ディンとミリー
後書きにちょろちょろと。
「明日バイトあるから。またね、ワギ」
無事にバリトンへと辿り着くと、セイは俺にログアウトする事を告げた。
……が、一つ気になる事も口にした。
「……何のバイトしてるんだ?」
「動画配信者のプレイ代行」
またそんなリアルな……。
「儲かるモンなのか?」
「まぁまぁ。それじゃあ」
「お、おぅ。またな、セイ」
セイは左手を小さく振って口元をニッとつり上げて見せると、そのままの姿勢で右手でメニューを操作してログアウトしていった。器用な奴だな。
「しっかし、プレイ代行ね。セイならではの働き方だぜ」
セイは確か、『in world』歴自体は浅かった筈だ。
多分、俺やディランと比べると半分以下かもしれないな。
そんなセイが『in world』に触れるまで何をやっていたかと言うと、FPSだ。
FPSとは、ファーストパーソンシューティングの略で、一人称視点射撃ゲームとも言う。
自分の視界と同じような視点でキャラクターを操作し、視界に入る敵をバシバシと持っている銃で倒す。
そんな感じの物騒なゲームが殆どだ。勿論そうじゃないゲームもちゃんとあるけど。
セイ曰く、「FPSは何百時間とやっても飽きない、貴重なゲームジャンル」だとの事だ。
昔にセイ本人から聞いた話だが、セイは元々、非公認の自称FPSプロゲーマーだったらしい。
だから多分、明日のプレイ代行もそれ系統なんだろうと俺は予想している。
「あの……」
不意に、二人のプレイヤーが、メニューを眺めながら噴水広場へと目指していた俺へと声を掛けてきた。
「ん? 何か用か?」
面識は無い、男女の剣士職プレイヤーだった。
男は紺色の髪、女は赤色の髪。
声は一瞬聞いただけだが、まだ若そうだ。十代半ばといった所だろう。
武器はブロードソードだな。揃ってブリーズコートを着ている辺り、二人は四大ギルドのどこかに所属しているプレイヤーかもしれない。
「用って程の用は無いんですけど……」
「何だ? こっちは今暇してんだ。パーティのお誘いなら喜んで受けるぜ?」
「……いえ。ただその、ちょっと声を掛けてみようと思っただで……」
「声を掛けて、どうしたいんだ?」
「お、お近づきになれたらと……」
「……そっちの赤いの。君もか?」
俺は男の方では無く、女の方へと顔を向けてこう尋ねた。別に下心とかは無いよ?
「……」
女は無言でコクコクと頷いた。
……人見知り、かね?
「そっか。……ディンとミリー、か。宜しくな」
パパッとメニューを操作し、近くのプレイヤーの一番目と二番目に表示された、″ディン″と″ミリー″という名前のプレイヤーへとフレンド申請を飛ばしてやった。
この操作も、かなり手慣れたものだ。
「フレンドになって頂けるんですか?」
え、何で驚いてるんだ。逆に俺が驚くよ。
「お近づきって、そういう意味では無かった? 因みにお前がディンで合ってるか?」
「あ、自己紹介が遅れました。俺はディン。こっちがミリー。
ミリーは現実での出来事から、人見知りになってしまったんです。喋れないのは許して欲しい下さい」
「わかった。で、申請は飛ばしてやったけど……。フレンドになるのか? ならないのか?」
「フレンドになります。と言うよりは、なって下さいの方が正しいか。
本当に、あのソウキさんなんですね……」
ディンとミリーは、俺の飛ばしたフレンド申請を承認した。
「……その言い方は恥ずかしいな。で、本当にただ俺に声を掛けただけなのか?」
「……実は、ソウキさんに会って欲しい人が居るんです。俺達のフレンドなんですけど……」
「そうなのか? いいぜ。会いに行こう」
「その人も俺達もログアウトするので、また後日ご紹介します」
「そうか。紹介出来る時にでもメッセージ飛ばしてくれよ。
そん時ボスとでも戦ってなけりゃ、すぐに向かってやるからさ」
「ありがとうございます!ではまた」
「おう。またな!」
ディンとミリーは、ほぼ同時にログアウトしていった。
「さてと、どーすっかな……。ん? お知らせが更新される」
メニューを適当にいじっていると、一番右に置かれたお知らせのアイコンに、Newのマーカーが打たれていた。
お知らせを開き、更新された情報を読み上げる。
「イベント……? ほぅ。アップデートの予告もされてるな」
『イベント第一弾【二人の歌姫】開催予告!』
『アップデート予告ver.1.1.0』
お知らせの中には、この二つの項目があった。
アップデートの日付は、七月の中頃となっている。
詳細は後日とも書いてあるし、何が追加されたり、変わったりするかってのがわかるのは、もう少し先の話になるな。
……気になるのは、イベントの方だ。イベントの開催は今週の土曜日。もうすぐだ。
お知らせの中文には、[当初予定していたイベントの開催は、今週金曜から今週土曜への変更となりました。]と記されている辺り、俺が見ていなかっただけで、一度どこかのタイミングで告知はされていた様だな。
「歌姫っていうと、あの歌姫が関係してる……?」
あの歌姫とは当然、椿ちゃんの事である。
……明日にでも聞いてみようかな。
「とりあえず、朝までアトラリア砂道で錬成石でも集めるか」
宝雷剣・バルサもある事だし、ここはしっかりと役に立って貰わないとな!
ひとまず俺は、ショップを一通り回ってからアトラリア砂道へと向かう事にした。
引きもクソも無い文末ですが、これにて6章は終了です!
なかなかキリよく終われて良かった……!
ここで7章の予告をざっとしておきます。
7章ではかなり色々な事を起こすので、結構なボリュームになると予想しています。
・7人目のユニーク職プレイヤー登場
・あるキャラの再登場
・過去最高規模の(エクストリームボス位しか大規模攻略やってないけど)攻略戦
・8章以降にやろうと思っていた事(これは該当話で告知します)
・あのキャラが敵に!?
これだけ仕込む予定で組んでいるので、章単位で見ても過去最高のボリュームになるんじゃないかと思ってます。
お付き合い下さると嬉しいです!
ブックマークや感想を下さると、更なる励みになります!
それでは、今後とも『クリスタル・ブレイド』を宜しくお願い致します!
 




