イカしてんぜその武器!
「ガフッ!」
「よっ! っとぉ! 怖ぇ~っ!」
「グゥォォオオゥ……」
繰り出される噛み付き攻撃を避け、隙を見せたバルサザークの顎を斬りつけた。
「……なっかなか攻撃のチャンスをくれねぇな」
バルサザークの敵視が俺に向きっ放しってのもあるが、相手は流石に狩る側の生き物。
攻撃のひとつひとつが素早く、隙という隙があまり無い。
唯一あるのは、噛み付き攻撃の後くらいなものか。
「6辛! アレの出番じゃねぇか!?」
「だねだね! やっちゃるよ!」
……? 何だ?
前方……、バルサザークの左側面から、キヨムラの声が聞こえたぞ。
キヨムラの横に居るのは、二刀流短刃剣の女プレイヤーだ。恐らくアイツが6辛と見た。
「私の名は6辛っ! 私の秘剣、見て貰おうか!」
と叫んだ、やっぱり6辛だった奴の両手の先には、短刃剣ではなく、白地の大きな拳が取り付けられているのが遠目にわかる。
秘剣、と言った気がしたが、見る限りでは剣は握ってないな。
「――っ!? アイツ足早ぇっ!」
6辛はとんでもない速度で、こっちまで走って来ている。
手首の辺りから伸びる機械の拳を構えながら、そのままの勢いで6辛はバルサザークの顔面が向く俺の位置へと割り込み、並び立った。
「6辛、その武器は?」
「まぁ見ててよ!」
直後、機械の拳は形を変え……、拳の内側から細身の刀身が飛び出して来た。
刀身の長さはそこまで長い訳では無い。短刃剣より気持ち長い程度なものか。
この武器……というよりは、武装を持つ敵を俺はよく知っている。
コイツはゴーレムの腕だ。動き自体はなんて事は無い為に、ゴーレムから被弾する事なんてほぼ無かったが、ゴーレムからドロップする武器があったとは。
「……ゴーレムの武器か?」
「その通り! 仕込刃・ゴーレムハンドの力、しかとその目に焼き付けよっ!」
それだけ言い残すと、6辛は飛び出して行ってしまった。
「へっ! イカしてんぜその武器!」
と言ってはみたが、6辛には俺の声は届いてなさそうだ。
そんな6辛は、敵視が向いていなければ比較的安全な位置となる、バルサザークの胸の下へと突っ込んで行き、攻撃を開始した。
「アイツマジか……。破壊力やべぇな」
スキル構成によるものなのか、武器の性能によるものなのかはわからないが、とにかく6辛の攻撃によって瞬く間にバルサザークのHPが一瞬にして三割……。
レッドゾーンまで持っていかれた。
「レッドゾーンだぞ、大丈夫か!?」
「大丈夫っ! 一気に決めるよ!」
ケリを付けにいくのは良いが、大丈夫だろうか……。
「グォォォォォオオオオオンッ!!」
……レッドゾーンとなり、叫び声を上げたバルサザークの周囲に、黒い雷走り出した。
「いや絶対ぇやべぇだろ!」
「グルゥァァァァァアァァッ!!」
黒い雷はそのままバルサザークの元へと集まり、二度目の咆哮と共に、バルサザークの周囲に纏わり付いていた黒い雷は一気に放出された。
「クッソ……! これは避けられねぇ……」
上方と、外側からバルサザークの身体へと収束するように放たれた、矢のような黒い雷。
俺からバルサザークの敵視を持っていった6辛だけに留まらず、セイと俺、キヨムラ達全員にまで攻撃が及ぶであろう、広域範囲攻撃。
避けられる筈も無く、俺達は黒い雷の範囲攻撃を盛大に喰らった。
「ちっ……。帯電か」
一撃で三割程持っていかれたHPゲージの右側には、帯電状態を示すアイコンが表示されている。
この一撃の威力もそうだが、一発で帯電状態へと持っていく、この攻撃自体が厄介だ。
帯電状態となった俺のHPは、毒状態となった時のようにジリジリと削られている。
見ればパーティの全員が帯電状態となっているが……。
「――やべぇ! 6辛死ぬ!」
俺は即座にチュートリアルリッパーを鞘へ納め、強化短刃剣を錬成し、バルサザークへと攻撃を仕掛けた。
俺がここまで慌てたのは、今の雷攻撃を受けたパーティメンバーの中で、6辛がダントツでHPを減らされていたからだ。
セイの残HPが五割ほど。まぁ装備が整っていないし、これは仕方ない。
6辛を除いたキヨムラ達も、おおよそ六割の所とそれぞれが平均的な減り具合を見せている。
では6辛は? 何故アイツのHPは二割程しか残っていないのか。
それだけのHPしか6辛には残っていないのと、解除するまで、一定時間経過毎にHPが少しずつ減ってしまう帯電状態となっている事が、俺をここまで焦らせている原因だった。
「お前の相手はこっちだ! バルサザークっ!」
身動きの取れなさそうな6辛へ噛み付こうとしていたバルサザークの喉元へと、強化短刃剣をねじ込み、強引にバルサザークの敵視を奪い取る。
(あれをバルサザークの至近距離で喰らうと、行動不能になるのか……?)
