閃く悪巧み
……接撃の赤衣なんて、やたらと派手な通り名を付けられたもんだな。エルドの奴。
「アイツにも通り名があったんだな」
「えぇ。そう呼ばれるようになったのは、銀水晶よりも後の事ですけど」
「……俺ってそんな有名人なのか?」
「ギルドを取っ替え引っ替えに乗り替えては、レコードを拐って荒らし回る。
そんなとんでもないプレイヤーが居るという噂が出回っていますね。銀水晶という通り名で」
……荒らし回るって程の事はしてないつもりだったけど、他のプレイヤーから見たら、俺はそんな風に映るのか。
「……そうだったのか」
そういえばだったが、俺がフィールドへ出る時のパーティメンバーは、大抵が固定のメンバーだ。
銀水晶と呼ばれているなんて耳にしたのも、『ピクティス』のギルドマスター、アレイダの口からだったし。
冷静に考えれば今回エルドの通り名である、接撃の赤衣の件でもそうだが、固定の奴らでしかパーティを組まないが故に、「一般プレイヤーなら誰でもがするであろう、『カラミティグランド』での世間話」が全く耳に入って来ない。
それもその筈だ。その世間話の対象は俺達で、当の俺達は固定のメンバーでフィールドへと駆り出している訳だからな。
それに輪を掛けていたのは、コットの事を考えて合流場所を宿としていた事だな。
そんな色んな要素が組み合わさり、それを踏まえた上で振り返ってみれば、俺から見る『カラミティグランド』事情は、なかなかに閉鎖的なものとなっていた事がわかる。
「そうやってギルドを乗り替えているのも、何か意図があるんですか?
僕らでは、四大ギルドへと近付く事など恐れ多いですし、他のパーティとの会話でも″銀水晶の目的″という所で、いつも詰まってしまうのですよ。
ソウキさんさえ良ければ、僕達の噂話のネタを、ソウキさん本人から提供して頂けないでしょうか?
ソウキさんとフレンドになっている事が、諸々の証拠にもなりますし」
うーん。これは言ってもいいのだろうか。
レコードの対価として錬成石を寄越して貰ってるってのは、『ピクティス』のアレイダ、『硯音』の刀導禅、『Zephy;Lost』のクロム。
レコードに協力したそれぞれのギルドのギルドマスターには、不用意に他言しない事と予め口止めを掛けていた。
「………………はっ……!!」
たかSinに対してなんと説明しようかと必死になって考えている内、俺はある事を閃いた。いや閃いてしまった。
思い付きが故に、舵取りまで上手く行くかまでは俺にはわからないが、この思い付きをたかSinに託してみるのは、ちょっとアリかもしれない。
「ど、どうかしましたか?」
「……悪い。ちょっとフレンドにメッセージを送る。
それとユミル、向こうに二体湧いてるゴーレムを倒して来てくれないか?」
俺は立ち止まり、脇の小道に指を差してユミルに指示を出す。
「わかりました」
頷きを返したユミルは、槍を手にゴーレムの元へとゆっくり向かって行った。
よし。恐らくは不自然さを残さずに、上手くユミルを引き剥がす事が出来たな。
槍職一人で相手をするにはちと小難しい、機械系モンスターを仕向けてちまってすまん。わざとじゃないから許せ。
ひとまずはユミルが戻って来る前に、思い付きをパパっとたかSinへと提案してみるとしようじゃあないか。
「行ったな。……なぁたかSin。お前、俺の情報屋になってみる気は無いか?」
メッセージを打ちながら、俺はこんな事をたかSinに提案してみた。
「えっ?」
「少し待て」
「は、はい」
『まずは時間が出来たら、俺についてお前の知りたい事を全て話してやるよ。
その情報を種に、お前は銀水晶専門の情報屋として活動を始める。
情報をお前に落としてやる代わりに、お前は売った情報の額に応じて俺にアイテムを寄越す。
もちろんアイテムは俺が買い取る形になる(少し面倒な手順を踏む事になるとは思うが)から、そこは安心してくれていい。
詳しい事は俺の職業にも関わる事だから、ちょっと説明が長くなる。
だからお前達がログアウトした後にでも、ゆっくりメッセージで伝えるよ。』
こんな文面をたかSinに送り付けてやった。
「本物の情報が噂話としてプレイヤーの間に出回る。お前は俺の情報を誰よりも先に知る事が出来る。
俺は俺で、目的のアイテムをお前から買い取れる。
……悪く無い話ではあると思うが、どうだ?」
「面白そうです……!是非とも僕にやらせて下さい」
俺からのメッセージを読んだたかSinは、こう口にしながら俺に向けて親指を立て、ニヤリと口元を歪ませた。
「そうだたかSin。お前はちょっと前に流行っていた、『in world』ってゲームを知ってるか?」
「知っていますよ。僕達四人も、キヨムラと6辛のお兄さんから教えて貰っては、よく遊んでいましたから」
「まぁ、知っているから何だって事は無いんだけどな。
あぁユミル悪いな。倒してくれてサンキュ」
ゴーレムを倒して戻ってきたユミルに声を掛け、俺達は再び三人を追いかける為、歩を進め出す。
「はい! 今はたかSinと、どんな話をしてたんですか?」
「『in world』ってゲームの話だ。
『カラミティグランド』を友達から誘われて始めるまでは、ソシャゲーくらいしかやってなかったからな。
それ以前にまともにやったゲームと言えば、『in world』しか無かったつー話な」
「そうだったんですか。懐かしいですね、『in world』」
たかSinとユミルから、四人の『inworld』時代の話を聞かせて貰いつつ、セイ達から少し遅れて俺達は安全エリアへと辿り着いた。
それにしても、情報屋か。
なんだか無謀な提案をしちまった気もするが、たかSinはたかSinで面白がって引き受けてくれたし、コケちまわないよう、上手い具合に事を運ばせてやりたいな。
 




