違ぇねぇ!
俺が『カラミティグランド』へとやって来ている理由。
それは間違いなく、連絡が取れなくなり、消息すら不明であった『in world』時代の俺の元相棒、ディラン・マルティネスを探す為だ。
そしてこれは『カラミティグランド』をプレイし始めた当初からある、このゲームでの最終目的に他ならない。
残念ながら今俺の手の中にある、ディランへと繋がるような足跡は皆無に等しいが、ディランに関する鍵を握っていそうな人間が二人、身近にあるのは確かだ。
テュリオスこと、大治大河。
それとエヴリデイである須藤巧。
特に須藤に至っては、今後設立される『カラミティグランド』のプロリーグの選手として、既にどこかのクラブチームと契約しているようだ。
加えて、須藤はそのプロリーグにはディランも居ると言っていた。
現状、須藤はディランとかなり近い立ち位置にある事になる。
これによって、俺は焦ってディランを探す必要は無くなった。
プロリーグ設立の時期が近付いてくれば、ディランに関する情報は須藤からエヴリデイを通じて、俺へと手渡される事になるだろう。
俺はその時を待てば良いだけとなった訳だ。
「……ではソウキさんは、その相棒だったディランさんを探しに、『カラミティグランド』へとやって来ているのですね」
俺はコットに、大まかにだが俺自身が『カラミティグランド』へと足を運んでいる理由と、そこに至るまでの経緯を簡単に説明していた。
「そういう事だ。まぁこうやってゆったりと遊んではいる訳だが、このゲームを遊んでんのは、あくまでもそのついでってこったな」
「そ、それではそのディランさんを見つけた時は、ここへと来る理由は無くなる、という事ですか……?」
「いや? 寧ろここにディランが本当に居るなら、それ自体が『カラミティグランド』をプレイする理由に置き換わるだけだろうな」
「つまり、辞めはしないと?」
「あぁ。別に辞める理由は無いしな。結晶士の先にある職業も気になるし、強ぇボスやレアアイテムなんかもあるだろ?
……それに、お前の事もあるしな。コット」
「わたし、ですか?」
「……お前の性格の事もある。
仮に俺がこのゲームを辞めるってなったとしても、最低でも他の連中と普通に遊べるようになるまでは、面倒くらいは見てやるつもりだったよ。
いざ自分の目的達成して、じゃあさようなら、ってのも後味悪いしな」
「それはその……、ありがとうございます」
「まぁ? 当のディランに関する情報は全くねぇし、しばらくの間はずっとこんな感じだと思うけどな~」
ふと横を歩くコットの方へと視線を移すと、コットの奥で通路を挟んで一人、モンスターと戦うプレイヤーの姿が。
(……ん? 珍しいな。しかもアイツ、一人……か?)
プルトガリオ渓谷はまだ解放されて間もなく、ハイディング・シェイドのような手強いモンスターも居る。
そのせいもあってか、ここプルトガリオ渓谷では、四大ギルドの見知った顔ぶれ以外のプレイヤーを見ることが少なかった。
加えて、遠目に見る限りそいつ以外のプレイヤーがそこに居る感じがしない。
こんな所にソロで狩りに来ているモンだから、余計に自然とソロプレイヤーに目に行った。
「どうかしましたか? ソウキさん」
立ち止まって、一人で戦っていたプレイヤーを見ていた俺に、コットが不思議そうに声を掛けて来る。
「わり、ちょっと先に行っててくれ。皆には戦闘を続けるように言っておいてくれると助かる!」
「はい……? わかりました」
俺一人で皆と別れるように道を外れ、ソロプレイヤーの元へと駆け出した。
「……? 気のせい、か……?」
ソロプレイヤーへと近付くにつれ、そいつの戦い方に、どこか見覚えがあるのを俺は感じた。
(……まっさかね。セイのファンだろどうせ)
どんどんと近付くソロプレイヤーとの距離。
