バフ毒虫―1
「何? ユニーク種だとっ!?」
昨日から数えて翌日。つまりは今日だ。何やらだいだいは俺の目の前で声を荒げている。
仕事を定時で上がりたいと上司に相談したところ、すごく苦い顔をされた。
なんとか許可を得たので、そのまま逃げるように職場から出てきた俺はだいだいの家へと向かい、昨日『カラミティグランド』内であった事を簡単に話した。
暇をしてるのかどうなのか知らんがだいだいは普通に家に居て、流れるように俺はだいだいの部屋へと、だいだいに案内された。
まぁ、今だいだいが大声を出してるのは俺のせいなんだけどね。
「うん。で、その引いた結晶士って職業は錬成石を使って戦うから、昨日錬成石を余らせてないか? って聞いたんだよ」
「いや余らせてるが……区域はどこになったんだ?」
「いや、区域がどこなのかってのはわかんない。森っぽいとこに送られた」
「……やはり、か」
なにやらだいだいは顎に手を当て、今から何かの推測をするように見て取れた。
「……どうかしたか?」
「これを見てくれ」
だいだいはスマホから一つの画像を開いて見せてくれた。
「地図、だな」
地図には八つの点が打たれており、その点の周辺には色のついた範囲が広がっている。赤だったり、青だったり。
その八色の点周辺の範囲と、点の打たれていない緑の範囲の計九色からなる一枚の地図。
「これは『カラミティグランド』のチュートリアル版全体マップだ。
ユニーク種のIDが揃い、チュートリアルが終了すると街やダンジョンが生成されてもう少し複雑なものになるが、それまではこのシンプルなマップでゲームが進行していく。
この中で柏木に注目して欲しいのはこの緑の部分」
だいだいが指を指したのは全体マップとやらの中央、緑の範囲で囲まれた箇所だ。
「ここは、俺達のような汎用職業プレイヤーからは隔離区域と呼ばれている。
今のところ何人生成されているかはわからないが、柏木と柏木が昨日出会ったと言うもう一人のプレイヤーの計、最低二人。
恐らく柏木はこの中央部の区域に送られ、ユニーク種持ちIDが他に生まれていればそいつに遭遇出来るが、俺達のような一般職プレイヤーには現状は出会えないだろうな」
「どういうことだ? 実際には九個の区域があるってことか?」
「ユニーク種持ちが全員揃うまで、だけどな。
ユニーク種のIDが七つ出揃った時点で隔離区域は中立エリアとなり、恐らくここが区域間のやり取りだったりというのが自由に行える場所になるはずだ」
「詳しいな」
「いや、正直なところ仮説の域を出ん。
このゲームの仕組み上、そうするしかないのではと言うところから、そういう噂になっている程度のものだし」
「『カラミティグランド』ってそもそもどんなゲームなんだ?
色々手探りさせ過ぎな感じがするし、ちょっとゲームとしては優しくないよな?」
「そうか……そこから説明しないといけなかったな」
眉間に指を当て、口調が急に変わり出すだいだい。
だいだいの話をまとめると、『カラミティグランド』はどうやら、二つのシーズンを踏んでからようやくゲームとして始まるらしい。
一つ目のシーズンはユニーク種持ちが七人生み出されてから始まる、八つの区域による勢力の奪い合い。
様々な成績を見比べて一定期間に一度順位付けを行い、その成績が最下位であった二つの区域はその上にいる下二つの区域に吸収される。
これによって下位区域は勢力を拡大しながら上位を目指すというもの。仕組み的に一番損をするのは中間位に居る区域ということになるな。
二つ目のシーズンに関しては今のところ、まだ情報待ちということらしい。
この二つのシーズンは話を聞いている限りではやってもやらなくても良さそうな感じではあった。
シーズンの終了後にキャラクターのレベルはリセットされてしまうみたいだし。
ただ、今はまだチュートリアルの段階だからあまり関係はないけど、ルーツツリーの進行具合だったり、装備だったりっていうのはきちんと自分のプレイした証として残ると公式は明言してるらしい。
シーズンをプレイしている連中とこういう差が開くのは、正直俺は気が許せない。
だからここはきっちりシーズンの間『カラミティグランド』をプレイしておきたいってのはある。
このゲームが様々な情報を手探りさせているのも、まぁチュートリアルが終わるまで自分で情報を探索して探しておいてねという、ひとつの遊び心だと言う。俺はそれを意地悪だと思うがね。
……話は戻って、現状所属している区域が違うと、同じパーティを組めないらしい。
まぁ当然だよな。俺とコットの居るフィールドまで来られないんだからな。チュートリアルがさっさと終わってくれることを願うよ。
そんな事だから、リザードサイスは俺とコットで挑むしかなさそうだ。誰かユニーク種持ちがサクッと生まれてくれりゃあいいんだけどな。
「なるほどな。とりあえず俺は今から向こうに潜るわ。また後で」
「あっ! おい惣っ!」
座り心地の良いソファから身体を持ち上げ、UPCへと腰を掛けた俺へと慌ただしく声を向けてきただいだい。
「ん? どした」
「錬成石を渡せるだけ渡しておく。フレンドになってくれよ」
あぁ、すっかり忘れてた。隔離区域なんて言うからには直接は手渡せないだろうけど、どうやって錬成石をくれるんだろう。
まぁいいや、その辺はだいだいに任せよう。