「セイっ! 来い! ここで奴を削り切る!」
「わかった……!」
俺の声に反応して飛び出してきたセイと共に、もうあと残り僅かしか残っていないバルサザークと対峙する。
「はぁぁぁああっ……!」
俺へと繰り出しているバルサザークの攻撃を抜けながら、セイは一心不乱に剣を振るっている。セイは珍しく本気だ。
「闇……効くか……?」
ショートカットから、闇属性の直剣を錬成した。
暗い霞みを帯びた、黒色の刀身が禍々しいな。
「おっ!6辛!離脱して回復しろよ!」
「わかった!ごめん!」
闇の直剣を眺めていると、どうやら動けるようになった6辛が視界に入る。
6辛はそのまま、キヨムラ達の元へと駆けて行った。
後でアイツの装備でも教えて貰おう。
なんであんな大ダメージを喰らったのか気になるしな。
もう一度強化短刃剣でバルサザークへ速攻を掛けに行っても良かったが、俺には無属性も火属性の錬成石も、あまり余裕が無かった。
仕方無しに、現状では使い道のあまり無い闇属性の錬成石を使う事にした。
「セイの奴、やるな……。虎相手に被弾無しとか正直引くレベルだぞ……」
プレイングマニュアルを読めって言っといて良かったかもな。
セイはダメージ判定周りもきっちりと理解した上で、バルサザークとやり合っているように見える。
このままセイの戦闘を見ていても良かったかもしれないが、流石に可哀想だから俺も参戦する。
「ソウキ、攻撃が効いてる感じがしない……!」
「見てりゃあわかる! 俺も削るから心配すんな!」
バルサザークも、HPの変化で防御力が上がるみたいだな。
強化短刃剣の一発で落とせなかったのが、何よりの証拠だ。
そしてこのバルサザーク戦において心配なのは、セイのHP。さっきすぐに回復させておけば良かったぜ。
セイのHPがちょうど五割しかない以上、バルサザークが雷攻撃のモーションを起こした瞬間、強化短刃剣を錬成して潰しに掛かるしかないな。
「それは……やらせねぇよっ!」
黒い雷が再び地面を走るのを、俺は見逃さなかった。
僅かな時間だったが、強化短刃剣を錬成してバルサザークを仕留めるには、充分過ぎる硬直時間だ。
「グォォォォォ……グ……」
声にもならないような呻き声を上げながら、バルサザークの身体はバッタリと横倒しになった。
『クリアレコードを更新のお知らせです。
・エリアボス:黒雷虎・バルサザークのファーストキル
以上のレコードを更新しました。おめでとうございます。』
そしてこの瞬間、キヨムラがさっき言っていた通りに、バルサザークのファーストキルのレコードが通知される。
「よっしゃ! 勝ったな!」
「最後はヒヤっとしたけど、それ以外は余裕だった」
冷淡な口調でこう言ってはいるが、セイは両手に広げたVサインを形作っている指をカパカパとさせながら、アバターの口元をニィっと嬉しそうなものにしていた。
「最初だろうと最後だろうと、死んで退場なんてもったいねぇよ。あの一撃に払う対価は、結構デカいんだぜ?」
二回の強化短刃剣の錬成に使った、20個の錬成石。
一回目は6辛に向いたバルサザークの敵視を手繰り寄せ、6辛を逃がす時間を作る為のもの。これは必要な消費だった。
問題なのは二回目。
こっちはセイのHPを回復する時間を与えなかった、俺の判断ミスによる無駄な消費だ。
「……そっか。ありがとう、ワギ」
そう素直に感謝されると、むず痒い気持ちになるな。
ヒヤっとさせた原因は俺にあるんだし。
……まぁいいや。今回はセイの初のボス戦だし、セイの気の向くままに、この感謝を何も言うことなく受け止めておくとしよう。
「……あぁ」
……でも、ワギって呼ばれたのは……。
……それもいいや。めでたい雰囲気を壊すのもシャクってモンだ。
今ちょっとだけ、だいだいの気持ちがわかった気がするぜ。
とにかく、パーティメンバーを誰一人死なす事無くボスを倒せた。
スキル【強化錬成術・Ⅰ】によって窮地を脱する事は、今後も多い筈だ。
使うべき時に惜しみ無く使えるよう、錬成石の大量確保は必至。
「さて、どーすっかな。とりあえず、皆でバルサザークのドロップアイテム確認といこうぜ!」
諸々考えなきゃいけないことはあるが、ひとまずは、六人での楽しい楽しいドロップアイテムを開いていく事にしよう。




