ユニーク職はつらいよ
「月光シリーズにシャドウブレイド……。光閃属性と闇冥属性の武器か」
俺のアイテムパックのウィンドウを眺め、うんうんと頷きながらエルドはこう呟いていた。
テュリオスを待っている間、俺とエルドは、所持しているアイテムをひとつひとつ見ていくと同時に、お互いの持ち得る情報の交換も行う事になった。
俺から出せる情報なんてのは、プルトガリオ渓谷で遭遇したモンスターと、ギミックボスである月影の使徒・ジュヴィスについてと、それらからドロップするアイテム位なものだけどな。
逆に、大手の攻略ギルドに所属しているエルドから聞き渡されるであろう情報……、それそのものってよりも、『硯音』の持つ攻略の進行具合についてだったり、苦労話なんかの方が面白そうで、そっちを期待している部分もある。
「あぁ。どっちもプルトガリオ渓谷でドロップするぜ。
俺達には使えねぇけど、汎用職業に持たせる武器としては、属性付きはありがたい代物だろ?」
「そうだね。これは良い情報だ」
「それと、これも見てくれ」
俺の装備画面をエルドへと見せてやる。
今見せているのは、輝きのブレスレット[ブライトネスブルー]だ。
「ん? 妙なスキルだ」
「だろ? でもこれ、プルトガリオ渓谷を攻略するのに重要になりそうな装備なんだよ」
「″そう″ってのは、どういう事なんだ?」
俺は月影の使徒・ジュヴィスを倒す前と後での、フィールドに生じた変化についてをエルドに説明してやった。
だけどエルドからたった今掛けられた疑問については、輝きのブレスレット自体を作成したのがジュヴィスを撃破し、既にプルトガリオ渓谷のフィールド全体が明るくなっていた為に、その効果を試せなかった故の曖昧な回答になったとも答えておいた。
「ギミックボス、か。アトラリア砂道にも居たりするのかな。
何にせよ、そのアクセサリがプルトガリオ渓谷でだけでなく、他のフィールドでも使う可能性があるアイテムだってのは良くわかったよ」
「アトラリア砂道のギミックボスについては何もわからねぇ。
だがプルトガリオ渓谷では、ギミックボスを倒す前のフィールドは、今となっては異常とも言える程には真っ暗だったな」
「ふぅ……。フィールドの異変か。話に聞く限りでのプルトガリオ渓谷くらいには明確な違いがあるなら、もっとうちのメンバーを送り込めるかもしれないけど……」
「プルトガリオ渓谷も解放された今、全員をアトラリア砂道でただ遊ばせておく訳にもいかんだろうしな」
「そうなんだ。『Zephy;Lost』にもレコードを先行で取られちゃったし、マスターも今日か明日辺りで一度、攻略メンバーをプルトガリオ渓谷へと動かそうとしてる」
すまん、刀導禅。
「なるほどね。なら、刀導禅の指示が降りるまではお前は暇って事か?」
「そういう事になるね」
「んじゃ、行くしかねぇな。プルトガリオ渓谷に」
「下見程度なら構わないけど……」
「うん、まぁボスに遭遇しちまったら、最後はお前に譲ってやるよ。
その代わり、刀導禅にはきっちりアイテム貰いに行くからな。
俺達だってボスを狩れるパーティだって事、忘れちゃあ困るぜ」
「わかったよ。マスターにとって大事なのはレコードだ。
アイテムくらいなら躊躇なく寄越してくれると思うよ」
「決まりだな。そうだ、それと一つ聞いておきたい事があったんだ」
「? 何かな?」
「上級職への上がる為の解放条件」
ふっ、と軽く吹き出して、エルドは種ツリーの画面を開いて見せてくれた。
「……まじか」
その条件を見た瞬間、俺は言葉が出なかった。
「笑っちゃうだろ?」
「……厳し過ぎじゃねぇの?これ」
「俺もそう思う。というより、厳しいと感じない方がおかしいだろうね」
そんなエルドの、無茶苦茶な上級職への解放条件がこれだ。
『パーティメンバー1名(自身を含む)での、エリアボス撃破:1/1』
『いずれかのエクストリームボスのファーストキル:1/1』
『いずれかの支配ボスのファーストキル:1/3』
「……いやこれ、ミスると詰むやつだろ」
この俺の突っ込みが果たしてエルドに対してのものなのか、運営に対してのものなのか。
……まぁ、両方だな。
「一次職とは言え、ネームドだからね。アトラフィのファーストキルを取れたのは、凄くラッキーだった。
というか、下二つは普通にソウキが絡んでるよね」
「確かに。最初にお前と会ったすぐ後に、たった一人でファーストキル決めちまうなんて何事かと思ってたが、そういう背景があったんだな」
「因みにソウキのはどんな感じ?」
そういえば、最初にテュリオスとクエスト『雫を流す者』が終わって以来、種ツリーなんて見てなかったな。
職業メニューを開き、エルドと共に結晶士の上級職への解放条件を見てみる事にした。
『総錬成回数8万回:1687/80000』
『いずれかのボスモンスターのファーストキル1/1』
……現実とは厳しいものである。
「お互い、道のりは険しいね」
「……だな。お前の言う通りだエルド」
それでもスキル【錬成の心得:技】によって、一回の錬成による回数のカウントが二倍に増えているせいもあってか、思っていたよりは回数のカウントが増えている。
単純計算で、錬成石を最低でも840個ちょいは使ってる事になるからな。
「わたし、もう少しで上級職への条件が達成出来そうです」
椿とのお喋りに夢中だったはずのコットが、俺とエルドの背後からひょいっと顔を覗かせていた。
「こんな感じです」
『総HP回復量1万:8239/10000』
『状態異常状態回復20回:16/20』
俺が出していたウィンドウ。
その横に差し出されたコットのウィンドに載っていた文面には、こう書かれていた。
「まじでもうちょっとだ」
「こまめにこの画面を見ようと思いますので、達成出来たらお伝えしますよ!」
「あぁ。たの……」
『待たせたな。ログインしたぞ。このまま安全エリアに居た方がいいか?』
お、テュリオスからのメッセージだ。
二人に「テュリオスからのメッセージに返信する」と一言断って、テュリオスへとメッセージを打ち込んでいく。
『ほいよ。今からプルトガリオ渓谷に向かおうと思うから、そこから門の通りを真っ直ぐ歩いて来てくれ。今から皆で向かう。』
『了解だ。』
時間も宣言通り、30分以内だ。流石はだいだい。
「テュリオスがログインしたらしい。迎えに行こうぜ」
俺の声に反応し、全員が身支度を整える。
といっても、ゲームの中だしやることなんてそう無いけど。
治癒士見習い、コットの上級職か。
どんな職業になるんだろうな。
椿の歌姫の条件も気になるところだ。
テュリオスと合流するまでの道中で、少し聞いてみる事にしよう。
……俺も早く上級職に上がりたいぜ。




