ここではない遥か、遥か遠くへと辿る道の上
ここで、1~3話ほど挟んで5章は終了となるかと思います。
自分でも5章は長かったと思っていますが、お付き合い下さってありがとうございます!
6章もよろしくお願いいたします!
「転職して使えるようになった力、見せてやるぞ銀水晶……!」
エヴリデイは、周囲のギャラリーにも聞こえるような声でこう告げた。
気を遣わせちまってるな。須藤には後で礼の一つでも言っとかないとだ。
「もう転職したのかっ!?」
「そうさ。俺は転職して闘剣士から鬼刃士となった。
来い……! 莫刀牙・焔……!」
テュリオスは上級職への転職は相当に早いはずだが、まさかエヴリデイもとは。
エヴリデイは左の拳を俺の方へと突き出し、スキルの名前らしき言葉を叫んだ。
――その瞬間、エヴリデイの左手の先に、紅色の刀のようなものが伸び始めた。
瞬く間に長さを宿していくその刀身には、緋色の炎が走っている。
スキルによる武器の生成は、俺とエルドにも出来る芸当ではある。
だがたった今エヴリデイがやって見せたような、音声による武器の生成は出来ない。
元々右手に装備していた剣と、生み出した左手の炎の刀。
これによって、対峙するエヴリデイの両手には、片腕ずつ武器が握られている事になる。
「面白ぇスキルだな!」
「お前とやり合うには、これくらいは必要だと思ってな」
「やる気満々じゃねぇか。いいねぇ」
「行くぞっ……!」
剣と刀を同時に扱う様は少し変わり種なように見えはするが、そんな事などお構い無しにエヴリデイは俺の元へと突っ込んで来る。
俺も両手に直剣を錬成し、エヴリデイを迎え撃つ。
(これはちっと、まずいかもな……)
俺も【デュアル・エッジ】のスキルを用いれば、エヴリデイの二刀流に応戦する事は出来る。
だけどエヴリデイと俺の決定的な違いは、武器が壊れるか壊れないかというもの。
炎の刀が耐久力性のものなのか、持続時間によって存在するものなのかはわからないが、エヴリデイの左手の炎の刀が使えなくなったとしても、右手に装備された剣が消える事はない。
最低でも右手の剣は残り、戦闘を継続出来るって事だ。
加えてエヴリデイは、ショートカットに触れなければ武器を錬成出来ない俺とは違い、スキル名を口にするだけで炎の刀を生み出せる。
これは瞬間的にチュートリアルリッパーを抜く場面が多くある一戦になるな。
「ちっ……。厄介な」
「はぁぁあっ……!」
「くっ……そっ……!」
エヴリデイの猛攻と打ち合う中、俺の錬成直剣が両方とも折られちまった。
即座にチュートリアルリッパーを両手に引き抜き、エヴリデイの剣と刀を押さえる。
鬼刃士というエヴリデイの職業が持つヤバさは、生み出した炎の刀にある。
俺の錬成直剣と打ち合っている間、炎の刀は一度も壊れたり消えたりしていない。
つまりは俺の錬成武器よりも、エヴリデイの炎の刀の方が耐久力が高いって事になる。
自分でもわかってはいた事だが、やはり対人戦で相手の武器と打ち合う事は俺にとっては不利そのものでしかない。
錬成武器の耐久力を、自ら消耗させにいくようなモンだからな。
「やるじゃねぇか。左手のそれ、なかなかいいスキルだな!」
「余裕でいられるのも今の内だぜ。柏木」
「にゃろう……。やらせねぇ!」
押さえ込んでいたエヴリデイの剣と刀を弾いて距離を取り、チュートリアルリッパーを鞘に納めて、再度直剣を両手に錬成し、エヴリデイの体に一撃を叩き込む。
それと同時に俺も一撃貰っちまった。ダメージもHPの一割を削る、なかなか火力だ。
「ちっ、これでお互いに一撃か」
距離を取ってそう口にするエヴリデイを眺めながら、俺は作戦を組み立てる。
(ちょ~っとセコい手だが、これなら先手は取れるかな。須藤程の相手だと使えるのは一度きりってのが残念だが)
作戦を練り上げた俺は錬成直剣を地面に放り、今度は両手に短刃剣を錬成した。
無言でこっちへと突撃してくるエヴリデイ。
「もうちょい引き付けて……おらっ!」
「なっ……!」
武器がギリギリ俺へと届く程の距離まで近づいたエヴリデイの胴体目掛けて、俺は錬成短刃剣を投げつけた。
投げナイフだ。
もちろん現実で投げナイフなんてやった事など無いが、システムがなんとかしてくれることを信じてみた。
俺に投げられた二本の錬成短刃剣は、恐らくシステムのアシストによって、エヴリデイの腹部と肋骨辺りに深々とぶっ刺さっている。
