を防ぐ事は、悪い事じゃない。寧ろ正解だ。
だが、相手より少し有利に動く為には、盾を防御する為だけの物として考えるんじゃなくて、相手に攻撃させない為の、もう一つの武器として考えていると賢いな」
「もう一つの武器、ですか?」
「そうだ。腕の力を使って、盾で叩いても良いし、殴りつけても良いし。
とにかく、攻撃の種類を沢山持つってのは、それだけ戦いを有利に運びやすいって事だ。わかったか?」
「はい、意識してみます」
戦闘訓練って言ったって、今日明日から劇的に戦闘が変わるような簡単な話ではないが、知っている、意識するってだけでも全く違う。
最初の内はこんなもんでいいだろう。
「よし、じゃあ次はミリーだ。ミリーはディンとは対照的に、自分の持っている武器よりも長い武器を持った敵と戦う訓練でもしてみよう」
俺は武器を納め、ショートカットから槍を錬成した。
「うん……」
「一対一で戦う時、相手よりも短い長さの武器を持っているっていうのは、一見不利に見えるかもしれないが、実は多くのチャンスを作りやすい。俺の言ってる事、わかるか?」
中高生にもわかるようには説明しているつもりだが、相手が本当に理解出来てるかまでは、その都度確認しながらじゃないとな。
「わからない……」
「そうか。まずはゆっくりとした動きでミリーに攻撃をするから、俺の槍を弾いてみるといい」
「わかった」
盾で弾いてくれるとありがたいんだけどな……。
まぁミリーがそうやってくれるように、ある程度の調整はするのだが。
「お、やるなミリー。ディン、ここよく見ておけよ?」
「はいっ」
ミリーは俺の錬成槍を盾で防ぎ、柄から穂先までがミリーの盾よりも外側へと逸らされてしまった。
「この状態にしてしまえば、相手に次の動きをどうするかってのを考えさせる時間が、ちょこっとだけ出来る。
ここでミリーは、俺よりも少しだけ有利に戦闘を進めて行く事が出来るって訳だ」
「質問」
「なんだ? ミリー」
「まだ有利とは言えないと思う……」
「そうだな。この距離間ではそうだ。
ミリー、ちょっとこのまま近付いて来てくれ」
ミリーは俺に言われた通りに接近して来た。
お互いの位置関係としては、完全に剣が有利だと言える程には、俺とミリーとの距離はかなり近い。
「盾で攻撃を弾いた瞬間に、一気に距離を詰める。
こうする事で、剣の間合いを作る事が出来るんだ。
この間合いってのは結構大事で、相手の得意とする間合いをキープされると、最悪自分は何もする事が出来ない。とかあり得るからな」
「これは、難しい?」
「簡単な事じゃあないな。相手も当然動く。判断力と、思い切りの良さが大事になってくる時もあるだろう。
……さて、ひとまずはこんな所だな。次は俺と――」
「――私も良い? 戦闘訓練」
ディンとミリーへ、実戦に入ろうと言おうとした瞬間、後方から椿の声が飛んで来る。
振り返って見てみれば、ミリーよりも更に俺に近い位置に、椿は腕を組んで立っていた。
「椿も?」
「嫌なのかしら」
「嫌って事はねぇけど……」
「私だって、いつかはプレイヤーと戦うかもしれないでしょ?」
「まぁ、確かに……」
「それに……こう、でいいのかな? それに、あんたにとっても損は無いと思うけど?」
メニューを操作し終えた椿の左腰に、長さ的に短刃剣のような武器が現れた。
そのまま椿は両手に武器を抜き、右手にはブルーウルフサーベル、左手には月光刃・ミアレイスが握られている。
椿の手にする武器は、左右の長さこそ全く異なるものではあるものの、対二刀流の訓練ってのはなかなかに貴重だ。
「なるほど。確かに損は無いな」
寧ろ、得られるものは多いかもしれない。
「よし。それじゃあ今からは、この椿お姉さんと、実際の戦闘のような動きで訓練をやってみる。
後で皆にも一人ずつやってくから、しっかり見ておくようにな」
俺は四人へと声を掛け、椿の方を向く。
「歌いながら戦うか?」
こんな事を椿へと尋ねてみた。
椿の持つスキルには、歌っている最中に攻撃を行うと、その攻撃の威力が上がるという様なものもある。
これを上手く使えるようになれば、敵陣へと斬り込みながら、パーティへの支援も出来るようになる。是非とも体得して欲しいものだ。
「余裕があれば」
「それも含めて訓練としよう。行くぜ?」
チュートリアルリッパー、宝雷剣・バルサをそれぞれ逆手に握り、構える。
「いつでもいいわ」
椿と俺の、半対人戦のような戦闘訓練が始まった。




