殺すつもりで向かって来い
次回はテュリオス視点で、エルドとのちょっとしたやり取りの回です。
その次で、ようやくエヴリデイとの決闘です……!
アスティとの斬り合いをある程度のところで切り上げた俺は、次にワタルの訓練を付けてやった。訓練って程でもないか。
ワタルも『in world』出身ってな事もあってか、こういった実際の体を動かしての戦闘に対する、ある程度の理解力こそあるものの、やっぱりアスティと比べるとワタルの動きには粗さというか、雑味が多く目立つ。
攻撃一つ、防御一つとってもワタルは反応が一歩遅れている。
「――っし。こんなもんか。教えた事、よーく覚えておくんだぞ?」
「意識してみます」
「それとだが――」
ほんの出来心だが、俺はちょっとした課題をワタルへと出してみる事にした。
「――今すぐにとはいきませんが、やってみせます。必ず……!」
「へっ。いい返事だぜ。楽しみにしてら」
「ありがとうございました。ソウキさん」
これで、俺がワタルへと伝えられる事の全てを一応は伝えた事になるな。
それでもって、たったいま俺はワタルとひとつ約束ごとを交わした。
ワタルと交わしたこの約束が果たされる日を、俺は心待ちにするとしようじゃないか。
そして俺は一度アスティとワタルとの三人でバリトンへと戻り、ショップ端末を使いアスティには手持ちのビークブレイド、ワタルにはブロードソードを渡してやった。
最後に、21時よりちょっと前にアトラリア砂道の安全エリアへと来るようにと伝えておく。
とりあえずやっておきたかった事の全てが終わった頃、時刻は16時を回っていた。
「……うぉっ、マジか」
再びアトラリア砂道へと戻ってきた俺の目の前に、突如リザルト画面が浮かび上がって出てきた。
「ここに姿がないと思ったら、街に入ってたのね」
リザルト画面を眺めていた俺へと声を掛けてきたのは椿だった。テュリオスも一緒だ。
「おう、悪かった。……結構な数のモンスターをやっちゃったみたいだな」
「慣らしよ」
椿はそう言ってはいるが、リザルトのドロップアイテムを見るに相当な数のモンスターを狩ってるぞ……。
メンバーと離れていても、パーティで獲得した分のドロップアイテムはきっちり手に入れられてるってのはありがてぇ。
こうして俺はテュリオスと椿の二人と合流し、クエストを消化しながら適当に時間を潰す。
その最中にログインしたコットもパーティへと引き入れ、俺達はエヴリデイとの決闘の待った。
「お前も来たのか。エルド」
「うん。一応」
現時刻は20時40分。
エヴリデイを待つ為、少し早めに安全エリアへと戻ってきた。
そこで俺達を待っていた奴はエルドだった。決闘の見届け人にでもなるつもりか?
「……勝てっかな」
何となくエルドの隣に立った俺は、そのままエルドへとこんな話題を振ってみた。
「戦ってみないと何とも言えないだろうけど……。負けたくはないだろ?」
「そりゃあ……、そうだけど」
「なら、全力で戦うしか無いだろうね。ソウキ自身の為にも、あのエヴリデイとかいうプレイヤーの為にもさ」
「そうだな……」
エルドと話をしていく内に、ぞろぞろと何人かのプレイヤーがバリトンから出てきた。
その中にアスティとワタルが居る。
「お? もう何人かギャラリー湧いてんのか?」
「コイツ以外はパーティメンバーだよ」
そう言いながら、横に居るエルドに親指を向け、アスティにジェスチャーを送る。
「なーんだ。俺らんとこの奴らを連れてきてやったのによ」
余計だぞそれは。
まぁ……、見たいってんなら、それを俺がいちいち掃けさせるような事はしないんだけどな。
今、アトラリア砂道の安全エリアには三組のグループがそれぞれ固まって待機している。
俺とエルド。
テュリオス、コット、椿の三人組。
アスティとワタルを含めた、五人のグループ。
この三組だ。
ここに居る俺を除いた九人が、俺とエヴリデイの決闘のギャラリーとなる訳だ。
「……来たな」
21時の5分前となり、バリトンからエヴリデイがゆっくりと出てきた。
「周りのプレイヤーは?」
「ギャラリーってところだ」
「……まぁいい。始めようか」
「あぁ」
俺とエヴリデイが先導して九人を引き連れ、少し広めのエリアへと出てきた。
エルド、テュリオス、コット、椿の四人は立ち並び、アスティ達は散らばるようにして各々は俺とエヴリデイの戦闘が見やすくなるような位置についた。
まずはエヴリデイ……、須藤巧との会話を楽しもうか。
「さて、エヴリデイ。まずは聞いておきたい事がある。
