エーテルソードと無の魔法属性
「……お、セイ。生きてたか」
少しそのまま待っていると、次第に真っ白だった視界は元のフィールドのものへと戻っていった。
「うん、なんとか。凄いダメージだったね」
ユーティスの最後に放った謎の大技は、セイのHPを三割、俺のHPを残り一割の所まで削ってみせた。
セイと俺のこの差は多分、帯電状態であったかそうでなかったかの違いだろう。
「俺は死ぬ寸前だな」
HPは一割というか、一割を切っている。
本当にギリギリのラインでの戦いだったが、とりあえず勝てて良かった。
「ボスに勝てて嬉しい。戦利品、見よう」
「だな。そうすっか」
レコード通知のウィンドウを閉じ、リザルト画面を眺める。
「どうだセイ、なんか良さげなものはドロップしたか?」
「……エーテルソードってのがある。なんか強そう」
「レアリティは?」
「紫」
お、ユーティスからの固有ドロップくさいな。
「紫か! ラッキーだな。他には何かあるか?」
「スキル書と、素材アイテムっぽいのしかない」
「スキル書は使えるな! 素材アイテムも一応残しておけよ」
「うん。ワギはどうだった?」
「俺はー……中級のスキル書が三つと、素材アイテムと、青レアのマントだな」
「マント?」
機械導士のマントというアイテムがドロップしている。
あの真っ黄色なマントだったら、流石に高性能でもちょっと装備するのに抵抗があるな。
【魔導衣の護り】
帯電状態にならなくなる。
雷撃属性の被ダメージを5%軽減する。
セイの装備している、黒雷虎のコートに比べると、雷撃属性の耐性性能は若干劣るが、充分強い。
「とりあえず、装備してみるか」
俺は機械導士のマントを装備してみた。
さっきのユーティスが身に付けていたもの程、ド黄色では無かった。
くすんだ黄色……肌色と言っても良いかもしれない。
身に付けてみると、案外と色味はそう悪いものでも無かった。だが……。
「……その格好でマントを付けるのは、ちょっと似合わないかもね」
「……俺もそう思う。まぁ、使い時が来た時に装備する事にするわ」
「うん」
メニューを操作し、俺は機械導士のマントを装備から外した。
「エーテルソードって武器、装備してみてくれよ」
「わかった」
装備を変更する為、セイはメニューを操作し出す。
「あれ。この剣、刀身が無い」
装備されたエーテルソードを鞘から抜いたセイは、こんな事を口にした。
見てみると、エルドのガラハディンの様に、本当に刀身が無かった。
「ちょっと見してみ……。ん、ここにトリガーが付いてるな。コイツを引いてみたらどうだ?」
「引いてみる」
セイがエーテルソードの柄に取り付けられていたトリガーを引くと、隠されていた刀身が現れた。
「おぉ……。かっちょいいな」
翡翠色の半透明な大振りの刀身が、フィィンとかいう音を立てている。
なんだその武器、普通に欲しいんだけど。
「うん。気に入った!」
「武器の性能はどうだ?」
これで紫レアの武器を見るのは二本目だ。
宝雷剣・バルサの事もあるし、紫レアの性能がどれほどのものなのかを知っておきたい。
「それが、ちょっとこれ見て欲しいんだよね」
セイはエーテルソードを鞘に納めると、俺の横まで来て武器の情報を見せてくれた。
「攻撃力は35……。さっき装備してたのはブロードソードだよな。だいぶ味落ちして……ん?見て欲しいのはこのスキルか?」
「うん、どうなんだろうと思って」
【エーテルの刃】
攻撃に無の魔法属性が付与される。
こんな装備限定スキルが付与されていたが、これだけしか書かれていなかった。
「どうなんだろうな? 攻撃力の実数値よりも、高い火力が出せると思えば良いんじゃないか?」
「ワギのそれと比べて、どう?」
セイは宝雷剣・バルサを指差している。
「どうだろうな。使い手次第って所か。俺からすれば、宝雷剣・バルサはかなりありがたい武器だと感じるよ。
ただ、他の奴から見ればエーテルソードの方が需要は高いだろうな」
「ん、プレイングマニュアルが更新されたって」
「更新されたページを開いてみてくれ」
プレイングマニュアルが更新されると、その更新された項目にはNewのマークが付く。
因みに、未読のページにはオレンジ色のしおりが付けられているだけだから、この辺りの区別も付きやすい。
「無属性の魔法属性について、だってさ」
「……なるほどな。エーテルソード、強いかもしれねぇな」
セイの開いているプレイングマニュアルのページを読んでいくと、無属性の魔法属性のダメージ量は、物理三属性と魔法三属性の耐性度を掛け合わせて算出されると記載されていた。
細かい算出の仕方までは記されていなかったが、とりあえずは六つの属性の合計耐性値分の倍率が、そのまま武器の攻撃力に上乗せされる。という風に理解した。
相手の弱点属性が多ければ多いほど、一撃の火力が大きく上がる仕組みのようだ。強っ。
「強い武器。なら試し斬りは、明日の楽しみに取っておく」
そう言ってセイは、武器を元々装備していたブロードソードへと戻した。
「……よし、こんなとこだな。バリトンに戻るか。セイ」
「うん」
セイとドロップアイテムの確認をしている間に、俺のHPは六割強まで回復していた。
ここまで回復していれば、アイテムを使わなくても問題は無いな。
俺達は[転移の渦]にアクセスしてフィールドへエリアへと戻り、道中のモンスターを狩りながらバリトンへと向かって行った。
 




