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みっちゃん

「クリスタル・ブレイド」では貴重はリアル回です。笑


予告しておきます。″みっちゃん″、もう少し先の章で『カラミティグランド』ご入場します。笑

 

 翌日。


「さて、んじゃ行きますか」


 昼前に目の覚めた俺は、簡単に身支度を済ませてだいだいの家へと向かう事にした。


 俺の住む部屋からだいだいの家までは少し距離があり、最低でも車で二十分ちょっとは掛かる。


「あら? どちらさ……えっ? 惣……ちゃん?」


 だいだいの家に着き、渡された鍵を使って中に入った俺にこんな声が掛けられた。

 声の主もまた、俺はよく覚えている。だいだいの母親である。


「はい。お久し振りですね、お母様。

 すみません。だいだいから家の鍵を渡されていて、勝手にですがお邪魔しました」


「……大河から聞いているわ。本当に久し振りね……! 元気にしてた?」


「はい。ぼちぼちです」


「良かった。お昼、食べた?」


「いえ、実はまだなんです」


「用意するから、食べなさいな」


「わかりました。頂きます」


 ……時期が時期だったならば、だいだいの母親は俺にとって第二の母となったかもしれない存在だった。


 だいだいの母親に案内され、久々に入る大治家のリビング。

 ……ちょっとお高めの部屋を二つぶち込んだようなこの広さは、いつ見ても壮観の一言に尽きる。


 細々とした物の配置こそ変わってはいたものの、八年前(あの頃)と変わらぬ、どこか暖かみのある、家庭的な一室。


 俺は食卓のテーブルの席に着き、昼食が出されるまでの時間を適当に潰す事とした。


「はい、お待たせ」


 大方コイツを作ってくるだろうなとは思っていたが、やはり出された器に盛られていたのは炒飯だった。


 だいだいの母親の作る炒飯は、ウィンナーが大振りに切られているのが特徴的だ。


「……懐かしい、ですね」


「そうでしょう? 作ったのは本当に久し振りだから、加減を間違えて無いと良いけど……」


 炒飯を作らない家庭とはこれ如何に、と思う事なかれ。

 この家庭は超が付く程の大金持ちであるぞ。


「だいだいは炒飯、食べないんですか?」


「あの子は今、仕事が大忙しなのよ。ここ二年くらいは、家で食べる事はほとんど無いの」


 ……外食、しちまったな。だいだいと。


「そうですか。頂きます、お母様」


 エプロンを外して、俺の向かいの席に座っただいだいの母親は、炒飯を食う俺の様を眺めている。恥ずかしいんすけど。


「……昔みたいに、みっちゃんって呼んでも良いのよ?」


 二口目の炒飯を吹き出しそうになった。


「そ、それは……」


「あら、イヤかしら?」


「い、嫌では無いですが……」


 まぁ、本人がそう呼んでも良いと言うなら、みっちゃんと呼ぶか。恥ずかしいけど。


 実の所、この人の下の名前を俺は知らない。


 ただ、近所のお母さん方にみっちゃんと呼ばれていたのをたまたま耳にして、それから俺とディランは揃って、だいだいの母親の事をみっちゃんと呼ぶようになったのだ。


 案外、自身の黒歴史や恥ずかしい記憶っていうのは、自分の母親よりも、親しい友人の母親の方が持っていたりするものだ。


「ふふふ。人って変わるものなのね。なんだか、惣ちゃんじゃないみたい。とっても不思議」


 こんな事を言いながら、みっちゃんは満面の笑みを見せている。

 口にしている事も、嫌味を含ませたような言い方では無かった。


 懐かしさに浸りながら口にした、久遠の邂逅(かいこう)故の、とても嬉しそうな口調(もの)だ。


「……本当に、色々ありました。

 それに俺も、今では一応の大人です。変わりもしますよ」


「優ちゃんの事、大河から聞いたわ。本当に残念だったわね」


「……」


 優とは、ディランのもう一つの名である。

 ディランの方が響きがカッコいいからと、ディランは優と呼ばれる事をあまり好まない。


 そんなディランが、自身を優と呼ぶ事を許しているのは、みっちゃんくらいなものだ。


「優ちゃんの方がかわいいじゃない」と、頑なにディランと呼ばないこの母親に、ディランの方から折れたのだ。


「大河も、少し前まではずっとそんな顔をしていたわ。二ヶ月くらい前だったかしら」


「そうなんですか?」


「うん。実はね……」


 俺は、みっちゃんからだいだいの近況に至るまでの、大まかな流れを聞かせて貰った。


 時期的に言えば、ちょうど俺が『in world』の選手を引退して数ヶ月程経った頃から、だいだいは何かに取り憑かれたかのように、勉学と同時進行で親父さんの仕事を積極的に手伝うようになったらしい。


 今では親父さんの元々抱えていた仕事の約四割程をだいだいが担うようになり、それとは別で、独自のプロジェクトを進めているとか何とか。


 ……アイツ実はすっげぇ奴になってたんだな。


 そんな具合ではあったが、みっちゃんは二ヶ月前に奇妙な事があったとも口にした。


 だいだいは家へと帰って来るや、高笑いを上げながら「見つけた、見つけた」と声を発して、自室へと直行していったそうだ。


「……謎ですね」


 俺は率直な感想をみっちゃんへと述べた。


「そうなの。その辺りについて、大河は何も教えてくれないし……」


「まぁ、言いたくない事や話したくない事の一つや二つ、だいだいにもあるでしょう。

 ……みっちゃん、ごちそうさまでした。今からだいだいの部屋に向かいます」


 食べ終えた炒飯の器を、少しだけみっちゃんの方へと差し出し、俺は席を立った。


「そんな照れたように呼ばなくてもいいのに。惣ちゃんったら変なの」


 いや、そうは言うけどやっぱり普通に恥ずかしいよ。慣れてくしか無いけどさ。


 リビングを後にした俺は、だいだいの部屋へと向かって行った。

 昨日言っていた通り、扉を開くと部屋の中にだいだいの姿は無かった。


「行くか」


 そのまま部屋へと入り、UPCを目指す。


「よ、アイナ。今日も頼むわ」


「おはようございます。本日も宜しくお願い致します」


 AINAから返される返答の声そのものは無機質なものだが、それが却ってこの静かな部屋の雰囲気とも相まって、とても心地が良い。


 UPCへと腰掛け、端末を開いて時計を見た。

 時刻はもうすぐ昼の一時。

 今日は仕事に出るから、向こうに居られるのはせいぜい六時間とちょっとって所か。


 特に何も無ければ、今日も錬成石(オークラント)を集めて終わりになるかな。

 んま、それだけで終わらせるなら、六時間は充分過ぎる時間だぜ。


「『カラミティグランド』、起動」


「畏まりました。『カラミティグランド』、起動します」


 とりあえず、椿にメッセージを送るとこからだな。


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