お前が勝ったら、俺はどうなるんだ?」
「……俺の所属するギルド、『アルマゲスト』に入ってもらう。
もしそれを断るようなら、このゲームの中で俺はお前を追いかけ回す」
「おぉ怖。……というか、そんなんでいいのか?」
「あぁ」
「なぁ。お前は『アルマゲスト』の攻略メンバーなのか?」
「そんな事を聞いてどうする?」
「それによっては、俺が勝った時にお前に出す条件が変わる」
「……そうだ。俺は『アルマゲスト』の攻略メンバーだ」
まぁ、これは何となくだけどわかってはいたから、一応の確認の為に聞いてみた。
オルグファス戦後、レコードをざっと覗いた時に、エリアボスのファーストキルで載っていたパーティの中に、エヴリデイの名前があったのは見逃さなかったからな。
「よしわかった。俺がお前に勝ったら、『カラミティグランド』を楽しんでやれ」
「どういう事だ?」
エヴリデイは呆気に取られたような声を上げた。
「俺に対して何かしらの感情やパワーを向けるんじゃなくて、『アルマゲスト』の一員としてこのゲームで自分のやるべき事、やりたい事を全うしろ」
「勿論、この戦いが終わったらそうするつもりだったが……」
「その代わり、今からの戦いでは、お前の持つ全てを俺にぶつけるつもりで掛かってこい。
あの『inworld』時代から築いてきた、競技戦闘の訓練に託した己の総てとプライド。俺への怒り。
俺を殺すつもりで向かって来い。でなきゃ、俺には勝てねぇぜ」
メニューを開き、今俺に装備出来るたったひとつの武器を″左手にも″装備した。
んま、俺に装備出来る武器なんてのは本当にたったひとつで、それはやっぱりチュートリアルリッパーっていう、いまひとつな武器性能の短刃剣なんだけどね。
コイツはさっきアスティ達とバリトンに入った時に買っておいたものだ。
本当は、チュートリアルリッパーならば装備として脱着出来るのかを実験する目的で買ったんだけどな。
流石に右手は、外したらもう二度と装備出来なくなる、なんて事になったら目も当てられないしな。
装備出来た時に最高の火力を出せるよう、きっちり右手に装備されたものと同じように+9まで強化済みだ。
新たに左の裏太腿にも装備され、現れたチュートリアルリッパーを右の物と同時に逆手で抜く。
これを見ていたエヴリデイも、鞘に納められていた剣を抜き払った。
「……っへへ。訓練以来だな、何年振りだ?」
「……そんな事はどうでもいい。始めるぞ」
エヴリデイは適当な位置にまで距離を取り、剣を構える。
なんだよつれねぇな。せっかくの再会なんだし、もっと思い出に浸ろうぜ。
「んじゃ、行くぜっ!」
こうして、エヴリデイとの決闘の幕が上がった。
エヴリデイ。いや、今の須藤巧が、一体どんな戦法を取ってくるかはまだ謎だらけだが、とにかく俺は勝つ為に戦うだけだ。
【結晶士】ソウキ:レベル14
所持スキルポイント:19
右手武器:チュートリアルリッパー+9
左手武器:チュートリアルリッパー+9
頭:無し
胴:赤竜鱗の胸当て
腕:赤竜鱗の籠手
脚:赤竜鱗のグリーヴ
アウター:アトラリアの法衣
インナー:無し
パンツ:無し
マント:無し
首:機械神使の首飾り
右手首:英雄のバングル
左手首:輝きのブレスレット[ブライトネスブルー]
リング:マニュアリング
所持スキル:
【錬成の心得:Ⅰ】
錬成した武器の耐久力を上げる。
錬成武器を装備している間、僅かに攻撃力が上昇する。
【錬成の心得:技】
錬成した武器の耐久力が僅かに上昇する。
一度の錬成でカウントされる錬成回数が2に増える。
【強化錬成術:Ⅰ】
複数の錬成石を使用して錬成した武器の攻撃力を大幅に上昇させる錬成が可能になる。
この効果によって錬成された武器の耐久力は大幅に減少する。
【拳闘武器錬成】
拳闘が錬成可能になる。
【マルチウェポン】
錬成武器専用の特殊ショートカットが使用可能になる。
【デュアル・エッジ】
同じ錬成石を2つ消費する事で、同一の片手用武器種を同時に両手へと錬成する事が可能となる。
装備限定スキル:
【女神の息吹】
装備している者のHPを、10秒毎に5%回復する。
【機械神使の鼓動】
2秒間に1度、装備者の最大HPの1.4%を回復する。
【力の源】
与ダメージが3%上昇する。
【輝きの光[ブライトネスブルー]】
明暗レベル3以下で発光し、周囲を照らし出す。
【闘竜の怒り】
被ダメージを15%軽減する。
竜族、竜人族に対する与ダメージを15%増加、被ダメージを20%軽減する。




