おかえりチュートリアルリッパー
「死んじまったな……クッソ~っ!!」
負けた。リザードサイスに。リザードサイスのHPが六割を切るまではかなり順調に、というかノーダメージで戦う事ができた。
六割、つまりはHPゲージが黄色へと差し掛かった時、リザードサイスの行動が大幅に変化し、攻撃速度も上昇した。
多分だけど、HPが二割か三割を切るとまた行動パターンが変化するものと俺は見ている。
そして敗因はもう一つ、錬成武器が思ってたよりずっと柔かったことだ。
単純に低級錬成石から作れる錬成武器が脆く設定されているだけなのか、錬成を重ねると錬成武器の耐久度を上げられる仕組みなのか。今はまだ不明な点が多い。
だけども、錬成武器自体の威力は凄まじいものだった。
三つの錬成石を使いきった後にチュートリアルリッパーで戦ったのだが、リザードサイスのHPを削る量は錬成武器の三分の一から四分の一程度まで落ちた。
単純火力としてはチュートリアルリッパーの三倍から四倍叩き出している事になる。これはレベル一で、一人が出せる火力としては相当な物なんじゃないか?
「ソウキさーんっ!!」
あー、リザードサイスとの戦闘を思い返していてコットの事をすっかりと忘れてしまっていた。
HPがゼロになると安全エリアへと戻されるらしい。
広がる湖が、まるで俺に釣りをしてくれと囁いているようだ。
「悪ぃなコット。死んじまったみてぇだ」
「そ、そんな。わたしの方こそ本当に回復しか出来なくてごめんなさいっ!」
回復だけしてくれた方がありがたかったんだけどね。前に出たら死ぬでしょ、君は。
「えっと、よく生きてここまで来れたな。ボスは追って来なかったのか?」
「わたしはボスモンスターとは距離があったので襲われませんでした。
でもソウキさんが消えちゃったので、急いでここまで走ってきたんです」
まぁ今日は疲れた。とりあえず他のプレイヤーも見かけない事だし、ログアウトしてだいだいと少し話をして今日は帰ろう。
「無理にアイツとの戦闘に付き合わせて悪かったな。今日はもう落ちるよ。明日も多分、会った頃くらいの時間には居ると思うけど」
「じ、じゃあ……わたしもその位の時間にここに居るようにします。あの……フレンド申請してもいいですか?」
まぁ、断る理由はないよね。同じユニーク種持ち同士だし。
「あぁ、こっちからもお願いしたい」
それを聞いたコットはメニューを操作し始め、俺の目の前には、[コットさんからフレンド依頼が届いています]というウィンドウが現れた。
コットとフレンド登録を済ませた俺はコットに向け、「またな」と告げてログアウトした。
明日も残りのユニーク種持ちIDが誕生するまで、上がらないレベルに苦悩しながら狩りをするんだろうなと思いながら。
(そういや、ディランはおろか、だいだいらしきキャラにも会わなかったな。まぁいいや、明日にでも待ち合わせて三人で行きゃあリザードサイスも倒せるだろ)
現実に戻ってきた俺を待っていたのは、優雅にソファに座り飲み物を啜るだいだいの姿だった。
「悪い。待たせちまったか?」
UPCの席から立ち上がり、俺はだいだいの元へと向かう。
「随分長く篭っていたな。レベルが上がらない割には」
「まぁ、戦闘に慣れたかったしな。あぁそうだ、だいだい錬成石って余ってないか?」
「錬成石? 一体何に使うんだ? あんなの使えるのは当分先だぞ」
他のプレイヤーにとって使うのは当分先でも、俺にとっては今すぐ大量確保したいアイテムなんだよな……。
「いや、なんか俺、錬成石を使う職業を引き当てたみたいなんだよね」
「何だと?」
「うん、まぁとりあえず明日またここに来るわ。
そこで詳しい話をしようぜ。向こうで紹介したい奴も居るしな」
簡単に『カラミティグランド』の遊び方を改めてだいだいから聞いたが、結局の所はユニーク種IDが全て出揃って正式サービスが開始されるまでは、謎多きゲームであるとしか答えられないとのこと。
因みにエリアボス、フィールドボスは現時点ではとても戦えるレベルでは無いらしい。
そんなエリアボスのHPを黄色のゾーンまで持っていったのも、だいだいはかなり驚いていた。
やはり、ユニークな職業は『カラミティグランド』の中ではかなり優遇された性能のようだ。
それを活かしてあのトカゲをいっぺん狩っておきたいのはあるな。
なんにしても、錬成石をリザードサイスを倒せる程の量を確保するまでは、チュートリアルリッパーで暫くは戦わなければならない。
「サンキューだいだい。明日は仕事終わったら自分の車でだいだいの家まで行くから」
「わかった。早く来いよ」
無茶言う。だいだいの車を見送って、牛丼屋の駐車場に停めていた自分の車へと向かう。
……そこで俺は異変に気づいた。
「ん? あっ……!」
……長時間駐車により、俺は牛丼屋に罰金五千円を払って家に帰りました。死にたい。