異世界魔王はエン・ルに降り立つ 3
もう少し長くても良いのかどうかが、分からない。
『古来の村』は、本当にそのまま意味で、この世界で初めて出来た村であるためそう名付けられたらしい。
そのまま名前にするとは……と思ったが、ネーミングセンスの無い俺がとやかく言うものでもないか。そう思いつつ、村の一点を目指すネルとルゥの後ろを付いていく。
村の中を歩いていれば、珍しそうに俺を見る村人がいる。薪割りや植物を磨り潰していたが、休憩する振りをしてこちらを見る。
村の人間の服装は革のズボンに、服も革やウールで作られたものと……村の建物も木と藁で作られた、簡素な物が多い。
ネルの服装から察してはいたが、文明としては発展途中と言うところか。
「あそこ、あそこにルゥのおじいさんがいるんだ」
「村長も近くの家で住んでるよ!」
目的地が近付けば、ネルとルゥの二人は突然駆け出す。無駄に元気が良い。
そして、大きな岩だと思いながら近付いて見てみれば、ルゥよりも三回り……いや、もっと大きなドラゴンが猫のように丸くなり、眠っていた。
寝返りをすれば、村長の家らしき建物が簡単に潰れそうだ。
「おじいちゃん、お客さんだよー起きてー!」
「あ、村長。迷子です!」
その紹介はどうなんだ。
ルゥが巨大なドラゴンに乗って揺すり起こしていれば、巨大な目を閉じていた瞼が開き、周りを見渡してから俺を見つめる。
おじいさんと呼ばれるからにはかなりの高齢だろうが、その瞳はアクアマリンのように輝き、見惚れるような美しさだ。
「おや……珍しい、この世界の者ではなさそうだ。お若いの……いや、わしよりは年がいってそうかのう……ホッホッホッ……」
巨大な口が少し動けば、突風と同時に言葉が放たれる。
少し動いただけでこの吐息、そして、その内容に驚き目を見開く。
「一目で分かるか」
「あぁ、少なくとも人間ではなかろう……魔王様に似た気配だと思ってたよ、人ならざる者よ……」
その上、俺を人間ではないと見破った。
ルゥはその会話を不思議そうに首を傾げて聞いていたが、ネルと村長はえっと声を上げながら俺と巨大なドラゴンを交互に見ている。
「それで、迷い人よ……わしに何が用か?」
巨大なドラゴンが起き上がれば周りの迷惑になるからか、起き上がりたそうにしつつも変わらぬ体勢のまま話を続ける。
「俺はサタン。この世界の者ではない、その為に元の世界に戻りたい。貴方なら分かるかもしれないと、ネルとルゥが言っていましたのでお伺いに参りました」
「ほうほう……ホッホッホッ……すまんのう、他の世界への行き来はわしには分からぬよ。そこまでの力はもっとらんのでな……魔王様に会われよ、見返りを求められるだろうが、願いを聞き届けてくれようぞ……」
頭を垂れ、名乗り、目的を話してみたが、まあそう簡単に解決できる訳も無く。
だが、この世界の魔王は世界の行き来が出来るかもしれない力を持つのだろう、希望はある。
そして、このドラゴンも『サタン』と言う名を知らないのだろう。珍しい名と呟き、この村では浮いている俺の格好を見ている。
「珍しい客人だ、もう少し話を続けてはみたいが……急いでおるのだろう、満足に動けぬ老いぼれを忘れておくれ」
「何を言いますか。貴方のお陰で次の目標が定まりました。この世界の魔王なら可能かもしれないと言う希望も、見つかりましたしね」
残念そうに目を閉じるドラゴンに、俺も残念そうな口振りで答える。
実際、珍しいドラゴン……それも高齢のドラゴンに会えるなんて、滅多にない。もっと話をしていたい。
だが、帰らなければいけない。先程から頭の中が五月蝿くて仕方がないからだ。
「希望が湧いたのであれば、わしも嬉しく感じよう……しかし、魔王様の居る城へ向かうのならば、ドラゴンが必要となる。ドラゴンがいても、数日は掛かってしまうのでな……」
それは、そこのルゥにでも頼めば受けて貰えそうだが……巨大なドラゴンが本当に言いたいことは違うのだろう。
「杞憂かもしれぬが、最近、風が騒めく気がするのでな……お主なら問題はなさそうだが、気をつけよ……」
「ご忠告、有難う御座います」
この世界は、気味が悪いぐらいに平和に感じていたが……何かの前兆だったのか。俺が来たから、ではなさそうだ。
少なくともこの村は、平和だ。だが、外はどうだ。
他にも浮いている島はあるだろう、浮いていない島もあるだろう。
嫌な予感が過りつつも、俺はこの世界の魔王に会わなければいけない。
それしか、今の俺には分からない。
大体2000字以内に収めようと思っていますが、もっとあっても良いのか……