表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/162

いつでも来い

 

 フィルの横には、黒髪の盾持ち剣士職の男プレイヤーが立っていた。

 パッと見では、男プレイヤーの方は『カラミティグランド』始めたてのように感じるな。


 フィルも防具らしきものは身に付けて居ないが、白いフリルシャツに薄手の黒いワンピースという、特徴的な格好をしている。


 ……黒の大鎌が映えるというか、良く似合って見えるな。


「……フィル。この男は?」


 男プレイヤーは抜いた剣を俺に差し向けながら、こうフィルへと尋ねた。

 明らかに俺を敵視してるな。コイツ。


「フレンド……になる人」


(……え、そういう感じなの?)


 そう言ってフィルはメニューを操作し出すと、俺へとフレンド申請を飛ばして来た。

 本当に俺とフレンドになる気らしいな。ありがたい事ではあるが。


「よろしく」


「あぁ、うん。宜しくな」


 ……待てよ? イマイチ状況が掴めねぇ。


「じゃあ、また」


 フィルはそう言い残すと、そそくさとログアウトして行ってしまった。


「……フィルと喧嘩をしていた訳では無いんだな?」


 残された男プレイヤーが、同じくフィルに残された俺へと、静かな声でこう聞いて来た。


「あぁ。力を見たいだとかなんとかで、私と戦ってと、突然フィルに言われてな。

 俺の名前はソウキだ。そっちは?」


「リクだ。それじゃあな」


 それだけ言うと、リクも剣を鞘へと納めてログアウトして行ってしまった。何なんだ二人して。


「……よくわかんねぇけど、とりあえずフィルとはフレンドになれたし、まぁいっか」


 気を取り直して、俺は狩りを再開した。

 少しモンスターを倒しては少し休んでを繰り返している内に、気付けば朝の五時を回っていた。


「そろそろ帰って寝るか」


 再度生成(ポップ)された雑魚モンスターを狩りながら、安全エリアを目指した。


「さて。明日はどーすっかな……。んま、起きてから決めるか」


 俺、なかなかハマってるよな。このゲームに。

 そんな事を考えながら、ログアウトした。


「早いな。テュリオ――だいだい」


 ……駄目だな。向こうでの呼び癖が付いちまってる。


 UPCから身体を起こすと、そこには既に身支度を済ませただいだいの姿があった。

 といっても、昨日の最後に見た格好と変わらぬ、スーツ姿だったが。


「ふっ。どうだ? 『カラミティグランド』は?」


「うん。面白ぇ」


 ディランが居ればもっと面白いだろうな。と言おうと思ったが、やめておいた。


「そう言ってくれると、誘った甲斐があったというものだ」


「とりあえず今から帰って寝るけど、昼間はここに居るか?」


「昼間は居ないな。あぁそうだ、これを渡しておく」


 ソファから立ち上がり、俺のすぐ傍までやって来ただいだいは、上着のポケットから一本の鍵を取り出し、俺へと手渡した。


「……これは?」


「ここの鍵だ。いつでも来い。この部屋への道はわかるな?」


 この家は、俺とディランにとっては基地そのものだった。

 だいだいの部屋までの道のり位なら、よく覚えている。


「それはわかるけど……。いいのか?」


「問題無い。それに……」


「それに?」


「……いや、なんでもない。

 とにかく、来たい時はいつでも来てくれていい。その際の連絡も要らないからな。

 何か揃えておいて欲しい物があれば、書き置きでもしておいてくれれば、調達はしておく」


「なら、甘い飲み物を常備しておいてくれ。変わり種じゃなきゃ何でもいいぜ」


「わかった」


「そんじゃ、もう行くよ」


「あぁ。外までは送っていこう」


 ソファの付近に設置された机の上に置かれた、ノートパソコンをぱたりと閉じると、だいだいは家の外まで先導してくれた。


「またな、だいだい」


「あぁ。またな、柏木」


 だいだいはあぁ言ってるけど、それだと家族はどうなんだろうか。

 当人にとっては気の置ける友人でも、だいだいの父親や母親からすれば、俺は他人以外の何者でも無い。


 そんな奴が自分の家の鍵を持っていて、自由に出入り出来る。

 それって、結構ストレスにならないかな。


「家族に会う事があれば、報告くらいはしておくか」


 それくらいはやっておかないと、ひどく警戒されちまうだろうしな。


「うし、付いたな」


 色々と思考を巡らしてはみたものの、何だかんだ車の中で、キーホルダーにだいだい宅の鍵を括っている自分に苦笑しながら、俺は車を走らせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=447283488&s ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