オルグファス戦の時と同じケースで考えるなら、エヴリデイの体に刺さった錬成短刃剣の耐久力がゼロになって壊れるまで、コイツらはじわじわとエヴリデイの体力を削っていく事だろう。
……こんなしょうもない手は二度目は意識が回るだろうから通用しないが、一度目はここまで距離が近いと流石に反応はしきれない筈だ。
「またお前はこんな汚い手を……!」
どことなく楽しそうな声で、そんな嘆きを吐きながら斬り掛かってくるエヴリデイ。
そんなエヴリデイの攻撃を避けながら、俺は空いた両手にチュートリアルリッパーの柄を握らせる。
「汚くはないだろ?作戦だよ作戦」
「口では何とでも良いように言えるのがまた憎い……」
「強くなったな、須藤。あの頃より全然隙がねぇ」
「それは『カラミティグランド』だからだろう。それと鬼刃士の力だ」
「謙遜するなよ。お前の積み上げてきたものが、今こうして俺を苦戦させてんだ。
そう考えた方がよっぽど良いぜ?」
「柏木。戻ってくる気は無いのか?」
「戻るって、どこに? まさか『in world』とか言わねぇよな?」
「……これは誰にも話すなよ? 俺も口外は禁止されているからな」
「……あぁ」
「もう少し先の話にはなるが、『カラミティグランド』のプロリーグが立ち上がる」
「……それで?」
「俺はその選手の一人として契約を交わしている。――そしてそこには、ディランも居る」
「なんだとっ!? ……それは本当なのか?」
「本当だ。お前が居れば、『カラミティグランド』のリーグ戦も盛り上がる。どうだ?」
「どうだって……、そんな簡単に選手になれるモンでもないだろう」
っと、エヴリデイからフレンド申請が届いた。
戦闘中ではあるが、俺はそれを承認した。
「詳しい話はメッセージで寄越す。今話した事、誰にも喋るなよ?」
「わかった」
「……そろそろ、本気でやり合うか。柏木」
「だな。俺のとっておきも見せてやるぜ。ちびんなよ須藤!」
エヴリデイとのお喋りしながらの適当だった戦闘は一旦区切りとなり、ここからは本気の斬り合いだ。
オルグファス戦で一度使った、本来はこの戦いで使う予定で取ったスキル、【強化錬成術:Ⅰ】の効果で錬成された短刃剣を右手に握り、後ろ手に隠すようにして構える。
チュートリアルリッパーを握る左手は前に突き出している。
こっちは防御をメインに意識を回すつもりだ。
右手のコイツでどれだけエヴリデイのHPを削れるかは謎だが、一度に10個も錬成石を消費しちまうんだ。
この一撃の威力で、エヴリデイのHPを吹っ飛ばしてみたいじゃあないか。
「覚悟しろ銀水晶……!」
「来い、エヴリデイ!」
エヴリデイが駆け出したのよりもほんの少しだけ遅れて、俺もエヴリデイの元へと突撃した。
「ふっ……!」
「ちっ! まだだぁ!」
「くぅっ……!」
エヴリデイの剣による攻撃を浴びながらも、刀の腹へとチュートリアルリッパーを滑らせ、勢いに任せて強引に懐へと潜り込んだ。
エヴリデイの攻撃力はなかなかのものだ。
たった二回の攻撃で、俺のHPは三割も削られた。
だが、反撃のチャンスは作った。
後は【強化錬成術:Ⅰ】の威力任せになる。
「これが、結晶士の破壊力だぜっ!」
ガラ空きになったエヴリデイの腹部に、強化された錬成短刃剣の一撃を叩き込む。
(――そうだな。ディランが居るなら、またあの世界に戻ってもいいかも知れねぇな)
「……凄い攻撃力だ。今ので八割もHPが持っていかれた。流石に俺の負けだよ」
「あんまり褒められた戦術じゃねぇんだけどな」
「俺はもう行くよ。またな、柏木」
「あぁ。連絡、寄越してくれよな須藤」
俺は武器を納めて立ち去っていくエヴリデイを、少しだけその場で見送った。
その後テュリオス達の元へと歩き出し、振り返ったそこにエヴリデイの姿は無かった。
『やぁ! ウチのメンバーがお世話になったそうだね! レコードの件も聞いてる。感謝するよ!』
と、唐突にメッセージが来た。
タイミング的にエヴリデイからのメッセージだと思ったが、これは『Zephy;Lost』のギルドマスター、クロムからのものだった。
これには後で返信しておこう。
それにしても、『カラミティグランド』のリーグとディラン、ね。
ディランへと手が届き掴めそうな情報を、須藤から聞けたのはいいものの、まだディランの影すら踏めていない。
(んま、焦っても仕方ないか)
暫くは、須藤からの追加の情報を待つとしよう。