「ちっ。ハイディング・シェイドか。めんどくせぇ!」
火属性の直剣を右手に錬成し、ソロプレイヤーとハイディングシェイドとの戦闘に割り込む。
「っしゃらあぁっ! ……おい、大丈夫か?」
三体のハイディング・シェイドに囲まれていたソロプレイヤーだったが、ソロプレイヤーが結構HPを削っていたらしく、俺が斬りつけたハイディング・シェイドは一撃で消え去った。
そのままソロプレイヤーの左側に立ち、正面から迫り来る、二体のハイディングシェイドに向けて備える。
「……助かる」
「お前、まさか初期装備か? それ」
ソロで来る位だから、よっぽど腕と装備に自信があるんだろうと思ったが……。
コイツの身に付けているものは、服と味気のない武器以外の何かを装備しているようには見えなかった。
「そうだけど……」
確信……とまではいかないが、今ので恐らくコイツはセイ……。
亜久里誠司であると、俺は直感した。
「話は後にしよう。一対一ならコイツに勝てそうか?」
仮にコイツがあのセイだとしたら、一対一でハイディング・シェイドごときに負ける事は無いだろう。
「多分、余裕だと思う」
椿とはまた違った雰囲気の、冷淡な口調も変わんねぇな。懐かしいぜ。
「んじゃ、右のは任せたっ!」
それだけ言うと、俺は左側のハイディング・シェイドへと突撃し、手早く処理する。
こっちも少しHPが削ってあったのか、ジュヴィス戦の時に戦ったハイディング・シェイドよりも、若干柔かった気がしたな。
「っしと。後はアイツが倒すのを待つだけだな」
初期装備の直剣では火力が足りないのか、ソロプレイヤーがハイディングシェイドを倒すのには結構な時間がかかった。
手を貸しても良かったかもしれないが、仮にソロプレイヤーがセイじゃなかった場合、せっかくの一対一の戦闘に水を差す事になる。
余裕と言った以上は、静観するのが吉だと俺は判断したって訳だ。
「終わった……」
さてと。コイツが果たしてセイかどうかを確かめる手段が……。あるな。
「お疲れさん。一つお前に質問してもいいか?」
「何だ?」
「俺が″ワギ″だと言ったら、信じるか?」
『in world』時代、俺は亜久里誠司の事をセイと呼び、反対に俺はワギと呼ばれていた。
これを知っているのは、ディラン位なものか。
俺とセイはお互い、他チームに所属する選手ではあったものの、そう呼び合う位には親しかった。
ちょっと納得のいかねぇ結果ではあったが、俺はシングルスの公式戦で一度セイに負けた事もあって、セイは俺のライバルとも当時囁かれていた選手だった。
「ワギ……。本当に……?」
「あぁ。お前、セイだろ?」
そう聞いた瞬間――。
「――っとぉ! ……随分なご挨拶じゃねぇか。セイ」
剣閃が鋭い軌跡を描いて襲い掛かって来た。
一切の無駄も無い、殺すつもりで放った本気の剣戟だ。
こうなる事も頭の中にはあったから、間一髪の所で斬り掛かられた剣を錬成直剣で受け止める事が出来た。
「……うん。本物だ。久し振り。……本当に久し振りだね、ワギ」
お前のその判断の基準はなんなんだよ……。
と問いたくはなったが、そんな事はお構い無しとでも言わんばかりに、セイはアバターキャラクターに設定している、ダーク目な灰色の髪を左右に振った後、満足気にニィっと口元で大きく笑みを浮かべた。
その直後に、セイは俺の錬成直剣と絡ませていた自身の直剣を解き、それを鞘に納める。
「……んな簡単に信じて良いのか?」
「んー。九割はワギで間違いないかな」
「残りの一割で違うかもだぜ?」
「残りの一割は……、ワギだとしたら、弱くなったなと思って」
「……っはは! 違ぇねぇ! もうあの頃のようには動けんよ」
しっかし、亜久里誠司。セイ、か。
こうも『in world』馴染みの奴が何人も出てきちまったら、余計に『カラミティグランド』から離れらんねぇよ。コット。




