眩い光の中で
後書きにちょろんと。
「くっ……! っとぉしぃっ!!」
ユーティスから放たれた、炎の球をトレンブル・クラッチを駆使してかわし、先ほどショートカットから錬成し、両手の先に生える半透明な結晶で形創られた拳闘による一撃をユーティスへと浴びせていく。
攻撃を当てた瞬間、ユーティスのHPが少しだけ削れた。
ほんの僅かに減ったか……。という具合ではあるが、一人が一撃で出せる火力としては申し分無いだろう。
「っし。打撃は弱点みてぇだな」
ユーティスが次の魔法攻撃を放とうと、俺へと指を向ける中、ユーティスの背後から真一文字に銀閃が走った。
この銀閃が誰によってもたらされたのかは言うまでもない。セイだ。
「ワギ、大丈夫?」
非常に悠長とした口調ではあるが、セイがユーティスへと連続攻撃を与えている姿を見れば、誰しもが己の耳を疑うであろう。
……目の前でものすごい動きをしてる奴が、今声を発したのか? と。
それ程の勢いで、セイはユーティスへと猛攻を浴びせている。
「問題ねぇ。敵視は俺が引き受ける! レッドゾーンまで一気に行くぞ、セイッ!」
「うんっ!」
再度ユーティスから放たれた炎の球を避け、ユーティスの胴体部へと叩き込めるだけ拳で殴りつけた。
ユーティスの攻撃で至近距離から繰り出されると避けられないのは、氷柱の魔法と前半戦でやって見せた、自身の周囲に炎の球を無数に生み出す魔法くらいなもの。
逆に一番隙が大きいのは、電撃の魔法だ。
範囲はかなり広いが、電撃はユーティスの真正面にしか放たれない。
ここまでの戦闘で三度しか撃って来ない所を見るに、攻撃としての優先度も高くは無さそうなのが残念ってとこか。
「勝負、仕掛けに行くぜぇっ!」
耐久力を失い、砕け散った拳闘をもう一度錬成し、ユーティスの鋭い魔法攻撃をかわしては殴る。
勿論トレンブル・クラッチを駆使し、視線はユーティスの指先に注視した、限界速度での超近距離戦闘だ。
……トレンブル・クラッチには、一つだけ大きな弱点と、二つの問題点がある。
弱点というのは単純な話。筋肉の疲労だ。
踵を常に浮かせた状態で激しく動くと、当然踵で支えていた分の負荷が足の筋肉に行き渡るだけでなく、筋肉の緊張状態が続く事になる。
実際に俺やディランも、トレンブル・クラッチの長時間使用で足をつった事がある。
ほんの僅かな時間ならばそう問題は無いが、トレンブル・クラッチの持つ利点故の、問題点も少なからずあった為、トレンブル・クラッチを『リオスト』で正式に使用する事は無かった。
その問題の一つは、トレンブル・クラッチと通常のステップとを切り替える時、足元で僅かにラグが生じる事だ。
問題のもう一つは、視界内の情報処理にも影響が出るという事だ。
『in world』では、射撃によって相手のHPを全損させてしまった場合、撃った側の反則となってしまう。
必然的に、試合の中盤以降は接近戦となる為、単純に動作と情報処理が噛み合わなくなる事が問題点だった。
ステップ一つ習得する為に、そこまで訓練の時間を割く事は出来ない。
そんな理由から、トレンブル・クラッチは俺とディランの中でのみ使用する事となった訳だ。
……が、肉体の負荷を感じる事の無い仮想現実の世界の中では、一対一でのトレンブル・クラッチはちょっとしたアドバンテージになる。
「どうしたユーティスッ! 動きが遅ぇなぁっ!」
セイよりも火力が高い為、ユーティスの敵視は安定して俺に向いている。
だがそれに負けじと、セイも怒涛の猛攻でユーティスのHPを削り、ユーティスのHPはレッドゾーンへと割り込んだ。
「ここで殺す……!」
まだ拳闘は耐久力を残してはいるが、万全の状態で残りHP一割のユーティスへと臨むべく、ショートカットから拳闘を上書き錬成する。
「らぁぁぁあっ!! さっさと、くたばれぇぇ!!」
HPがレッドゾーンになった瞬間から、ユーティスは両手を大きく広げ、天を仰ぎ出していた。
俺とセイごとを呑み込むように、周囲から電撃が走り、その電撃はユーティスへと収束していく。
「上等だ……! セイっ! 死にたくなかったら逃げろよ!」
「ワギを置いては行けない。倒すか、死ぬか」
……ゲームの中だからって、極端な結末を選ばせてくれるぜ。ったくよ。
ユーティスへと収束していく電撃が体を掠め、俺のHPを少しだけ削る。
このまま何か大技を放つまでに、俺達のHPを一定値まで削って、大技でズドン!ってパターンだろうな。
ここで削り切るか、ユーティスから大きく距離を取るかの二択しか残されていない。
そして、セイは俺が後者を選ぶ事を認めないし、許しもしないだろうな。
「……んま、それでこそセイ、か」
ユーティスのHPも、もう後数ミリしか残っていないという所で、錬成拳闘が砕け散った。
「まだ……終わってねぇんだよっ!!」
すかさずチュートリアルリッパーと宝雷剣・バルサを抜き取り、最後の足掻きとでも言わんばかりに、ユーティスの胴体をめちゃくちゃに斬りつけてやる。
電撃のダメージを受け続け、セイはまだ七割のHPを残しているが、俺は帯電状態となり、HPも五割の所まで削られていた。
「僕達の、勝ちだっ……!」
セイの声と共に、チャージを済ませたであろうユーティスの大技が発動し、視界はホワイトアウトしていった。
(……どうなっちまったんだ……?)
視界をどこに動かしても、白一色。
「とりあえず、待つか。死ぬかもしれねぇけど」
……十秒程経っただろうか。
少しずつ眩かった光量失っていく白の世界に、何か文字のようなものが浮かび上がって事に気付いた。
『クリアレコード更新のお知らせです。
ギミックボス:召幽幻魔の機械導士・ユーティスのファーストキル
以上のレコードを更新しました。おめでとうございます。』
未だ真っ白な視界の中、宙に浮いたテキストが、俺とセイがユーティスに勝利した事を通知していた。
これにてユーティス戦は終了となります……!
お付き合い下さりありがとうございました!
1~2話程ドロップアイテム確認と、ちょろちょろやって7章に移りますので、宜しくお願い致します!




