異世界魔王はエン・ルに降り立つ 2
続きになります。
サタン……それは、エン・ルとは別の世界に存在する魔王の名。
かつては神に仕える者であったが神に歯向かい堕ちてしまったとも、世界の憎悪が溢れ生まれた存在とも、悪霊とも言われ、人々を恐怖で陥れる者と言われていた。
その姿も様々で、人ならざる存在として、神の御使いの姿のままとして、そこらの人間では霧にしか見えないとして、人々によって伝えられていた。
実際は、人の姿をしているし、仕方がないから魔王になっただけだが。
「変わった名前だね、本当に知らない人だ」
この世界の住民であるネルは、ルゥと言うドラゴンの背に乗りつつ言った。
サタンと言う名を聞いたことが無いとは、魔王は存在しない世界なのだろうか。
「魔王様なら知ってるかもね!」
いるのかよ。
心の中でツッコミを入れつつ、俺もルゥの背中に乗ってみる。俺の居た世界にもドラゴンは存在するが、乗るのは初めてだ。
乗ってからもルゥの様子を見ているが、特に問題はなさそうで安心する。
「おじいちゃんも知ってるかもしれないし、とにかく乗ったね!?いっくよー!!」
俺が背に乗ったことを確認すると、ルゥは元気よく声を上げながら……いや、雄叫びか?ともかく、そうして空を飛ぶ。
一瞬にして地上から大分離れた空へ、あまりの勢いに落ちそうになりつつも体勢を整える。
ネルは慣れているのか、平気そうだ。時々見えるその横顔には、笑顔が貼り付いている。
「……凄いな……ここは、空島だったのか」
「おじさん、この島のことも知らなかったの!?」
「サタンだ」
さっきまで俺が立っていた場所を見下ろせば、そこは空島。海も見えるが、巨大な影が覆っていることからこの島の正体に気付けた。
ちなみに、特に島の名前はないらしい。いや、『空島』が名前かもしれん。
この空島の事も知らない俺を、信じられないような顔でネルはこちらを見ている。そんなネルに、余所見は危ないぞ。と前を向くように促しつつ島について問う。
「あぁ、本当に気付けばこの世界、そして空島の上にいた。島はずっと浮いているのか」
「不思議だなぁ。そうだよ、ずっとずーっと浮いてるのさ!初代魔王様が浮かべたらしいよ!」
「魔王様すっごいんだぞー!」
初代魔王、か。今の魔王は何代目かは分からんが、とにかくこの世界の歴史も長いらしい。
それに、島を浮かべさせる程の力を持ち、代が変わっても浮き続けている……争いは避けるべきか……。
その後、村に着くまでネルとルゥはその『魔王様』の話を続ける。
「魔王様はね、すっごく強いし、世界と共に生きている人なんだ!」
「この世界に魔王様は絶対一人、その時の魔王様で世界は動くんだよー!」
「僕たち人間や、ルゥのようなドラゴン、牛や馬、ゴブリンやフェアリーも今は仲良く出来るのも、魔王様のおかげなんだ」
それ、魔王と言うより神では?
そう気になりつつも、二人の言葉に少し違和感を感じた。二人が心から称賛していることはよく分かる。
だが、今「は」?空から見た所、過去に争いがあったようにも見えない。平和な草原、森、そしておそらくネル達の言う村が見える。
それに、魔王は絶対に一人……ここの魔王も、継承と言う形か、それとも……。
「後数秒でドーン!ってなるよー!」
「おじさ……サタン、ちゃんと僕にしがみついてて!」
とりあえず速度制限を守って安全運転を心掛けてくれ……そう思っていれば、強い衝撃が訪れる。着陸したようだが……この衝撃に耐えられているネルは、本当に人間か?
そんな短い空の旅を終えて、ネルとルゥの住む『古来の村』に辿り着いた。
いやなんだその名前!
基本的に地文字はサタンの心の中のものとなっております。