バフ毒虫―2
予めだいだいがやっておいてくれたUPC間でのフレンドリンクのおかげで、錬成石を無事に大量入手することができた。
どうやって、と言われると″トレード″っていうちょっと小ズルい方法でだ。
チュートリアルの間、それもフレンド登録されているID同士のみでしか使うことの出来ないこのトレードは、正直言って一般的なプレイヤーにはゴミ機能に等しい。
だってチュートリアルの間しか使えないんだぞ?
チュートリアルの間はレベルが上がることはなく、ダンジョンもない。街もない。
全てのプレイヤーが、一体何を交換するんですか? 状態である。
そんなトレードでも、俺にとってはとてもありがたい機能だった。
だいだいは手持ちの錬成石を全部くれた。
これで無の低級錬成石の数は206。あいつ結構やっちゃってんね。
それに加えて、だいだいのキャラが所属する区域のモンスターからドロップする、火の低級錬成石も貰った。その数なんと96個!
″火の″って付くくらいなんだから、ちょっと火力に期待したい所があるよな。
俺からは、ブルーウルフサーベルをトレードに出してあげた。
どうせ装備できないしな。だいだいは剣士職だって言ってたし、ブルーウルフサーベルの武器性能は俺にはわからないけど、しばらくの間は使ってくれるだろう。
電脳空間でだいだいに、錬成石を集めておいてもらうようメッセージを飛ばして、俺は『カラミティグランド』を起動する。
まだコットとの待ち合わせには少し早いよな、なんて考えてる内に俺の視界はフィールドへと切り替わった。昨日よりスムーズに意識の切り替わりが行われてる気がするな。
「さて、と。流石にまだコットは居ないな。今の内に狩りでもやっとくか」
コットと昨日会ったのは、多分二十二時ちょっと過ぎた位だと思う。まだ四時間近くはある。
ちょっとばかしリザードサイスにちょっかいを……いや、戦闘ボットを見つけて錬成石のストックでも増やしておこう。
なんて考えながらのたのたとフィールドを歩いていると、目の前に現れたのは昨日と変わらぬ狼の群れ。
「攻撃のバリエーションを増やすのもありだな……ちぃっと実験に協力してもらうぞ」
聞こえちゃあいないとは思うけど、今から実験と称した可哀想ないじめが始まることに、俺はほんのちょっとの申し訳なさを……。
そんなもん感じてはいないけど、断りだけはひとつ入れておいた。
……錬成石から錬成できる武器種は直剣、長剣、短刃剣、手斧、打杖、槍の六種。
何ていうか、初期武器って感じだよね。捻りがないというか……。
もっとこう……鉤爪みたいな、いかにも危なそうな武器とかあっても良くない?
そんなぼくの下らない理想は置いておくとして、フィールドでモンスターを狩りながら、それぞれの武器を錬成石で錬成して使ってみた。
結果から言うと、短刃剣より優れた武器は無かった。
あ、ことリザードサイスみたいなボスモンスターと戦うことを想定したら、だけどね。
剣系武器や槍の持つリーチの長さだったりとか、斧や杖といった短いリーチの武器でも、短所を補う有り余る高火力ってのも魅力だった。
それぞれの武器に長短あるのは当然の事だし、それを差し引いてもどれもいい武器であることには違いない。
それでも短刃剣が他の武器へと俺の手からその座をを譲らない理由は、戦闘時の取り回しの利きやすさに限る。
自分の身体であるにも関わらず、自分の身体ではないと感じる程、稼働速度や反応速度の良さといった、身体面の仮想現実でのハンディレスさが、短刃剣の持つ強みを最大限以上に引き上げるという点に他ならない。
ほんの僅かな攻撃チャンスさえをも逃したくはない。
そういった刹那的な瞬間を短刃剣以外の武器だと、その武器自体が持つリーチの長さだったり、重さだったりが殺してしまう。
「ん? なんだあれ?」
昨日リザードサイスと戦った場所の近くまで辿り着いたは良いものの、そこにリザードサイスの姿は無かった。
変わりにその付近の道端に、少しばかり目立つように生えた腰くらいまでの高さまで伸びた草。
その草の周りを、きらきらと黄色く光る何かが飛び回っている。
近付いてみると、[取る]というアイコンが出たのでタップしてみた。
『使用者の攻撃力を活性化させるエキスを体内に持った虫。強い毒性を持つ』
アイテムパックに取得し、仕舞われたそれの説明欄にはそんなことが書いてあった。
「バフ毒虫って、ひでぇ名前だな……。でもこれ使えそうだ」
そっと、バフ毒虫をショートカットに登録しておく。虫のアイコンが左手首の棚に映し出された。
さて、困ったことにリザードサイスを探し出さなきゃいけなくなった。
ミニマップがあるとは言えど、この区域全体が果たしてどの程度の広さを持っているか今の所わからない以上、あんまりぐだぐだと探してるとあっという間に時間が過ぎちまう。
疲れを感じないとは言え、探すのは自分の足頼みになる訳だしな。
メニューからミニマップを開きながら、俺はまだ行ったことのない箇所を埋めるついでにリザードサイスを探す旅にふらふらと出ることにした。